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最新シネマ特集〜めぐみ−引き裂かれた家族の30年〜

あまりにも長すぎる闘いを紐解く

1977年11月15日の朝、いつものように家を出た娘、めぐみ。バドミントンの練習で遅いのかと思ったけれども、迎えにいった体育館にはいない。双子の弟を持つやさしい娘が家出するなんて考えられなかった。それから20年、あらゆる方法で娘を探し続ける家族の元に、「北朝鮮に拉致された」という信じられない事実が突きつけられる。そして、30年。家族の戦いの歴史は、まだ続いている。2002年の小泉総理(当時)の初訪朝の記事を読み、拉致事件について知ったアメリカ人監督によるドキュメンタリーは、無関心だった日本人と日本政府の姿を紐解き、夫妻の今なお続く闘いの姿を伝える1本だ。

拉致状況の検証、被害者家族のインタビュー、拉致被害者の帰国映像など、ニュースやドキュメンタリー番組でも使われた映像を使いながらも、より実像を伝えているのは、当時報道されたあらゆる映像を再構築している点だ。当時の記事を書いた記者、ワイドショー番組の映像の引用から、10年もの長い時間「拉致」ではなく「失踪」と思われ続けていたことがわかる。「小川宏ショー」に家族全員で出演し、他の失踪者の家族とともにめぐみさんに語りかける母・早紀江さんの姿。あれから30年。幾度コメントを求められても常に真摯に答えようとする夫妻の姿は変わらない。ただ、取り上げる側・見る側の意識は確実に変わってきている。変えたのは、まぎれもなく彼らが幾たびも重ねてきた活動の成果だ。政府をも動かすまでになった二人は、普通の銀行員とその妻だった。その幸せな家庭を壊され、大切な家族を奪われ、そしていまだ戻らない悲しい思いを語るということは、自分で自分の心をナイフで傷つけ続ける行為に等しいであろう。

同じ国で生まれて数年の実子に虐待をする親がいる一方で、30年間ずっと大切な娘の行方を捜し続け、ついには国をも動かした横田夫妻のような愛を力にする親もいる。映画は拉致問題の歴史を克明に編む一方で、親の無償の愛の姿を丁寧に伝えてもいる。

そして、あなたはこの今なお解決されない問題を、この映画を、どう感じるのだろう。

めぐみ −引き裂かれた家族の30年

監督:クリス・シェリダン&パティ・キム
出演:横田滋、横田早紀江、増元照明
配給:ギャガ・コミュニケーションズ

2006年11月25日(土) シネマGAGA!他全国順次公開

http://www.megumiyokota.com/

(C)Safari media LLC 2004

筆者プロフィール
北本祐子
+Dstyle編集担当。
雑誌編集畑から異動によりインターネットの世界にデビュー。
映画は本数よりも、好きな作品を何度も見る派。それでも、年間鑑賞作品数はDVDを入れると200本ぐらい。3度の飯もお酒も好きだけど、甘いものがもっと好き。会社の近くのパティスリー・サダハル・アオキのスイーツを食べ尽くすのが目下の目標。




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