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焼酎ぐびなび

第十回 芋焼酎の本場・鹿児島に蔵元を訪ねる〜師魂蔵そして芋畑

 前の日に天文館の夜をしっかり満喫して、この日は朝から日置市に向かった。鹿児島市内から車で西に1時間弱といった日置市は、人口は約5万人。海沿いにある風光明媚な吹上浜は日本三大砂丘に数えられており、ウミガメの産卵地としても有名である。この日置市日吉町に小正醸造の『日置蒸溜蔵』は在る。ここで数十種類に及ぶ小正醸造のすべての商品が造られているのだ。

小正醸造の商品ラインナップの数々

 その商品の中でも特に小正醸造の今のあり方を示しているのが、芋焼酎かめ壺貯蔵『蔵の師魂』である。この焼酎は『日置蒸溜蔵』の敷地内にただならぬ存在感を見せる『師魂蔵』で仕込まれ、こだわりが随所に見られる逸品だ。
 芋は契約農家によって丹精こめて育てられ、芋選別の女性陣によって、厳しく選別された黄金千貫。麹米も金峰町産のコシヒカリ。仕込み水は敷地からこんこんと沸き続ける井戸水、これを昔ながらの「もろぶた」(麹をつける時に使用する木枠のふたのようなもの)や、かめ壺を使って仕込む。蒸溜器は木桶蒸溜器を使い、貯蔵もかめ壺で約3年寝かせる。芋焼酎ならではの豪快さと熟成された酒ならではの落ち着きを併せ持ち、筆者も非常に好きな銘柄のひとつである。

『師魂蔵』の外観
左:昔のつくりを再現した木樽蒸溜器、中央:酒を貯蔵するかめ壺が並ぶ、右:厳しく選別され、形を整えられる芋

 午後には「蔵の師魂」の原材料になっている黄金千貫の生産農家を訪れるため、蔵を後にした。その道中、街道沿いの食堂で食事をすることにしたのだが、そこで、なんと首折れサバ定食があった。「首折れサバ」とは獲ったばかりのサバを、鮮度を保つため、首を折って血を出すところから名付けられている。思わぬところで鹿児島の味を堪能できた。

 『蔵の師魂』の原材料の芋はすべて、日置市から南にさらに下った金峰町農家、東馬場伸さんの手によってつくられている。東馬場さんは自らを「土つくり百姓」と名乗るほど、土壌作りに力をいれている農家の方である。
そういった農業への探究心もあったことから、平成13年には「農林水産祭天皇杯」を「養蚕・地域特産部門」において受賞している。(農林水産祭は農林水産業の技術および経営の改善、意欲の向上を図る目的で毎年開催され、その中で行われる各種表彰事業で、農林水産大臣賞を受賞した個人や団体の中から、性質・内容が特に優れており、広く社会の賞賛に価するものに天皇杯が授与される)
 有機肥料の投入や減農薬への取り組みはもちろんのこと、経営の改善化や、地元への農業後継者の人材育成などの貢献も含めて表彰されている。
 実際に東馬場さんのつくった芋をみせてもらったのだが、他の生産農家のつくったものより明らかに大きい。しかも、表面が非常にツルツルしているのだ。土壌改良と、よい種芋を選別した結果だという。焼酎造りにおいて、表面がツルツルしていると芋を洗うのに非常に都合がよく、無駄も少ないのだ。先ほど触れた、芋選別においてもいつも優秀な成績を修めているそうだ。

 小正醸造は蔵元として毎年、苗植えなどにも率先して参加しているということだ。焼酎造りは蔵元だけで行えるわけではなく、農家の協力が必要不可欠である。
 つまり、良質の芋をただ購入してくるという訳ではなく、蔵元も常に一緒に原材料を作っていくという姿勢が非常に大事であることを感じさせてくれた。
 実は、今回のお土産には東馬場さんの畑から小さな芋をいただいた。コップにつけておくと芽が出てくるというのだ。自宅で試しに育ててみようと思う。

 今までにも鹿児島を取材した際に、いくつもの蔵元を見てまわってはいたのだが、今回は初めて芋の生産農家まで訪れることができ、とても有意義だった。これでまた一歩、芋焼酎の美味しさの秘密に近づけた気がする。

左:14.7kgという非常に立派な黄金千貫、中央:『蔵の師魂』の原料芋を一手に作る東馬場さん、右:小正醸造の古河さんも一緒に

筆者紹介
橋本 裕之(ハシモト ヒロユキ)

有限会社デジほん社長 SSI認定焼酎アドバイザー。
株式会社ダイヤモンド社で編集者として『旨い!本格焼酎』(著・山同敦子)の企画、編集などに携わる。また、モバイルサイト情報誌『iして! ケータイサイトの歩き方』の編集統括を務めた以降はモバイル業界に関わるようになり、株式会社ドワンゴを経て、2005年6月に独立し有限会社デジほんを設立。デジタル、アナログを問わず、コンテンツを広くプロデュース、運用している。最近ではスケート界の裏を深くえぐった『愛するスケートに何が起こったのか?』(著・渡部絵美)を手がけている。

http://www.digifon.jp/




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