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ビデオカメラ2011春モデル、3つの傾向(1/2 ページ)

» 2011年01月20日 09時49分 公開
[渡邊宏,ITmedia]

 今年もビデオカメラの新モデルが各社より登場する時期となった。AVCHD形式でのフルハイビジョン(1920×1080ピクセル)撮影が標準的なものとなって久しく、各社それぞれにフルHD撮影以外の付加価値を備えたモデルを多く発表してきた。まだ春商戦に向けた全モデルが登場したかは微妙ではあるが、それでも相当な数の製品が発表されている。詳細な実機レビューの前に、春モデルの傾向と各社製品の主立った特徴を確認しておこう。

今春モデルの傾向(1)――レンズの広角化

 「○倍ズームで遠くのお子さんの笑顔もクッキリ」――運動会や入学/卒業式など家族イベントを撮影する機会としての需要が高いビデオカメラにおいてズーム倍率、ひいては焦点距離の長さはアピールポイントの1つであることは今も変わらない。

 しかし、今春モデルをみると、ソニー「HDR-CX560V」は26.3ミリから、パナソニック「HDC-TM90」は28ミリからなど、中級機では焦点距離を広角側に振ったモデルが増えている。広角側に振ることで望遠時の焦点距離が短くなっている(あるいは望遠倍率を落としている)モデルもあるが、これは望遠撮影をある程度スポイルすることになっても、イベント時だけではなく、自宅内など日常の風景も撮影したいという需要に応えた、あるいはそうした需要を喚起しようという意図の表れだろう。

photophoto 26.3ミリからのレンズを搭載するソニー「HDR-CX560V」(写真=左)と29ミリ〜のレンズを搭載するパナソニック「HDC-TM90」(写真=右)。HDC-TM90は焦点距離29〜729ミリの21倍ズームと望遠にも強い

 興味深いのはこの広角化トレンドについて、メーカーおよび製品のキャラクター次第で対応がはっきり分かれていることだろう。春発表製品についていえばソニーとビクターは広角化に積極的だが、キヤノンはズーム倍率重視で広角化には消極的。パナソニックはモデルごとに対応を分けており、HDC-TM90/85は焦点距離29〜729ミリの21倍ズームと望遠にも強いが、「世界最軽量」をうたうエントリークラスの「HDC-TM25」は焦点距離42.9〜721ミリの16.8倍ズームと倍率重視の設定になっている。

 広角か望遠かはどちらが正しいというものではないが、レンズの広角化はコンパクトデジタルカメラも通過した道であり、ビデオカメラが日常で常用する製品を指向する“脱イベントカメラ”化を進めるならば、今後も広角よりのレンズを搭載した製品は増えると予想される。

今春モデルの傾向(2)――「見ていて楽しい映像」のアシスト

 ビデオカメラの市場は年間約140万台でここ数年横ばいであり、その原因の1つとして、撮影した映像が撮りっぱなしで活用されていない「映像の死蔵化」を指摘する声もある。イベントの撮影に使われても映像は本体内に保存しっぱなしとは、ビデオカメラを購入した人の多くが経験していることではないかと思う。

 写真に比べて映像は見るものの視覚と聴覚、そして時間を奪う。映像制作のプロが作るテレビ放送に見慣れた目からすればいくら写っているのが友人や家族であっても、素人の撮影した無編集の映像を見続けるのは結構苦痛なものである。そして映像は撮影したもののメモリカードやパソコンのHDDに死蔵され続けていく。

 これまでビデオカメラは「キレイに撮る」に注力し続けており、簡易編集機能やGPS搭載などで「見せる」ことに力を注いだ製品もあったものの、大きなブレイクには至らなかった。しかし、今春には「見ていて楽しい映像」をアシストする機能の搭載をいくつかの製品が果たしている。

photo キヤノン「iVIS HF M43」。撮影の「シナリオ」をプリセットすることで、見ていて楽しい映像の撮影をアシストする機能を備える

 方法としては大きく分けて2つあり、1つはキヤノン「iVIS HF M43」などの「撮影シナリオ」機能といった、「撮影方法の提案」。撮影シナリオ機能は、「旅行」「キッズ」「学校行事」「スポーツ」「ブログ」など10の撮影シナリオがプリセットされており、画面の指示に従って撮影を続けていくだけで、ストーリー性のある映像を撮影できるように工夫されている。

 もうひとつは編集の自動化。パナソニック「HDC-TM90」などは再生時に、自動的におすすめのシーンをカメラが自動的に抽出し、フェードイン/アウトなどの効果をはさみながら短編映像を作り出してくれる「おまかせムービースライドショー」を備えており、ソニー「HDR-CX560V」などは撮影時間や撮影場所などを元に「イベント」単位に映像を分類して閲覧できる「イベントブラウズ」によって大量の映像データをストレスなく閲覧できる。

 まだ実機を長時間使い込む機会に恵まれていないため、これらのアシスト機能がどれだけ利用者に負担をかけずに「見ていて楽しい映像」を作り出してくれるかは未知数だが、新たな提案の1つとして注目したい。

今春モデルの傾向(3)――3D対応モデルの増加

photo レンズが2つ並ぶ“フルハイビジョン3Dハンディカム”「HDR-TD10」

 テレビの世界で2010年は「3D元年」とも言える年だった。全製品の対応とまでは行かず基本的に上位機種への搭載に留まってはいるものの、3D映像を家庭で楽しめる環境が徐々に整備されつつあることは間違いない。

 映像の出口であるテレビの3D化が進み、放送やパッケージ、ゲームの対応も進む中で最も出遅れていたのがビデオカメラの世界だった。3D撮影が可能な可能なビデオカメラとしては昨年夏にパナソニックが「HDC-TM750/650」を投入していたきりだったが、今春はソニーとビクターも追従してきた。

 ソニー「HDR-TD10」とビクター「GS-TD1」はいずれもレンズと撮像素子を2つ備えており、HDC-TM750/650とは異なり「フルハイビジョン3D」の撮影を行える。また、ビクター「GZ-HM990」は本体に2D-3D変換回路を搭載しており、疑似的とはいえるものの“自前の3D映像”を体験させてくれる。

 ただ、3Dテレビは各社から登場しているものの普及はこれからという観測(3Dテレビ4社出そろう 「普及元年」は期待はずれ?)もあり、どれだけ3D対応ビデオカメラが市場に受け入れられるかはまだ未知数である。それに撮影した3D映像の補完や編集についても環境の整備はこれからだ。

 いずれにしてもビデオカメラの主要プレーヤーから3D撮影機が登場したことは事実であり、注目すべきトレンドとして覚えておくべきだろう。


 そのほかにも記録メディアの全面的なフラッシュメモリ化(現時点では今春モデルにHDDモデルはない)、裏面照射型センサーとタッチパネル液晶の採用増などといったトレンドもあるが、これらについては後日掲載していく予定である各製品のレビュー記事に筆を譲ろう。

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