Interview:ShowNetのトラブルは?

【国内記事】 2001.06.08

 最先端のネットワークを来場者に見せてくれるShowNetは,N+Iを象徴する存在だ。「Networld + Ineterop 2001 Tokyo」で構築されたShowNetは,さまざまなベンダーが集まり,まだ一般向けに発表されていないベータ版の機器も利用して構築されているという。

 準備期間を経て,展示会場がオープンしたこの3日間,ShowNetを運用するNOC(ネットワークオペレーションセンター)ではどのようなトラブルが起こっていたのだろうか? N+I Tokyoが幕を下ろす6月8日,NOCの運営に当たった奈良先端科学技術大学院大学の山口英教授に話を聞いた。

ZDNet ShowNetでは,常に最新のネットワークを構築し,来場者に次世代のネットワークの姿を見せてくれますね。

山口 新しい技術をどんどん導入しますので,ShowNetの構築は,非常にチャレンジングです。1999年はDWDM,2000年はDSLやPacket over SONET,そして今年は,WDMリングとロングリーチイーサネット,IPv6,10ギガビットイーサネットのトライアル版など,ホカホカの技術を利用しています。

ZDNet 新しい技術となれば,多くのトラブルが予想されます。運用現場で実際に起こったトラブルにはどのようなものがありましたか?

山口 ネットワーク構築を開始したころは,ルータの挙動が不審でしたが,2,3週間の準備期間でかなり減らすことができました。今年は例年になく,うまく動いていると言っていいでしょう。

 Interopは,Interoperability(相互運用性)という意味です。マルチベンダー環境で自社の機器を稼動させることで,製品を正式リリースする前の最後のブラッシュアップをかけたい企業もいます。ある企業は,プレス発表さえまだの機器を持ち込んで,テストも兼ねて動かしていますよ。

 またShowNetは,新しい技術開発を促進しようという試みでもありますから。ベンダーの開発部門と一緒に作業を進めます。まだベータ版の機器も多いので,機器の挙動がおかしくても,ソフトウェアの最新バージョンが届くやいなや,きちんと動き出すこともあります。

ZDNet 展示会場が実際にオープンしてからは,わずかなトラブルしか起こらなかったということですか?

山口 はい。今年のトラブル担当者は楽ですよ(笑)。ただ,熱は問題になりました。1日目は雨で,涼しくてよかったのですが,2日目の朝は晴れましたよね。あれは,正直言ってやばかったです。

 われわれが利用した機器は,データセンターのハウジング環境を想定して開発されたものがほとんどで,イベントホールに設置するのは厳しいのです。1枚のカードにギガビットイーサネットのポートが20個付いている機器なども出てきたように,高集積化も進んでいます。

 また,結露が発生すると大変なことになるので,湿度も問題になります。実は,去年のShowNetでカード1枚をショートさせてしまったのです。扇風機で湿気を飛ばし,温度を下げる努力はしていますが,限界があるかもしれません。

ZDNet もし3日間,好天が続いてしまったら,どうなったと考えていますか?

山口 そうなったらスポットクーラーを入れようと計画していました。熱は深刻です。守秘義務がありますので,実際の温度は明らかにできませんが,イベントホールという環境で,ShowNetを運用するのは,どんどん難しくなっています。来年のN+I Tokyoは,7月に開催されるので,さらなる対策を講じなくてはいけません。

ZDNet 今年の売りの1つはIPv6でしたが,うまく稼動しましたか?

山口 ベンダー間の接続に関しては苦労しましたし,細かいトラブルが発生しました。特にIPv6経験のあるネットワーク技術者が少ないので,運用側のケアレスミスも発生しました。ただ,思った以上にきちんと動くという印象を受けました。

 IPv6をサポートする今回のShowNetでは,マルチベンダーでネットワークを構成しています。具体的には,シスコシステムズがトライアル版を出してくれましたし,日本のベンダーで最も早くからこの分野に力を入れている日立製作所,そしてNEC,富士通も提供してくれました。これらは,まだ出来たてのホヤホヤで,こなれ切っていないものの,正常に動いています。

 IPv4の上にIPv6をデュアルスタックで乗せて運用すると,まだパフォーマンスに関しては疑問ですし,課題も多いです。ただ私は,IPv6は5年前のIPv4レベルに達していると感じています。ベンダーのサポート体制さえ整っていれば,いますぐ買って動かしても安心です。

ZDNet 出展企業のオフィスとブロードバンド接続する「ShowNet+MAN(メトロポリタンエリアネットワーク)」プロジェクトでトラブルは発生しませんでしたか?

山口 機器の設定ミスや設定し忘れがほとんどでした。あとは,セキュリティ設定を高くしすぎていたために接続できなかったことなどです。これらのトラブルは,今回のイベントのためにオフィスが一時的にブロードバンド接続したために発生したものと捉えています。今後,オフィスが常にブロードバンドでインターネット接続できる環境に置かれたら起こりえないものです。

 ソニーや住友電装は,オフィスと会場を結びつけたデモを見せてくれました。ShowNet+MANは,今回が始めての試みでしたが,すごいポテンシャルを持っていると感じました。われわれも楽しめました。

ZDNet 今回のShowNetを運用した経験で,企業やネットワークエンジニアに訴えたいことはありますか?

山口 ShowNetは,さまざまなベンダーが集うことに意義があります。さまざまな企業の機器を利用して構築したネットワークのデモは,プライベートショーでは絶対に見られません。今回も,新しくてまだ製品化されていなくても,使えそうな機器はすべて使いました。そして,すべてが動いています。

 ある特定ベンダーの機器しか採用しないという企業があります。そういう企業に,ShowNetが実際に稼動していることを見てもらって,「あそこ以外はダメ」という誤った認識を捨ててほしいですね。つまり,機器の選定条件として「どのベンダーの製品か」を重視するのではなく,値段や付加価値,実装密度など,機器そのもののメリットを比較して,最適なものを採用してほしいと考えています。

関連リンク

▼N+I Tokyoの公式Webサイト

[聞き手:井津元由比古 ,ITmedia]