e-Day:普及した携帯電話やPDAをうまく生かせ(前編)

【国内記事】 2001.07.17

 7月17日,相変わらず酷暑が続く東京・お台場のビッグサイトで「EXPO COMM WIRELESS JAPAN 2001」が開幕した。企業が新しいモーバイル端末やワイヤレス通信技術をいかにビジネスに生かしていくか,そのソリューションを紹介するワイヤレス専門の展示会も今年で6回を数える。

 先ごろインプレスがとりまとめた「インターネット白書2001」によると,日本のインターネット人口は,2000年2月の1937万7000人から1325万9000人増え,3263万6000人に達したという。中でも「携帯電話/PHSのみ」でインターネットを利用しているユーザー数の伸びは驚異的。昨年たった3万人だったものが652万5000人とざっと200倍だ。つまり,新しくインターネットを使い始めた人の約半数が携帯電話/PHSのみによる利用者ということになる。

 こうなると,カラフルな携帯電話やPHSがWIRELESS JAPANの展示フロアを占拠するのも仕方がない。携帯電話ショップの店頭のようにキラキラしたブースでJavaゲームをデモされると,いささか閉口するが,企業としてはこの瞬く間に普及した携帯情報端末をいかに活用していくかが,情報システム構築上の重要な課題となる。

 開幕前日の16日,東芝はPocket PCベースのGENIO eシリーズを発表し,国産コンピュータベンダーによる競争激化が予想されるPDA市場に本格参入を果たしたが,東芝本社で行われた記者発表会に同席した伊藤忠テクノサイエンス(CTC)の後藤攻社長は,敢えて携帯電話の話をしている。

「今年の新入社員196人すべてが携帯電話を持っていた。われわれは携帯電話を売っているわけではないが,いい商品が世の中に広まることで,それを生かした革新的なソリューションを開発し,システムを売るというわれわれのビジネスが生きてくる」と後藤氏。

 何でGENIOの発表会に同席するんですか? と営業部長から聞かれたそうだが,「彼はもうクビにしたい」とも。

 ただ,こうした携帯電話やPDAが企業の情報システムの中に入り込んでくると,真っ先に懸念されるのがセキュリティだ。いつでも,どこでも,どんなデバイスからでも企業情報にアクセスできるのはいいが,それだけ無防備になり,危険にさらされることになる。

 WIRELESS JAPANの展示フロアでは,インターネットの標準的な技術を利用しながらも,経路としてインターネットを使わずにクローズドなネットワークを構築するアプローチや,PDAに格納されたデータに暗号をかけるソフトウェアなどが紹介されていた。

 そもそもワイヤレス通信網は,回線交換網にしろパケットパケット交換網にしろ,インターネットを経由していない。そのため,通信事業者のセンターと企業を専用線やフレームリレーで接続してやれば,全くインターネット経由しない,いわばワイヤレスのイントラネットを構築できるわけだ。

 こうした「モーバイルイントラネット」を積極的にアピールしていたのがKDDI。

 合併によってサービスの幅が広がった同社では,DDIポケットのDAL(Direct Access Link:全国一律料金のワンナンバーアクセス)と最近売り出し中のPAS(Pocket AirH" Access Service),auおよびTu-Kaのcdma packet access 64やezweb網といった多種多様なワイヤレス通信サービスを提供している。

 あとは,ネットワークセンターと企業のルータをKDDIの専用線やフレームリレーでつないでやればいい。モビリティとセキュリティを両立できるモーバイルイントラネットの出来上がりだ。

 企業分割を余儀なくされたNTTグループには,なかなかやりにくい技だろう。KDDIにサポートの窓口を一本化できるのも企業にはメリットとなる。

 しかしパイプが安全でも,携帯情報端末を置き忘れたり,盗難されては元も子もない。

 フィンランドのエフ・セキュアは,Pocket PCやPalmデバイスに格納されたファイルを暗号化しておく「F-Secure ファイルクリプト」をデモした。安全な端末接続を実現する商用のSSH(Secure Shell)製品で知られる同社だが,今ではファイアウォール,アンチウイルス,およびVPN(Virtual Private Network)の各分野に品ぞろえを拡大しており,ノートブックPCまで含めた企業のネットワーク全体をカバーしている。

 日本エフ・セキュアの遠藤代一技術部長によれば,ファイル暗号化,アンチウイルスに続き,そのほかの製品もPDAに対応させていくという。

 企業にとって貴重なデータを携帯情報端末に格納しない方法もある。そのひとつがWindows 2000 Terminal Serviceを利用するものだ。

 ソウルのベンチャー企業,サイバーバンクは,VGA表示が可能なPocket PCデバイス「PC-EPhone」をこの春から韓国の主要なワイヤレス通信事業者に納入している。PC-EPhoneは,コンパックのiPAQ Pocketや東芝のGENIO eと同じ206MHzのStrongARMをエンジンとして搭載し,CF TYPE IIのスロットを装備するという機能性の高いパワフルなPDAだ。

 ちょうどCDウォークマンに4インチTFT液晶をはめ込んだようなPDAで,表示能力は640×480ピクセルと高い。10月末からは日本市場にも参入する計画だが,その表示能力と高速なワイヤレス通信インフラを生かし,Terminal ServiceのThinクライアント端末として企業に売り込みたいという。かな漢字変換システムとして,ATOK Pocketを採用するのもいい。

 Terminal Serviceクライアントを走らせ,SFAなどの業務アプリケーションをPC-EPhone上で利用できるようにするため,顧客の大切なデータを端末上に格納することはなく安全というわけだ。

 意外とPocket PCとTeminal Serviceの相性はいい。この先,モーバイルコンピューティングの主流になるかもしれない。

[浅井英二 ,ITmedia]