いよいよ本格化する、携帯電話の共通プラットフォーム化 神尾寿の時事日想:

» 2006年07月28日 11時28分 公開
[神尾寿,ITmedia]

 「(1990年代に)PDCを採用したのは失敗だったのかもしれない。もしあのとき、GSMを採用していたら、日本の携帯電話メーカーは(現在の11社に対して)5社しか生き残れなかったかもしれないが、それは世界に通用する5社になっていたはずだ」

 先日、とある昼食会で出た発言だ。彼はNTTドコモの開発部門に長く在籍し、新分野に転身したある業界キーマンの1人である。純国産の2G技術方式であるPDCは、世界的に広まったGSMに比べて、機能や性能で決して劣るものではない。当時のドコモが求めたビジネスのスピードや開発投資の回収を鑑みれば、PDC採用が“明らかな失策”とは言えないだろう。だが、そこから日本の携帯電話ビジネスが事実上の鎖国状態になってしまったのは一面の真実である。この内向きの傾向は、3G時代の今も続いている。

 むろん、鎖国が必ずしも悪かったわけではない。キャリア主導でサービスと端末をセットにし、インセンティブモデルをつけて販売するという日本型のモデルは、iモードを始めとする多くの新ビジネスと日本独自の市場を生み出した。特にコンシューマーサービスの分野では、日本市場は独自性が高いが、世界的に見ても発展している。

 しかしその一方で、日本市場“だけ”では市場の成熟と飽和のスピードも早い。特に端末市場は新規契約分が減少し、サービス分野の買い換え牽引力が少しでも落ちると、その影響を顕著に受ける。さらにMNPを筆頭にキャリア同士の競争激化が、端末コスト削減やインセンティブ圧縮の動きにつながり、内需が頼みである日本の携帯電話メーカーにとって苦しい状況が続く。

米TIの参加は、将来への布石

 7月27日、かねてから噂されていたNECと松下電器産業、パナソニックモバイルコミュニケーションズ(PMC)の、携帯電話開発の合併会社設立が発表された(7月27日の記事参照)。さらに、ここにNECエレクトロニクスと米Texas Instrumentsが加わり、携帯電話通信プラットフォーム半導体の共同開発メーカー、アドコアテックも誕生する(7月27日の記事参照)。今回の提携により、NECとPMCはコアチップなどハードウェアからOS、そして基本的なアプリケーションまでプラットフォームの共通化を図る。

 今回の提携の目的は、まずは国内市場向けのコスト削減と競争力強化だ。MNPからその後にかけてキャリアの端末コストに対する要求はさらに厳しくなることが予想され、さらにはインセンティブ制度の見直しが行われる可能性もある。携帯電話メーカーにとって開発効率の向上と、それによるコスト削減は至上命題だ。さらに国内市場の飽和により、メーカー同士の商品競争も激化する。今後は多品種少量の製品ラインアップを、市場ニーズの変化を敏感にキャッチアップしながら、従来よりも速いサイクルで投入できる体制が必要になるだろう。自動車業界がそうであったように、これらを実現する上で、プラットフォームの規模と競争力が重要になる。NECと松下が共通プラットフォームの効果を生かしつつ、どれだけ個性を打ち出して競争力を高められるか。注目されるところだ。

 さらに将来を見据えれば、プラットフォーム競争によって国内市場で生き残ったメーカーが、海外市場に本格的なチャレンジをすることになるだろう。今回、NECと松下が“もう1人のパートナー”としてTIを選んだのは、携帯電話メーカーとしての長期的な発展を考えれば、当然の選択といえる。

メーカー再編のあとに、世界で通用する力を

 今後のプラットフォーム化の流れでは、共通化される範囲の拡大と、規模の拡大が起こる。今回のNECと松下の例はメーカー同士の合従連衡だが、KDDIとクアルコムのau向け統一プラットフォームのように、キャリア主導で行われる場合もあるだろう(7月19日の記事参照)。共通プラットフォームの拡大と合従連衡は、メーカーの再編を促すだろう。その中では、付加価値機能やデバイス、商品企画力、ブランド力などで劣るメーカーが淘汰される可能性もある。

 願わくば、1社でも多くのメーカーが生き残り、世界に通用する力を手にしてほしいと思う。

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