「ICO」同様、既存のゲームと比べることがナンセンス:「ワンダと巨像」レビュー(2/3 ページ)
前作と同様、神秘的な物語
ワンダと巨像では、ICOと同様、物語のディティールは描き込まれていないが、冒頭のムービーから巨像と戦う理由の一端が伺える。
――りりしい青年ワンダは愛馬のアグロに乗り、ずっと旅を続けていた。崖の崩れた道を飛び越え、葉が舞い散る森を抜け、岩の下で雨宿りする。どれほど旅は続いたのか。ついに高度な技術で作られたとしか思えない優美なフォルムを持つ、長い長い橋にたどり着く。その先に待つのは、背の高い建造物。像が居並ぶ中、中央の祭壇へ奇妙な包みをそっと横たえる。布を取りのけると、それは魂を失った少女の遺骸だった。ワンダは「失ってしまった魂を、呼び戻してほしい」と頼む。すると天から降り注ぐ、光の中の声が答えた。「……そこに立ち並ぶ偶像が見えるだろう。その像をすべて……破壊するのだ」
こうして始まったワンダの試練は、すべての巨像を倒すまで続く。舞台となる「古えの地」は閉ざされた場所で人間はひとりも住んでいない。ただ湖や草原、砂漠、地底湖といった雄大な自然があるだけだ。そして、何のために作られたのか一切語られない遺跡やほこら、廃墟が朽ちた姿をさらしている。
基本的にゲームは、天の声の指示を受け、倒すべき巨像がいる場所へ向かうことで進む。スタートボタンで大きなマップは出るが、細かい道順まではわからない。頼りになるのは、明るい場所で剣を掲げたときの反射光で、この光線が集まる方向が巨像の居場所となる。だが、これはあくまで目安に過ぎない。フィールドは山や谷、断崖絶壁で区切られ、慣れていなければ迷ってしまう。巨像のもとへたどり着くのも一種のゲームと言えるのだ。
既存のゲームの文法から言えば、移動中、ザコ敵が襲ってきたり、ちょっとしたお使いをさせられたりするのが普通だが、ワンダと巨像にはそうした不必要な脇道はない。一応、フィールドにはトカゲがいて、倒すと腕力が上がるシッポが手に入る。また、特定の木には果実がなっていて、弓矢で落として食べると体力がアップする要素もある。しかし、この部分は非常にシンプルに作られているため、基本的にフィールドは移動のためだけにあると言ってもいいだろう。
あまりに淡々としていて、今までのアドベンチャーやRPGをやり慣れている人にとっては退屈に映るかもしれない。しかし、これも作り手の狙いと言える。作品世界への没入から冷めさせる部分は極力除かれている。その分、フィールドの景色の美しさが存分に伝わってくる。
アグロが思わずたじろぐ危険な崖から見下ろす底知れない谷、砂煙をあげて駆け抜ける奇岩が並ぶ砂漠、枯れ葉を跳ね上げて暗い森を抜けた目の前に、静かに横たわる湖……。光の濃淡はもちろん、空気の清濁まで感じられる。少しフェードがかったこの画面の美しさは、ゲームの中核となる巨像との戦いでも貫かれている。
巨像のデザインは巨人型、動物型、飛行型と多様性があり、ワンダと彼らが相まみえる様子は、どのシーンも迫力に満ち、切り取って絵にしたくなるほど印象的だ。しかも驚くことに通常画面とムービーの差はまったくない(ムービー中でもスティックで視点を動かせる)。
“ムービーは綺麗だけど、通常画面に戻ったらショボくて……”というありがちなギャップは、ワンダと巨像に限っては感じられなかった。極端に言えば、プレイも含めてすべてがムービーのクオリティでありたい、そんな作り手の高い理想が感じられる。
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