ひりひりとしびれるような緊迫感がたまらない――映画的な演出が際立つサスペンスアドベンチャー：「FAHRENHEIT」レビュー（3/4 ページ）

[小泉公仁，ITmedia]

映画的なカメラワークと、キャラクターの自然な演技に好感

　このゲームで特徴的なのは、キャラクターの心理状態をパラメーターで示し、プレーヤーの行動いかんで変動するというところ。心理状態が極端に低いと良からぬ結果を招くので、プレーヤーは彼らが平常心を保てるよう行動に気を配らなければならない。たとえば、彼らが精神的に消耗しているとき、傍にある食べ物や飲み物などをとらせるだけでも、心理状態が少し改善する。中には、その行動がどちらに転ぶか想像が付かないものもあるが、様々なアクションを積極的に行わせた方がストーリーの深奥に迫れる。

事件から一夜明け、自宅で目覚めたルーカス。昨夜のことは悪夢だったと信じたいが、両腕の傷でシーツが血に染まっているのを見て、改めて現実だったと思い知らされる。気を取り直してベッドから立ち上がるも、激しい頭痛に襲われ……

ベッドサイドにある頭痛薬を飲ませると、心理状態を示すパラメーターが少し上昇する。他にも、できるだけ日常と変わらない行動をさせてあげると、徐々に平静を取り戻していく

　また、“シネマチック・サイコスリラー”と称するだけあって、カメラワークやキャラクターの演技などが大変よくできていて、見せ場の多い作りに思えた。たとえば、画面を複数に割って、異なる場所で進行している出来事を同時並行的に見せるなど、流行りの海外ドラマでよく見られる演出をゲーム中に上手く取り入れている。

ルーカスのオフィスで、彼が席を外している間に証拠を物色するカーラ。分割された下の画面には、オフィスに戻ってくるルーカスの姿が描かれ、緊迫したムードを演出している。「24」にも少し似てる？

　グラフィックそのものは特筆に値するほどでもないが、キャラクターたちの表情や仕草が極めて自然で、モーションキャプチャーを多用した賜物と思う。それに加えて、ボイスアクトが大変うまい。日本版FAHRENHEITもボイスは英語のままだが、抑揚の効いた話しぶりや、やりとりの自然さにはまったくもって感心させられる。このポリゴンキャラクターらしからぬ“演技力”は、一見の価値がある。ただ、一部で日本語字幕の切り替わりが早すぎて読むのが追いつかなかったり、ボイスと字幕の内容が合致しないところがあるのは残念だが。

わたしのお気に入りのシーンは、ルーカスが“元”恋人のティファニーに頼まれて、ギターを弾いて聴かせるというムーディーな場面。なお、会話の展開次第では、このシーンに派生しない

ちょっとした仕草や表情など、大仰すぎない控えめな演技に好感。なお、この先は大人の時間なので、子供は早く寝るように……

　もう1つ感銘を受けたのは、主要キャラクターの生活も描いていて、そこにリアリティが感じられること。暮らしぶりや人生観を事細かく説明されると閉口ものだが、断片的にさりげない形で見せているため、プレーヤーの想像力が介入しやすい印象がある。

タイラーと同棲しているサマンサ。彼を愛してはいるが、刑事という危険と隣り合わせの仕事に少なからず不安を抱いている様子で、ときに拗ねたような態度を見せる。このように主要人物たちの私生活を窺わせるエピソードが挿入されることで、彼らの人物像にも深みが出てくる