「大神」はアートじゃない。すごく間口の広い、質の高いアクションアドベンチャーなんです:「大神」発売記念インタビュー(3/3 ページ)
実験作でも1発ネタでもない
―― その独特なグラフィックはもちろん、筆しらべというゲームシステムも相まって、注目を集めている大神ですが、新規タイトルであるだけに及び腰になっているユーザーが多いのも事実です。そういった人たちに何か伝えたいことはありますか?
稲葉 大神はアートじゃないんですよ。絵がすごく良いとか、筆しらべもとっぴなもののように思われることがあって、すべてが難しくてすべてが取っつきづらいみたいなイメージを持っている人もいると聞きます。ただ、新規タイトルとは言え、本当に新しい要素はこの2つだけで、後は安心して遊べるすごく質の高いアクションアドベンチャーなんです。
グラフィックと筆しらべが飛び抜けてすごく新規性があるように見えるので、ゲーム全体が一般人では付いていけない、アーティスティックな作品かのように見えてしまう。でも、そんなことはまったくないんです。むしろその2つぐらいしかハードルがないので、何の構えもいらない。訴えたい面白い仕掛けや要素はたくさんありますけど、純粋に気になったところに飛びついてもらえれば損はさせない、と言いたいですね。面白そうと思って飛びついたら、実験作の1発ネタみたいなタイトルだった、ということもありますけど、大神はそれらに分類されるゲームじゃないです。
―― ただ、パッと見てほかと違うと、新しいものなんじゃないかと思ってしまうユーザーもいます。そういうところで敬遠して欲しくないと?
稲葉 そうですね。むしろものすごく入りやすいゲームだと思いますよ。なじむのに時間が掛かりそうとか、クセのある人だけが楽しめる、アーティスティックな人たちが楽しめるとかではないです。今回は本当にいろんな人が楽しめる作品を作ったと自信を持って言えます。それは神谷を始めとしたスタッフもそう思っているはずです。取っつきにくいんじゃないかとか、本当にいらない心配はしないで欲しいと、強く言いたいですね。
神谷 ビューティフル ジョーに関しては確かに突っ走っちゃいましたけど……。ゲームセンターでギャラリーを背負いながらプレイすることに快感を覚える人にはストライクなんですよ、ビューティフル ジョーは。というよりも、僕はそこだけを見て作っていたんです。ただ、大神はそうじゃない。広く一般の方にも楽しめるものにしています。ビューティフル ジョーも間口が狭いわけじゃないんですけど、入ってもはじき飛ばされる。デビル メイ クライは辛いと思いつつも食べられますけど、ビューティフル ジョーは最初から激辛ですから(笑)。
―― その反動もあって大神は甘口だと?
稲葉 ことあるごとに“ビューティフル ジョーみたいに(激辛に)しないでくださいよ”って神谷に言い続けましたからね。その時は分かったよとは言うんですけど、本当に口だけなんですよ。“分かってるよ。でも、ここはこうしたほうが良くない?”とか、すぐに言い出すんです。
神谷 作ってるうちにちょっと攻めたくなっちゃうんですよね。このくらいはユーザーにやってもらってもいんじゃないの、とか思ってしまうんですけど、それはハードルが高いと。なので、ビューティフル ジョーみたいなアクション的な部分で喜ばせるんじゃなくて、そんなにすごいアクションは求められないけど、深みにハマっていく仕掛けというのがいろいろ入っています。こっちの隅っこのほうに何かあるんじゃないかと思って行ってみれば何かあるとか、ここでちょっと掘ったら何か出てくるかなとか、テクニックとは関係ない部分ですね。そういうところで深みにハメていく仕掛けがたくさんあるので、やり込もうと思えばどこまでもやり込めますよ。
稲葉 そこまで行くには相当もめましたけどね。ビューティフル ジョーみたいなゲームは、ユーザーのレベルが上がってもどこか1歩届かない。ただ、あと1歩で届くからもっとうまくなろうと思って、すごく力を入れてプレイするんです。ところが大神は最初からしっかりと届くんですよ。プレイさえすれば大神はプレーヤーのやりたいことが楽しめるように作ってあります。
ただ、ゲーマーと呼ばれるプレーヤーはそれを簡単に飛び超えちゃうのも事実ですから、そういうユーザーには、余裕のできた分での違った遊び、楽しみ方を見つけることができるように作っています。1本道ではなく、自分には余裕があるからこれを試してみよう、あれを試してみようと、いろんな深い遊びや脇道がある。足りてる感覚の中で、どんなレベルのプレーヤーでも楽しめるというゲームですね。
―― ものすごくユーザーフレンドリーに作っているということですか?
神谷 そうですね。ものすごくユーザーフレンドリーだと思います。そうしつつ僕たちがやりたい、ユーザーを楽しませたい遊び心は別に入れているという意味ですけど。
稲葉 難易度を低めに、というよりもみんなが届くところにするというのは難しいんですよ。ユーザーはプレイしているうちにゲームに慣れてきますし、それは作っている開発陣も一緒なんです。作っているうちにめちゃくちゃ簡単なゲームになる時期がある。そこで、じゃあもうちょっと難しくしようと言うと、一気に難易度が跳ね上がったりするんです。ROMを作るたびに難易度は変わっていきましたね。神谷は運悪く、超激ムズの時に頑張って作業をしていて……これじゃ駄目だと言ったら、心が折れてしまったこともありました(笑)。
―― 先ほどの話を聞く限り、イージー、ハードといった難易度が大神にはないということでしょうか?
神谷 難易度はないです。それをやりたくなかったんですよ。僕のイメージなんですけど、ゲームを始めた時にイージーとかハードとか、そういったものがある時点で敷居が高い気がする。あまりゲームがうまくない人はイージーを選ぶんでしょうけど、イージーを選ぶことは決して気持ちがいいものじゃないですよね? ハードならご褒美があるんじゃないのか、とか考えちゃうじゃないですか。大神は多くの人に楽しんでもらいたい作品ですから、普通に「始める」だけにしたんです。
稲葉 実は開発中、イージーモードを相談しに行ったことがあるんです。そうしたらキレられたんですよ(笑)。その時は難しくなりがちだったので、モード設定の必要があるんじゃないかという話をしに行ったんですけど、“そんなもん俺はやる気はないよ。やりたかったらおまえが勝手にやればいいじゃん”と言われたんです(笑)。ままならない難易度調整に疲れていたんだと思いますけど、抵抗感は本当にすごかったですね。
―― 難易度という点でも、間口の広い作品を意識したということですね。作品のボリュームはどれくらいになっているのでしょうか?
神谷 ボリュームはかなりあります。それはプレイしているうちにびっくりして欲しいので、具体的にどれくらいとは言いませんけど。
稲葉 大ボリュームですが、ベタ〜とした展開ではなくて、キレの良い展開です。やらされている感、まだやらなきゃならないのかといったものを感じることがないように作りました。それと、遊び終わった時には、大神のシナリオを神谷1人で書いたことにびっくりすると思いますよ。絶対にウソだろと言われる量なんですけど、本当ですから。今のうちに言っておきます(笑)。
―― なるほど、シナリオには特に注目してプレイしたいと思います。では最後に、ユーザーに向けてひと言いただけますでしょうか。
神谷 一見さんお断りのゲームじゃないから安心してください、というと何か変な気がしますね。ユーザーが自分の目を信じて遊ばないと駄目だ、じゃないとゲーム業界が駄目になるとかいうと、やっぱりビューティフル ジョーみたいなゲームなんじゃないのかと言われそうな気も(笑)。
う〜ん……大神は特徴的なゲーム、かつオリジナルの新規タイトルなので構えてしまう部分はもちろんあると思うんですよ。そうなるとやっぱりユーザーのほうからも信じて階段を上ってきてもらうしかないかな、とは思います。面白そうだと感じてくれたのであれば、新規タイトルだからという理由で様子見だけはしてほしくないですね。階段を上ってきてもらえば、それに応えるだけの内容にはなっているので、ぜひプレイしてみてください。
稲葉 ゲームは嗜好品ですから、すべての人が絶対に満足するとは言うことはできません。ただ、大神は本当にいろんな切り口があって、見る人によっていろんな顔がある。グラフィックや筆しらべにしてもそうですし、そのほかにも日本昔話風のストーリーだったり、アクションが多彩だったり……本当にたくさんあるんです。だからこそ、ちょっとでも気になったという部分があるのなら、買ってみてほしい、やってみてほしいですね。
それがどういうきっかけで入ってきたとしても、絶対に期待はずれだと思わないはずです。一方、大神を見てどこにも引っかかりを感じない人は、プレイしても面白くないかもしれません。ただ、これは何にだって言えることですよね? 何かひとつでも気になる部分があるのなら、買っても絶対に損はさせません。これだけは、これまでにないくらい自信を持って言えます。
―― 本日はありがとうございました。
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