“知る人ぞ知る名作”ではもったいない。実写映像が映えるPSPでこそプレイしてほしい:「街 〜運命の交差点〜 特別篇」レビュー(1/2 ページ)
あの伝説のサウンドノベルがPSPで復活! 「弟切草」、「かまいたちの夜」に続く第3の刺客が、今鮮やかによみがえる。
知る人ぞ知る名作サウンドノベル
ゲームファンにもそうでない人にも、どうしても遊んでもらいたいタイトルがある。それがサウンドノベル「街」だ。サウンドノベルとはチュンソフトが作り出した、テキストを読んでいくタイプのゲーム。1992年の第1弾「弟切草」を皮切りに、1994年の「かまいたちの夜」、1998年の街と続き、ゲーム業界に大きな衝撃と影響をもたらした。だが、弟切草やかまいたちの夜がいずれも高い知名度を誇るのに対し、街はそのクオリティに反して、もうひとつブレイクし切れていない印象がある。今回のリメイク版「街 〜運命の交差点〜 特別篇」は未プレイの人にこそ届いてほしい。それほどの名作なのだ。
街は一度プレイした人をとりこにして放さない。熱狂的なファンも多く、某ゲーム誌では発売後何年経っても、常に読者が好きなゲームランキングに入り続けていた。“こんなに面白いのにどうしてブームにならないのか?”、これはファンなら誰もが浮かべる疑問だが、そこにはいくつかの理由がある。
まずは街が実写映像を使っていること。当時、実写のゲームは珍しく、クオリティが低いものも多かったため、ユーザーには少なからずアレルギーがあった。また、“弟切草がホラー”、“かまいたちの夜がミステリー”と、明確なジャンルがあるのに対し、街は一口で説明しづらい。これも、ライトユーザーを引き込めなかった要因のひとつだろう。
ただ、これらのマイナス点は時代の変化やハード性能の向上で解消された。実際、PSPの美しい画面に実写の画像がよく映え、驚くほどピタリとハマっている。物語のジャンルに関しても、最近、小説の世界でホラーやミステリーといったくくりがゆるくなり、いろいろな方向性の小説が売れ出したのも追い風だ(美術ミステリーや医療ミステリーもあるように、街はある意味「運命ミステリー」と呼べるかもしれない)。手のひらサイズというPSPの特性も、小説に近いサウンドノベルのゲーム性に合っている。街ファンから言わせればようやく時代が追いついてきたといったところだろうか。
巨大な街が見せる運命劇場
先ほどから“街は名作だ”と書いてきたが、一体何がすごいのかというと、ズバリ作品のテーマ性になる。不特定多数の人間が集う“街”の特性を、見事に描き切っているのだ。渋谷にいる8人の主人公たち。彼らはそれぞれ赤の他人ながら、無意識にお互いの運命の鍵を握る。巨大な街だからこそ起こる偶然の奇跡が面白い。
8本のシナリオはこんな風に絡み合う。
例えば、細井美子のシナリオで、倉庫へ本を持っていった後、きちんと鍵を締めたとする。すると、牛尾政美のシナリオで、追われている牛尾が、本当なら鍵の開いた倉庫へ入り込み、袋のネズミになってしまうところを、他の場所へ行き難を逃れる。
また、篠田正志のシナリオでは、大金を要求され、慌てて親に電話するが、番号を間違えたとする。すると、市川文靖のシナリオで、市川は間違い電話ごときでは目が覚めないよう、大量の睡眠薬を飲み、永遠の眠りに落ちてしまう……。
各主人公のシナリオが密接にリンクしているので、ザッピングしながらバッドエンドにならないよう、すべてをラストへ導く。物語のテーマとゲーム性の絶妙なマッチングに脱帽する。
普段、私たちはどうしても自分中心に物事を考えがちだ。道で100円を拾ったら“ラッキー! 今日はツイてるな”と単純に思うが、裏を返せばそこに何らかの理由で100円を落としたアンラッキーな人がいるということ。あれだけたくさんの人が集う渋谷だから、運命の不思議な交差も数多く起こる。都会のミステリアスな側面を大胆に切り取った街。ゲームを遊んだあと渋谷に出れば、きっとスクランブル交差点の見方も変わってくるはずだ。
PSP版の注目はオマケシナリオ
さて、PSP版は移動マップや3段階の難易度設定など、基本的に1999年に出たプレイステーション版に準拠している。PSP版ならではのオマケ要素は、うさんくさい日本語をしゃべる自称・米軍パイロットのパトリック・ダンディと、現場1日目にして早くも辞めることばかり考えている、刑事ドラマの新人ADサギ山勇、2人の人気キャラクターのシナリオが追加されたことだ。残念ながらゲーム形式にはなっていないが、存在感を発揮していた脇役のエピソードが読めるのはうれしい。ちなみにサギ山を演じていたのは若き日の窪塚洋介。街には意外なタレントも出演しているので、そうした顔を見つけるのも楽しみのひとつだろう。
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