女優・田中麗奈がアニメ声優に初挑戦――期待の新作アニメ「FLAG」第1話試写会をリポート(2/2 ページ)
では、そのアニメをテレビではなくネット配信にしたのはなぜなのか。その答えはいたって単純なものだ。プロデューサーの植田氏は少し笑いながらもこう語っていた。「下世話な話で申しわけないのですが、目立ちたかったんです。今、週に100本近くのアニメが放映されている中で、ほかの作品とは違うという印象を残したかったんです」。
この「目立たせる」という考え方は、ネット配信という部分だけでなく、田中麗奈さんの起用にも表れている。「見ていただければわかるのですが、本作は白州の視点で描かれているために、彼女は主人公にもかかわらずほとんど登場しないんですね。そこで僕は、どうすれば白州冴子というキャラクターの存在感を出すことができるかと悩んだんです」。そこで思いついたのが田中麗奈さんの起用というわけだ。「声優としての技術うんぬんではなく、人や演技そのものに存在感のある田中さんに演じていただきたいと思ったんです」。
とはいえ、彼女は2006年公開のものだけでも2本の新作映画公開を控える売れっ子女優。時間的な都合などもあるだろうし、オファーをしたところですべてが受け入れられるわけではないだろう。そこには、植田プロデューサーの情熱がこもった、こんなエピソードが隠されていた。「僕は毎日、田中さん事務所に通ったんです。お忙しいのは重々承知なのですが、この作品にお力を貸して頂きたいと社長さんにお願いをさせていただきました。だから、ようやくこの日を迎えられて、正直ほっとしています」。
とはいえ、田中麗奈さんはこの作品がアニメ声優初挑戦。これまで経験のない仕事に戸惑いはなかったのだろうか。田中さん曰く「お話をいただいたときには、やはり驚きはありました。もっと素晴らしい声優さんはたくさんいるのに、どうして私なのだろうと」。しかし、そこに「(自分の何かを引きつける)出会いがあった」のだと言う。「映像を見てみたら、(ドキュメンタリー形式という)今までに見たことがない作りになっていて、それでいてとても重厚感があって……。素晴らしい作品だと感じました」。それで出演を決めたという。「素晴らしい出会いがあったと感じています」。
また、本作を扱うにあたって、どうしても触れておかなければならないことがある。高橋総監督をご存じの方ならばすでに察しているかとも思うが「ロボット」だ。本作には、特殊部隊SDCの扱う最新兵器として「HAVWC(ハーヴィック)」という多目的機動兵器が登場する。防弾生に優れ多様な火器を備えるこの兵器は、画像を見てもらえればわかるように、言うなればロボットである。
「装甲騎兵ボトムズ」や「ガサラキ」などの代表作で「戦争」や「ロボット」の表現に定評のある高橋総監督。とはいえ、20世紀の放映当時、ロボットは我々一般人にとって非現実的な部分が強かったように思う。しかし今や、軍事ロボット開発も進み、実際に(アニメで登場するような仰々しいものではないが)偵察用などのロボットが戦場で活躍する時代がやってきている。そんな時代の中で、高橋総監督はどのような「ロボット」を、そして「戦場」を描こうと考えているのだろうか。
高橋総監督「ロボットについては、それを機能させるための周囲の組織に重きをおいて描いています。(アニメなどでよく見られるような)パイロットが操縦して活躍するというだけではなく、組織がどの規模でどのように動いたから、初めて一体の兵器が戦場に送り込まれるというようなことに触れています。ただ、ロボットが大きな柱ではありませんので、今までの作品とは少し変わってくるかもしれませんね」。そしてそれは、戦争の描き方にも変化をもたらしている。
高橋総監督「この作品では、戦争の原因や結果というものは明らかになりません。基本的には善悪も勝敗もなく、白州が戦場で直面した出来事を描いていく。人々の感情や、場面場面での動き、そういったものに終始していくことになるでしょう。ただ、その先に彼女が見るものはなんなのか……、これは実は、当初僕が描きたかったものとは変わってきています。最終的には、作品を作りながら見つけることになると思います」。
個人的な感想ではあるが、会見でのお話を聞いただけでも、この作品の緻密さ、面白さが伝わってきた。さらに試写を見た感想では、高橋総監督の作品が好きな方はもちろんのこと、普段はアニメを見ない方も楽しめるつくりになっていたように感じる。アニメ好きな方々はぜひ新しい映像表現を堪能していただきたいし、田中麗奈さんの演技にもぜひ注目していただきたい。ネットでの配信なので、好きな時間に見ることができるというあたりも便利かつ嬉しいところだ。最後に、田中さんのファンに向けてのメッセージを紹介しておこう。
「ドキュメンタリータッチで描かれているということで、この作品をみて、みなさんが実際に“体験している”ような感覚になっていただけたら嬉しいです。実際私もそんな感覚になりました。とても素晴らしい作品ですので、ぜひみなさん見てください」
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