ゲームデザインの底流にあるセンス・オブ・ユーモアに注目:「グランド・セフト・オート・サンアドレアス」レビュー(1/3 ページ)
北米版発売から約2年3カ月、前作「バイスシティ」の日本語版から数えても2年8カ月。ようやく発売の運びとなった「サンアンドレアス」は広大なマップに多種多様な面白さを詰め込んだ、容量も濃縮度も抜群の出来栄え。暴力性だけでこのソフトを評価するのはちょっと浅薄では?
州全体が舞台。豊かな自然と個性あふれる3つの都市
まず、下のマップをご覧いただきたい。
グランド・セフト・オートシリーズ通算6作目となる「グランド・セフト・オート・サンアドレアス」(以下、「GTA:SA」)は、従来作が1つの街を舞台にしていたのに対し、なんと州全体をまるごと扱っている。赤、緑、黄色などのマークはすべて、ミッションが起こる場所か入ることができる店舗を示しており、パッと見でも相当な数があることがお分かりいただけるだろう。
とりわけマークの密度が高くなっている3カ所が都市にあたる。右下がロサンゼルスをモデルにしたロスサントス、右上がラスベガスを模したラスベンチュラス、そして左側の中程にあるのがサンフランシスコをイメージしたサンフィエロ。この3つの都市と、その周囲に広がる郡(日本でいうと県かそれ以上の行政区分)や地域がサンアンドレアス州を構成している。
ロサンゼルスやサンフランシスコの名前が出ていることから予想がつくように、サンアンドレアス州はカリフォルニア州をベースにデザインされている。カリフォルニア州は州内の高低差が4500メートル以上に及ぶ激しい起伏を持ち、巨木が林立するヨセミテ国立公園を擁する一方で砂漠も広がり、天候区分も6つに分かれるという、複雑な土地だ。ゲーム内に設けられた大きく8つのブロックもそれと同様、それぞれにまったく異なる顔を有している。箱庭型ゲームとしても、あまり類例がない規模とバリエーションだ。
運命の1992年。かつて街を捨てた男が戻ってきた
「GTA:SA」はプレーヤーの自由度を最大の魅力とするシリーズなのでストーリー性はそれほど強くない。だが、それでも全体の目標となるための、大きなシナリオが存在する。
今回の物語は、主人公であるカール・ジョンソン、通称CJがロスサントスの一角、ガントンにある実家に帰ってくるところから始まる。彼はグローブというチンピラたちのファミリーに所属し、結構顔の利くワルだったのだが、弟を殺されるなどの事件があって人生に嫌気が差し、遠くリバティシティ(「グランド・セフト・オートIII」の舞台だった街)に移住していた。だが、今度は母親が殺されてしまい、その弔いのため、5年ぶりに戻ってきたのである。しかも今度は腰を据えてロスサントスで生きていこうと考えている。もっとも仲間たちはまだ半信半疑で以前の関係が回復したわけではない。そのうえ、警察からは危険人物が帰ってきたとマークされ、汚職警官たちは彼の弱みにつけ込んで非合法行為の片棒を担がせたり、自分たちの尻ぬぐいをさせようと目論んでいる。CJの前途は多難なのだ。
ところで、CJが帰郷した年だが、これが1992年となっている。アメリカの現代史に詳しい人ならピンとくるだろう。そう、ロサンゼルスで大規模な暴動が起こった年だ。この時、黒人やヒスパニック系の低所得者層が商店などを襲撃し、街は恐慌状態に陥った。「GTA:SA」には、グローブと覇を競うストリートギャングが出てくるのだが、彼らは同じ黒人グループとヒスパニック系。この設定が偶然とは思えない。「GTA:SA」の下地には、アメリカ国民にとってはまだ生々しい記憶が塗り込められているのだ。この点については、後ほど改めて取り上げたいと思うので、ちょっと頭の片隅に留めておいていただきたい。
なお、この1992年という年代設定が、洋楽ファンにうれしい贈り物をもたらしてくれている。グランド・セフト・オートシリーズには、前々作の「グランド・セフト・オートIII」以降、カーラジオで聞ける番組に有名アーティストの曲を使うという伝統がある。とはいえ、これまでは日本人にはなじみのない顔ぶれが多かった。ところがサンアンドレアスでは超がつくほどのビッグネームが大挙参加して、1992年当時のヒットチャートを再現しているのだ。CMでも流れていたGUNS N' ROSESの「WELCOME TO THE JUNGLE」はその中でもピカイチ。この名曲を鳴らしながらハイスピードでハイウェイを流す瞬間は、ロックファンにとってたまらない至福の時となるだろう。
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