ゲームデザインの底流にあるセンス・オブ・ユーモアに注目「グランド・セフト・オート・サンアドレアス」レビュー(1/3 ページ)

北米版発売から約2年3カ月、前作「バイスシティ」の日本語版から数えても2年8カ月。ようやく発売の運びとなった「サンアンドレアス」は広大なマップに多種多様な面白さを詰め込んだ、容量も濃縮度も抜群の出来栄え。暴力性だけでこのソフトを評価するのはちょっと浅薄では?

» 2007年02月09日 17時24分 公開
[水野隆志,ITmedia]

州全体が舞台。豊かな自然と個性あふれる3つの都市

 まず、下のマップをご覧いただきたい。


 グランド・セフト・オートシリーズ通算6作目となる「グランド・セフト・オート・サンアドレアス」(以下、「GTA:SA」)は、従来作が1つの街を舞台にしていたのに対し、なんと州全体をまるごと扱っている。赤、緑、黄色などのマークはすべて、ミッションが起こる場所か入ることができる店舗を示しており、パッと見でも相当な数があることがお分かりいただけるだろう。

 とりわけマークの密度が高くなっている3カ所が都市にあたる。右下がロサンゼルスをモデルにしたロスサントス、右上がラスベガスを模したラスベンチュラス、そして左側の中程にあるのがサンフランシスコをイメージしたサンフィエロ。この3つの都市と、その周囲に広がる郡(日本でいうと県かそれ以上の行政区分)や地域がサンアンドレアス州を構成している。

 ロサンゼルスやサンフランシスコの名前が出ていることから予想がつくように、サンアンドレアス州はカリフォルニア州をベースにデザインされている。カリフォルニア州は州内の高低差が4500メートル以上に及ぶ激しい起伏を持ち、巨木が林立するヨセミテ国立公園を擁する一方で砂漠も広がり、天候区分も6つに分かれるという、複雑な土地だ。ゲーム内に設けられた大きく8つのブロックもそれと同様、それぞれにまったく異なる顔を有している。箱庭型ゲームとしても、あまり類例がない規模とバリエーションだ。

超高層ビルがそびえるロスサントスの中心部。郊外にはハリウッドを思わせる地域も用意され、映画スターや大富豪が暮らす。だが一皮むけば、政治腐敗、貧富の格差、高犯罪率、麻薬の蔓延などの問題が山積し、闇社会の派遣抗争が続いている危険な街だ
マップ左下に位置するシャディキャビン一帯。人家などまったくない、手つかずの自然が残る。車を降りて山に入り、一夜を過ごすと針葉樹林の狭間から差し込むまばゆい朝陽をながめられる。本当にキャンプに来たような心洗われる思いが味わえる

運命の1992年。かつて街を捨てた男が戻ってきた

 「GTA:SA」はプレーヤーの自由度を最大の魅力とするシリーズなのでストーリー性はそれほど強くない。だが、それでも全体の目標となるための、大きなシナリオが存在する。

黒人ギャング、グローブのメンバーたち。緑が彼らのシンボルカラーで、コスチュームのどこかにその色を配するのが忠誠の証となる。リーダーはCJの兄であるショーン・ジョンソン。通称スウィート

 今回の物語は、主人公であるカール・ジョンソン、通称CJがロスサントスの一角、ガントンにある実家に帰ってくるところから始まる。彼はグローブというチンピラたちのファミリーに所属し、結構顔の利くワルだったのだが、弟を殺されるなどの事件があって人生に嫌気が差し、遠くリバティシティ(「グランド・セフト・オートIII」の舞台だった街)に移住していた。だが、今度は母親が殺されてしまい、その弔いのため、5年ぶりに戻ってきたのである。しかも今度は腰を据えてロスサントスで生きていこうと考えている。もっとも仲間たちはまだ半信半疑で以前の関係が回復したわけではない。そのうえ、警察からは危険人物が帰ってきたとマークされ、汚職警官たちは彼の弱みにつけ込んで非合法行為の片棒を担がせたり、自分たちの尻ぬぐいをさせようと目論んでいる。CJの前途は多難なのだ。

ガントンの夜景。大きな道路の陸橋下に広がるスラム街。住民は低所得層の黒人たちで、スーツ姿のビジネスパーソンや観光客の姿を見ることはない

 ところで、CJが帰郷した年だが、これが1992年となっている。アメリカの現代史に詳しい人ならピンとくるだろう。そう、ロサンゼルスで大規模な暴動が起こった年だ。この時、黒人やヒスパニック系の低所得者層が商店などを襲撃し、街は恐慌状態に陥った。「GTA:SA」には、グローブと覇を競うストリートギャングが出てくるのだが、彼らは同じ黒人グループとヒスパニック系。この設定が偶然とは思えない。「GTA:SA」の下地には、アメリカ国民にとってはまだ生々しい記憶が塗り込められているのだ。この点については、後ほど改めて取り上げたいと思うので、ちょっと頭の片隅に留めておいていただきたい。

 なお、この1992年という年代設定が、洋楽ファンにうれしい贈り物をもたらしてくれている。グランド・セフト・オートシリーズには、前々作の「グランド・セフト・オートIII」以降、カーラジオで聞ける番組に有名アーティストの曲を使うという伝統がある。とはいえ、これまでは日本人にはなじみのない顔ぶれが多かった。ところがサンアンドレアスでは超がつくほどのビッグネームが大挙参加して、1992年当時のヒットチャートを再現しているのだ。CMでも流れていたGUNS N' ROSESの「WELCOME TO THE JUNGLE」はその中でもピカイチ。この名曲を鳴らしながらハイスピードでハイウェイを流す瞬間は、ロックファンにとってたまらない至福の時となるだろう。

       1|2|3 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

先週の総合アクセスTOP10
  1. 生後2カ月の赤ちゃんにママが話しかけると、次の瞬間かわいすぎる反応が! 「天使」「なんか泣けてきた」と癒やされた人続出
  2. 車検に出した軽トラの荷台に乗っていた生後3日の子猫、保護して育てた3年後…… 驚きの現在に大反響「天使が女神に」「目眩が」
  3. 安達祐実、成人した娘とのレアな2ショット披露 「ママには見えない!」「とても似ててびっくり」と驚きの声
  4. 兄が10歳下の妹に無償の愛を注ぎ続けて2年後…… ママも驚きの光景に「尊すぎてコメントが浮かばねぇ」「最高のにいに」
  5. “これが普通だと思っていた柴犬のお風呂の入れ方が特殊すぎた” 予想外の体勢に「今まで観てきた入浴法で1番かわいい」
  6. 「虎に翼」、新キャラの俳優に注目が集まる 「綺麗な人だね」「まさか日本のドラマでお目にかかれるとは!」
  7. 「葬送のフリーレン」ユーベルのコスプレがまるで実写版 「ジト目が完璧」と27万いいねの好評
  8. お花見でも大活躍する「2杯のドリンクを片手で持つ方法」 目からウロコの裏技に「えぇーーすごーーい」「やってみます!」
  9. 弟から出産祝いをもらったら…… 爆笑の悲劇に「めっちゃおもろ可愛いんだけどw」「笑いこらえるの無理でした」
  10. 3カ月の赤ちゃん、パパに“しーっ”とされた反応が「可愛いぁぁぁぁ」と200万再生 無邪気なお返事としぐさから幸せがあふれ出す
先月の総合アクセスTOP10
  1. フワちゃん、弟の結婚式で卑劣な行為に「席次見て名前覚えたからな」 めでたい場でのひんしゅく行為に「プライベート守ろうよ!」の声
  2. 親が「絶対たぬき」「賭けてもいい」と言い張る動物を、保護して育ててみた結果…… 驚愕の正体が230万表示「こんなん噴くわ!」
  3. 水道検針員から直筆の手紙、驚き確認すると…… メーターボックスで起きた珍事が300万再生「これはびっくり」「生命の逞しさ」
  4. フワちゃん、収録中に見えてはいけない“部位”が映る まさかの露出に「拡大しちゃったじゃん」「またか」の声
  5. スーパーで売れ残っていた半額のカニを水槽に入れてみたら…… 220万再生された涙の結末に「切なくなった」「凄く感動」
  6. 桐朋高等学校、78期卒業生の答辞に賛辞やまず 「只者ではない」「感動のあまり泣いて10回読み直した」
  7. 「これは悲劇」 ヤマザキ“春のパンまつり”シールを集めていたはずなのに…… 途中で気づいたまさかの現実
  8. 「ふざけんな」 宿泊施設に「キャンセル料金を払わなくする方法」が物議 宿泊施設「大目に見てきたが厳格化する」
  9. がん闘病中の見栄晴、20回以上の放射線治療を受け変化が…… 「痛がゆくなって来ました」
  10. 食べ終わったパイナップルの葉を土に植えたら…… 3年半後、目を疑う結果に「もう、ただただ感動です」「ちょっと泣きそう」