アイドルマスターはこう作られた――バンダイナムコゲームスにおける3Dアニメーションへの取り組み:CEDEC 2007
Xbox360版「アイドルマスター」と「エースコンバット6」、そして「鉄拳」シリーズと、バンダイナムコゲームスが構築する3Dアニメーションへのこだわりを解説する。
東京大学で開催されているゲーム開発者カンファレンス「CESAデベロッパーズカンファレンス 2007」(以下、CEDEC)において、「バンダイナムコゲームスにおける3Dアニメーションへの取り組み」と題し、Xbox360版「アイドルマスター」や「鉄拳」シリーズ、「エースコンバット6」を例に取ってノウハウを紹介した。
Xbox 360版アイドルマスターキャラクターアニメーション製作工程
「アイドルマスター」ではダンスなどのアニメーションを例に、コンテンツ制作本部 第1制作ディビジョン 第1制作ユニットアニメーション課 佐々木久美氏が登壇し説明する。
「アイドルマスター」はアーケードからの移植とはいえ、さまざまな点で作り直しを行っている。モーションに限って言えばすべて作り直しを余儀なくされたと佐々木氏。振り付けそのものに欠点があったり、業務用では同じ振り付けの箇所は1つしかデータがなかったためと理由はさまざまだが、Xbox 360版では3人のキャラクターが同じ振り付けの箇所も3回キャプチャーすることで少しづつ動きを変えていたりと作り直しは粛々と進められたのだそうだ。
ダンスパートのTV出演用モーションとして1ファイルあたり2分強のダンスと3つのポジションが16曲と増え、単純にアニメーション総量が1000ファイルを越し、作業内容や作業量が増大。コミュニケーションパートも2003年に発売されたフル3Dキャラクターによる動き萌えを売りにしていた「ゆめりあ.こむ」の影響で、各ポーズの遷移モーションが必要となっていた。佐々木氏らアニメーションチームは、2005年10月に準備作業が開始してから3カ月後には本作業に入り、1年の作業期間を経て製品化を実現したことになる。ちなみにチームとして構成されていたスタッフの多くは、格闘ゲーム経験者だったとか。
こうしてダンスパートに3名、コミュニケーションパートに2名での編成で作業が開始された「アイドルマスター」は、ツールに「SOFTIMAGE XSI 5.0」を使用(口パクのみMaya7.0)しているのだが、開発途中でバージョンアップを敢行。使用リグはバンダイナムコゲームス標準リグの「晴美」を使用している。ただし、鉄拳やソウルキャリバーで使われている標準リグとは手足の比率が異なる。メガネやウサギなどは揺れ物扱いとしてプログラム制御されている。
後述するモーションキャプチャーの項でも触れるが、アイドルマスターのキャラクターは足が長く、肩幅が狭く頭が大きいという現実の人間とは異なる。これらは調整を必要としたと佐々木氏。指は写真で確認できる手の上についているボックスで制御する。これ1つで親指以外の握り、ひねり、広がりが行うことができる画期的なものだったと振り返る。
余談だが、出力ツールはバンダイナムコゲームス標準の出力ツールを使用し、胴体と右手&左手でバラバラにアニメーションファイルを出力する。ファイル管理ははじめエクセルで管理していたが、途中からAlienbrainに切り替えたとのこと。また、ビューワーはほぼ鉄拳用のモーションビューワーと同じで、開発終盤になって製品版に近い形で見られるものができ、そちらで調整を行ったのだそうだ。
ここで話がモーションキャプチャーに及ぶ。本作ではサウンドチームから仮楽曲が上がってきた時点で、曲をダンサーに渡して振り付けを考えてもらい、実際に踊ったうえで調整した。後日、キャプチャースタジオで最終調整を行うことになる。この際、ダンサーへのオーダーとして「ユーザーが覚えやすくマネしやすいもの」、「キャラモデルの体格の都合上、頭に腕が貫通しないよう注意」、「足が長く、上半身が小さく、カメラは主に上半身を映すため、上半身の振り付けを大きめに」、「3人で踊る時を重要視しているが、ソロやデュオの時にも見栄えがするものに」などだったとか。
キャプチャーで特筆したいのが、位置ズレ防止のための足型を作製したことが功を奏しているということ。パートとパートのつなぎ目はなにかと立ち位置がズレてしまうもの。当初は養生テープなどで印をつけて対応していたが、これでは時間のロスになるし、なによりもダンサーへの負担が大きかった。足型は、足位置とつま先の方向のズレを大幅に減らしただけでなく、ヒザや腰の位置なども簡単に調整できるという利点を生んだとか。このことで、XSIのアニメーションミキサー上で簡単な補間をかけただけでほとんどつなぎ目が分からなくなったのだそうだ。この足型は薄い段ボールを靴ワクにそって切り抜き、反射しないようにパーマセルを巻き付けただけという。再利用が可能で、6組(計12本)作成したと、佐々木氏も実際使用したものを掲げる。
前にも触れたが、ゲームに登場するアイドルたちの体型は、現実の人間と異なり足が長く、顔が大きい。肩幅も狭い。そのため、実際のモーションキャプチャーそのままでは、直立してても足が曲がってしまったり、顔が腕にめりこんだり、両手を上げると鎖骨が破綻したりと調整が必要だった。ダンサーの体格差によって移動値に差が生じたため、フォーメーションも二等辺三角形になるように調整するなど、手付けのモーションのスキルが必要だったと明かす。
なお、デフォルトで身につけることができる衣裳に関しては、めりこみが発生しないように調整をしたが、アクセサリーや髪の毛、追加衣裳へのめりこみは基本的に気にしないことにしたそうな。この思い切りにより、ダウンロードコンテンツもあとで何を配信しても大丈夫(?)となったとか。こうした遊びはあえて残しておくほうが面白いという主旨だ。
また、4種類あるカメラのほかにも実は採用されなかったが、アイドルを後ろから撮影し観客席が見えるものも試されたとか。さらに、1カメになるとカメラ目線をするよう組み込まれているとも。このようにアニメーションひとつとっても、やることは膨大なのだが、なによりも必要なものは「愛」だそうで……お後がよろしいようで。
エースコンバット6 リアルタイムムービーのアニメーション制作
続いてコンテンツ制作本部 第1制作ディビジョン 第1制作ユニットアニメーション課の森本直彦氏によって、「エースコンバット6」におけるリアルタイムレンダリングムービーの制作過程が紹介される。複数のキャラクターを同時に手や顔の表情まで効率よくアニメーションさせるために、採用されたいくつかの新たな試みとはなんなのか?
森本氏に課せられた仕事は、ミッション前後に挿入される幕間アニメーション制作で、ゲームの世界に生きる人々を描くことでドラマ性を強化するという内容。19人の登場人物による幕間17本、計40本(390カット)が製作された。ツールはMaya7.0とMotionBuilder7.0を使用。約12カ月の期間でアニメーター6名が携わったのだそうだ。
「エースコンバット6」の特徴としては、HD解像度が720pであり、ゲーム中と同じレンダリングエンジンを使用したこと。このことにより、表現の統一感が出て、制作環境を実写撮影の感覚に近づけることを実現した。そして、シェーダーや影、ポストエフェクトなどプリレンダリングに近いレンダリング技術を使用することができた。
とはいえ、これは高解像度でレンダリング能力を要することになり、作業ボリュームは増大しコストも増えることを意味していた。効率化による作業コスト低減が急務となったわけだ。こうして新たな制作技術が導入されることになる。Mocapの際のリアルタイムプレビューやカメラキャプチャー、ハンドキャプチャーやフェイシャルキャプチャーなどがそれにあたる。以下、写真で紹介する。
以上の施策がうまくいき、開発は無事終盤を迎えることができたと森本氏。森本氏は、アニメーションで特に注意したいこととして、キャラクターや背景のデフォルメ具合にいかにアニメーションをマッチさせるか、説得力を持つポージングをさせいかにシルエットを美しく見せるか、などを挙げる。表情は常に見る側に感情が読み取れるように描くか、モーションの実際に描かれる各フレームが動画として適切であるように調整することも忘れてはならないとも。
鉄拳 アニメーションの取り組み
シリーズを追うごとに進化し続ける鉄拳シリーズの3Dアニメーション作成についてご紹介。コンテンツ制作本部 第1制作ディビジョン 第1制作ユニットアニメーション課 アシスタントマネージャーの中村彰司氏が説明に立つ。
「鉄拳」はいわずと知れた対戦格闘アクションゲームとして、最新作「鉄拳6」で8作目を迎える人気シリーズ。40体以上ものキャラクターがさまざまな格闘スタイルを持つのも魅力のひとつだ。例えば「LEO」の場合、八極拳を動きをベースにしているため、さまざまな資料を検証後、実際の使い手にモーションキャプチャーをお願いし、アクションの調整を加えていく作業をすることになる。もちろんゲームなので多少の演出は施すことは忘れない。
しかし、新キャラクターの「ZAFINA」のように、格闘スタイルが古代暗殺術という現存しないものとなると、創造力の勝負となる。とにかく怪しく、そして女性特有の柔らかい動きでキャラクターを妖艶に魅せることを注意したのだとか。そのため、腰の動きを起点にした独特なアクションを表現できたと中村氏。
本作のアニメーション制作では、作業フローにスムースな流れとエゴを柔軟に取り組むことに注力。質と量のバランスとして当たり前のことだが、スタッフ間のタッチの統一が図られた。また、製品化のための手間を惜しまないという点も忘れてはならない。
どのタイトルも手間を惜しまずに、効率化が図られている点に注目したい。当たり前すぎることなのだが、愛情を忘れてしまってはいい作品は生まれない。高い技術力はもちろん必要とされるが、作業へのこだわり(エゴ)がなくては、ただの作業となってしまう。ひとり1人の意見が色濃く反映し、創意工夫していく姿こそ、実際の開発現場に見られる日常風景なのだと改めて理解できた。
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