10円が大切だった時代の優しい物語はこうして生まれた「放課後少年」インタビュー(4/5 ページ)

» 2008年01月25日 00時00分 公開
[聞き手:今藤弘一,ITmedia]

友達がいて家族がいる――優しい心になれるゲームに

猿田 駄菓子屋のおばちゃんもそうですが、大人が子どもに対して、いい意味で厳しかったですね。子どもをちゃんと見ていて、厳しくしかるところはしかって。そこでコミュニティが出来上がっていた部分もあると思うので、そこは忘れないほうがいいなと思うんですよ。「悪いことしたら怒られるよ」というのは入れておかないとダメだなと。“ちゃんと怒ってくれる人”は大事だなと思っていたんですよね。

 そういう意味では、今よりも人間関係が濃かったですね。プライバシーなんてなくて。狭い地域だとみんなお互いのことを知っていますし。それがよかったというか、密度が高かったのがよかったと思うんですけど。人と人との結びつきがすごく強かった時代ですよね。そこは実はテーマとしていて、家族でも友達の話はするし、いろいろな人がいろいろな話をしているというのは、すごく出したかった所なんです。

鴻上 なので、晩ご飯のシーンも入れています。

猿田 食卓で必ず家族がそろってごはんを食べて、そのときにはいろいろな話をしていることって必ずあったなあと。一家団らんのシーンはすごく重要だと思っています。鴻上は友達同士での話は重要だと、そこをメインに考えています。わたしは家族の話を入れてくれ、と強くお願いして入れてもらったという経緯ではあります。鴻上とわたしとで、外と内を分けて考えていたというか。

 外に出ると自分も友達もみんな仲良くしていて、家に帰ると家族で仲良く話をしていて……。そういうのってほんわかするというか、優しい気持ちになれますよね。テーマとして「優しいゲーム」というか、“優しさ”をすごく出したかったんです。

 そこもあって、今回のキャラクターデザインは、すべて鴻上が担当しているんです。

――そうだったんですね。

画像

鴻上 最初の企画書を提出するときに、みんながイメージしているキャラクターはこんな感じがいいですよ、と描いたら、いつの間にかそれを清書することに……(笑)。

猿田 企画書に書いた絵がすごくよくて。優しい絵なんですよね。それが気に入りまして、これを前面に出すべきだと思い、鴻上に全部描いてもらいました。鴻上の持っている優しさが絵に出ていますし、ストーリーでも、優しいお話を作るんです。いろいろなことがあってもみんなが優しい、という。そういうのは入っていますね。すんなり入っていけるし、あのころの時代に戻って遊んでみたくなるような気持ちになるためにも、優しさはキーワードですね。

鴻上 背景のデザインも担当したので大変でした(笑)。

猿田 企画、デザイン、シナリオのベースすべて鴻上が担当しました。ディレクターとはいえ、創作部分は鴻上が全部やっていますので……。

鴻上 ただ、ベースをすべて作ったので、イメージをスタッフで共有することができて、ブレがなく最後まで作り上げられました。こういうやり方もありかなと。

猿田 今は大人数で、いろいろなタイプの専門家がいてゲームを作るんですが、1つの世界観を統一するのはなかなか難しいんです。流れ作業で仕事をしていますので。規模はそれほど大きくないゲームですので、それも可能だったんですが。そこは無理を言ってお願いしてしまいました(笑)。

鴻上 でも楽しかったんで、それはそれということでいいです(笑)。

――キャラクターの曲線が何とも言えずいいんですよね。

鴻上 曲線を強調するようにデザインしました。ほかのスタッフにイメージイラストを担当していただいたものもありましたが、とにかく「なで肩にして」と指示しました。

猿田 いまどきの絵は“エッジが立つ”デザインになってしまう場合が多いんですが、とにかくそれを修正しました。

 鴻上は、スポーツゲームなどのモーションデザインを担当するのが仕事だったんです。なので、本来は動きに関しての専門家です。ただし鴻上の絵が最初にありましたので……。ある意味チャレンジですよね。そこは。ただそれがすごくハマりました。その分負担も大きかったでしょうけど。

鴻上 嵐のような1年でした(笑)。

細かなところにちりばめられている「イタズラ心」

――「放課後少年」ですが、細かいところがすごく楽しいなと思いました。黒板のイタズラ書きや画びょうのイタズラなど……。

鴻上 あのあたりは、世界観のイメージを共通して持てたために生まれたものですね。スタッフが勝手に作ったんです(笑)。ミーティングのときに「こんなのができたらいいね」と話していたら本当に作ってくれたりして。新しいバージョンのテスト版をプレイしたら「言ってたのが本当に入ってる!」とか(笑)。スタッフもノリノリで作っていましたので、細かい部分ではすごく助かっています。

画像画像

猿田 制作スタッフがすごく楽しかったみたいですね。若い世代の方もスタッフには多いわけですが、昔の遊びなので全然知らないし、すごく楽しんで作れたみたいです。

 先ほど「優しい話」とは言いましたが、子どもって、そうではない面もすごく持っています。イタズラが大好きで、悪いことをしたくてしょうがないわけです。鴻上はいい話を作るんですが、わたしは、子どもはそうじゃないと、どちらかというと悪くしてくれ、と(笑)。ぎりぎりまで悪いことをしてほしいので、イタズラはぎりぎりまで入れてほしいと言いました。

鴻上 線引きは難しかったですね。やり過ぎると怒られちゃうし。

猿田 こんなにいい子はいないだろうとか、かわいすぎないか、とか。もう少し小ずるい感じで、といったように。イタズラ書きをしたり、画びょうを刺したりといった出来事は、ぜひ入れてくれという感じでした。

鴻上 ゲーム的には意味は全くなくていい、と言って作らせましたので。ユーザーにとって意味がなくても楽しければいい、と。

猿田 意味なんてないですよね(笑)。スリルとか、そういうことだけですので。ただ「昔、あったあった」という。子どもって、日々何でもないことを積み重ねているんですよね。その中で成長しているので、やっていることって単純です。

 今回のゲームの中でも単純なことばかりを入れているので、実を言うとつながりもないですし、淡泊なのかなとも思うんですが、でもそういうものだった、という感覚があるので、そこはリアルだなと思っています。怒られるまで、つまらないことを毎日繰り返していたなと。怒られても同じことをやっていましたから。ストーリーはあるんですが、自由な時間も多いんですね。そのときにはシミュレーション的にプレイしてもいい、という世界です。好きなことやって時間を過ごしてください、という所は、リアルに出ていると思います。

――わたしも、逆上がりの練習をしました(笑)。

猿田 毎日やりますよね(笑)。ああいうことを日々積み重ねると成長するよ、ということを見せたかったので。特別な操作はないんですが、やっていくとランキングも上がっていくんです。自分の部屋に貼ってある成績表を見ると、うまくなっていくのが分かるんですが、そういうのも楽しいかなと。ラジオ体操のハンコを集めているイメージなんですけど、共感できる部分でもあるし、成長する要素として、単純であるけれども日々積み重ねていくことは大事であるとか。

鴻上 イタズラ書きでは、何を描きました?

――わたしは相合い傘とか、棒人間とかですかね……。

鴻上 スタッフに渡すと、ほとんどが“とぐろ”をまいてました……(苦笑)。

猿田 あれを黒板に描いて、先生に怒られると最高なんですよ(笑)。「何やってんだ」って言われるのが。わざと変な絵を描いて、先生に怒られるのを見るのが面白いんです。別に先生は絵柄を見て怒っている訳じゃないんですけど、できるだけくだらない絵を描いて、怒られようとするのが楽しいんですよ。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2405/01/news077.jpg ミュージカル『ディズニー くまのプーさん』、舞台が見えづらいとの指摘に謝罪 「視認性の改善を講じる」
  2. /nl/articles/2404/30/news015.jpg 【今日の計算】「500×99」を計算せよ
  3. /nl/articles/2404/30/news156.jpg 「葬送のフリーレン」の勇者一行、ネモフィラ畑に現る 名場面にちなんだコスプレが「これを花畑を出す魔法か」と23万いいね
  4. /nl/articles/2402/21/news158.jpg 業務スーパーの“高コスパ”人気冷凍商品に「基準値超え添加物」 約1万5000個販売……自主回収を実施
  5. /nl/articles/2405/01/news092.jpg “スケスケ成人式コーデ”が物議のモデル、「3度見される服」を披露 「コレは見ちゃうわ」「洗っても大丈夫なのか」の声
  6. /nl/articles/2405/01/news095.jpg 秋元康、AKB48卒業の柏木由紀に送った手紙が物議 “冒頭の一文”に「昭和丸出し」「嫌すぎる」
  7. /nl/articles/2405/01/news014.jpg 1歳娘、ちょっと目を離したら衝撃の光景が……! リアル過ぎるワンオペ現場が190万再生「わかりみすごすぎです」
  8. /nl/articles/2404/29/news009.jpg 天井裏から変な音がする→スマホを突っ込んで撮影したら…… 映った“とんでもねぇ”モノに「恐ろしい」「何これ」と騒然の196万表示!
  9. /nl/articles/2403/21/news104.jpg 「ふざけんな」 宿泊施設に「キャンセル料金を払わなくする方法」が物議 宿泊施設「大目に見てきたが厳格化する」
  10. /nl/articles/2405/01/news011.jpg 息子「あしたから下敷きいるって」母「ええやつあるで(ドヤ」 母の愛がつまった手作り下敷きに「なにこれめっちゃほしい!」と注目集まる
先週の総合アクセスTOP10
  1. 釣りに行こうとしたら、海岸に子猫が打ち上げられていて…… 保護後、予想だにしない展開に「神様降臨」「涙が止まりません」
  2. 身長174センチの女性アイドルに「ここは女性専用車両です!!!」 電車内で突如怒られ「声か、、、」と嘆き 「理不尽すぎる」と反響の声
  3. しぶとい雑草“ドクダミ”を生やさない超簡単な方法が115万再生! 除草剤を使わない画期的な対策に「スゴイ発見」
  4. 天井裏から変な音がする→スマホを突っ込んで撮影したら…… 映った“とんでもねぇ”モノに「恐ろしい」「何これ」と騒然の196万表示!
  5. 小1娘、ペンギンの卵を楽しみに育ててみたら…… 期待を裏切る生き物の爆誕に「声出して笑ってしまったw」「反応がめちゃくちゃ可愛い」
  6. 誰も教えてくれなかった“裁縫の裏ワザ”が目からウロコ 200万再生のライフハックに「画期的」と称賛【海外】
  7. 「電車の中で見ちゃダメ」「笑ったww」 実家からLINE「子ヤギがすばしっこくて捕まらない」→送られてきた衝撃姿が320万表示!
  8. 顔の半分は童顔メイク、もう半分の仕上がりに驚がく 同一人物と思えない半顔メイクが860万再生「凄いねメイクの力」
  9. 元「AKB48」メンバー、整形に250万円の近影に驚きの声「整形しすぎてて原型なくなっててびびった」
  10. スーパーで買ったレモンの種が1年後…… まさかの結果が635万再生「さっそくやってみます」「すごーい!」「手品みたい」
先月の総合アクセスTOP10
  1. 庭に植えて大後悔した“悪魔の木”を自称ポンコツ主婦が伐採したら…… 恐怖のラストに「ゾッとした」「驚愕すぎて笑っちゃいましたw」
  2. 小1娘、ペンギンの卵を楽しみに育ててみたら…… 期待を裏切る生き物の爆誕に「声出して笑ってしまったw」「反応がめちゃくちゃ可愛い」
  3. 生後2カ月の赤ちゃんにママが話しかけると、次の瞬間かわいすぎる反応が! 「天使」「なんか泣けてきた」と癒やされた人続出
  4. 「歩行も困難…言動もままならず」黒沢年雄、妻・街田リーヌの病状明かす 介護施設入所も「急激に壊れていく…」
  5. 車検に出した軽トラの荷台に乗っていた生後3日の子猫、保護して育てた3年後…… 驚きの現在に大反響「天使が女神に」「目眩が」
  6. 「虎に翼」、新キャラの俳優に注目が集まる 「綺麗な人だね」「まさか日本のドラマでお目にかかれるとは!」
  7. 釣りに行こうとしたら、海岸に子猫が打ち上げられていて…… 保護後、予想だにしない展開に「神様降臨」「涙が止まりません」
  8. 身長174センチの女性アイドルに「ここは女性専用車両です!!!」 電車内で突如怒られ「声か、、、」と嘆き 「理不尽すぎる」と反響の声
  9. 築152年の古民家にある、ジャングル化した水路を掃除したら…… 現れた驚きの光景に「腰が抜けました」「ビックリ!」「先代の方々が」
  10. 「葬送のフリーレン」ユーベルのコスプレがまるで実写版 「ジト目が完璧」と27万いいねの好評