アメリカンなハードにほとばしるジャパニーズ・サブカルチャー:「テイルズ オブ ヴェスペリア」レビュー(2/2 ページ)
キャラクターの行動動機を意識した良質なシナリオ展開
絶妙の導入で始まった物語がどのように進むのか。細かいところは実際にプレイして確かめてもらいたいので、ここでは大きな流れだけ紹介しておこう。
主人公であるユーリの最初の行動動機は水道魔導器の修復である。魔導器を動かすためには魔核(コア)と呼ばれる部品がいるのだが、これを何者かが盗んでしまったため、下町の人々は水道が利用できなくなり困っている。長引けば深刻な事態になるのは明らかだ。
見逃されがちだが、この目的設定も実によい。急いではいるが多少ならば余裕がある、という状態を作り出しているため、プレイヤーはある程度の緊急性を感じつつも、ただもうがむしゃらに解決しなければならないほどの切迫感は受けない。
無論ゲームなのだから、プレイヤーがその気になればどんなに寄り道をしてもいいのだが、あまりに時間感覚がずれていると、イベントでのセリフなどに違和感が出てきてしまう。TOVはこの点もきっちり回避している。
さて、もうひとりストーリーを進める原動力になるのがヒロインであるエステルだ。彼女の行動動機はフレンに会うことである。フレンというのはユーリの友人で、騎士団に所属しているれっきとした騎士。ところが上流階級の令嬢であるエステルは行動の自由が許されていない。
たまたま城で出会ったユーリがフレンのなじみだったこと、ユーリが魔導器の核を盗んだ者を探すための旅に出ようとしていることを知って、同行を願い出てくるのである。従って旅のきっかけに関しては、ユーリとエステルは共通の目的を持っているわけではない。
TOVでは、このようにキャラクターごとの目的をきちんと立て、そのうえでそれらを巧みに1本の話に集約させていく。キャラクター個々の目的があり、一緒に行動したほうが目的を達しやすいからという前提があってパーティが組まれている。
その一方で、旅をしているうちにそれぞれの親睦も深まるようにイベントを設け、パーティとしての一体感を生み出していく。この辺りの見事な構成も作り手のレベルの高さを感じさせる。
(写真右)旅の目的から外れる場合も強引にイベントを押し込んだりしない。主目的との間に関連を持たせているため、話の筋がぼけないのだ
次に戦闘システムについて見ていきたい。
シリーズ作品に慣れた人であれば、すでに見たことがあるシステムを採用しており、アクション性は今回も高い。同じ敵と渡り合ったとしても、アクション慣れしているか否かで、ご褒美に差が出るようにもなっている。ただ、アクションを重視しているといっても、戦闘の難易度自体はそれほど高くない。
よほどまずい戦い方をしない限り、ザコ戦はそれほど苦労しないだろう。どちらかと言うとザコ戦は勝てるのが前提で、むしろ経験値やドロップアイテムを入手するために行うといってもいい。とはいえ、あまりいい加減にやると評価が下がってしまうので、それなりの配慮は必要だ。
(写真右)同じ武器を使い続ければ、その武器に対応したスキルを習得できる。多数のスキルをマスターし、それらを使いこなせば、戦闘の難易度はずいぶん変わってくる
アクションが苦手ならば無理する必要もない。レベルアップに必要な経験値はそれほど多くないので、多少時間を割いて経験値稼ぎをすれば、すぐにレベルが上がっていく。一度挑んで惨敗したら、そこからレベルを少し上げて再戦すれば何とかなるだろう。
TOVの根底には、王道中の王道というべきJ-RPGらしさが存在する。それは若いキャラクターたちが協力して世界を救うというストーリーに象徴される。これは海外のみならず、ファミコンの昔から日本人のRPGファンが慣れ親しんできた設定だ。
一方、デザインや主題歌といった外見の部分には近年海外でも注目を集めている日本のサブカルチャーテイストをふんだんに取り入れている。ここまでなら、あくまでジャパニーズスタイルにこだわっているだけになるが、RPGの要となる戦闘システムではアクション性を重視し、個々のプレイヤーの力量が反映される作りになっている。その点では、明らかに海外志向になっているともいえる。
すなわち、RPGのコアであるストーリーと戦闘システムのうち、前者を日本志向、後者を海外志向にし、外殻には海外にアピールできる日本のサブカルチャーを配した構成となっているわけだ。そのスタンスを明確にしたうえで、考え抜かれたバランスとテンポで全体を仕上げている。
クオリティはシリーズでも筆頭クラスの出来栄えを誇っている。ぜひ、これをきっかけに海外での飛躍を成し遂げて欲しいと思う。そして日本でのXbox 360拡大の一助ともなれば、ゲーム業界全体にとって、極めてよろこばしい福音となるだろう。この作品には、それに応えるに足るだけの完成度が十分すぎるほどにある。
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