朽ちる、崩れる、誰もいない――“廃墟”で繰り広げられる物語は切なくも温かい:「フラジール 〜さよなら月の廃墟〜」レビュー(2/2 ページ)
セトの行く手を阻む幽霊
ここからはシステムの話に移ろう。探索中、特定のエリアに入るとBGMが流れ出し、幽霊や凶暴な獣が出現するシームレスなアクションバトルが発生する。敵はあまり積極的には襲いかかってこないので、こちらが瀕死の場合は無理して戦わず、横をすり抜けてしまったほうがいいだろう。
部屋に入ると出られなくなる強制戦闘やボス戦もあるが、これらも敵の動きをよく見てクセをつかめば、それほど苦戦することはないはず。経験値稼ぎを意識せず、サクサク進んでも大丈夫だ。
武器は竹刀など連続攻撃可能な「棒系」、斧などタメ攻撃ができる「ハンマー系」、竹ボウキなどリーチが長い「槍系」、パチンコなど離れた敵を攻撃する「弓系」に分かれている。武器は使っていると、ときどき壊れてしまう。この仕様は、日本のゲームではあまり見られず、気になるプレイヤーも多いと思う。壊れかけた世界のイメージに合ったシステムとは言えるが……。
セーブはあちこちに点在する焚き火で行う。宿屋はないが、HPもここで全回復する。持っているアイテムをカバンに収納するのは、焚き火の前でしかできないので気をつけたい。面白いのは、一部のオンラインRPGで見られるインベントリーのように、手荷物のスペースがマス目で区切られた制限のあるタイプになっていること。横2マスやL字型など、大きさも形も異なるアイテムを、整理して持ち歩く。うまい具合にスペースに空きがないと、落ちているアイテムも拾えない。ちょっとしたパズル感覚だ。
もうひとつ、焚き火では廃墟で拾った謎のアイテムの正体が判明する。
廃墟のあちこちに落ちている「折り鶴」や「ラムネの瓶」、「チャペルの鍵」などの特定アイテムには、持ち主の思念が宿っていて、その物にまつわるショートストーリーが読める。
中でも電撃文庫の作家、「キーリ」の壁井ユカコ氏、「ミミズクと夜の王」の紅玉いづき氏が書き下ろしたショートストーリーはチェックしておきたい。本編との直接の関連性はないが、こうしたおまけはゲームの方向性とも合っている。
リモコンから聞こえる音に集中!
操作にはWiiリモコンとヌンチャクを使う。移動はヌンチャクで行い、Wiiリモコンは懐中電灯に見立てて、暗がりに光を当てる役割をする。気になるものがあればAボタンを押してクローズアップ。ユーモラスな落書き、“明るくて長持ち イシハランプ”“エイヤー サイクリング”なんて昭和レトロなノリのポスターなど、気になるところはアップで眺めてみよう。
Wiiリモコンに内蔵されたスピーカーを上手に生かしているのも本作の特徴だ。歩いていると虫やカエルの声がリモコンから聞こえてくる。敵との遭遇時以外はBGMはないので、こうした環境音は風情がある。また、リモコンを立てると、その時一緒に行動しているパートナーのアドバイスやおしゃべりを聞くことができる。これも何だか会話しているようでうれしい。
また、音で幽霊のいる方向を判断したり、“オニさん、こちら”という声だけを頼りに隠れている少女を見つけたりと、聞こえ方の強弱で位置を探る新しい遊びも提案している。
緩慢に滅びゆく廃墟の美
最後に、本作の主役とも言える廃墟の序盤から中盤までを順番に見ていこう。
●「思い出の天文台」
セトの故郷とでもいうべき場所。屋根は開閉式で、大きな望遠鏡、壁にかけられた古びた月齢表などが天文台らしいが、布団や洗濯物など生活感漂うものも。奥には立派な資料室が備わっており、いろいろな題名の本が並んでいる。
●「朽ちた地下鉄の廃駅」
「麻布台」と看板が出ている地下鉄の駅。その構内やプラットホームを探索する。駅の売店「ハイカラ商店」や切符売り場はもうボロボロ。無人のホームには電車が止まったまま。地下鉄が走っていたのはいつのことか……。
●「閉鎖された地下商店街」
麻生台駅に隣接する地下商店街。かつてはにぎわっていたらしいが、今はすべての店にシャッターが降り、さながらゴーストタウンだ。お店の中にも入ってみたかった。
●「誰もいない遊園地」
今はもう回らないさびた観覧車が立つ無人の遊園地「月が丘わいわいランド」。草に埋もれたゴーカートのコース、線路がところどころ抜け落ちたジェットコースター……。ノスタルジックな景色に心奪われる。
●「時の止まったホテル」
避暑地を連想させる古いホテル。壁紙がはがれ落ち、窓が割れたホテルは緑に侵食されて見る影もない。それでも、柔らかい昼の光に照らされた室内はかつて流れていた優雅な時間を連想させる。もっとも廃墟の美を体現した場所。
想像力を刺激するタイトル
廃墟を楽しむという観点から考えるなら、フラジールは少々もったいない。夜や屋内など暗い場所が多く、できればホテルと同じく明るい時の建造物の姿も見てみたかった。また、敵が出るのはアクセントにはなっているが、じっくり廃墟を観察するというプレイスタイルのファンには、やはりうっとうしいかもしれない。“ゲームらしさ”と“廃墟の魅力”、どちらも盛り込もうという意図は分かるが……。
ただ、冒頭にも書いたが、切なさと温かさに満ちた雰囲気はこのゲームの強み。ステージとステージの間に挟まる、影絵タッチのムービーもセンスの良さを感じさせる。廃墟という素材の可能性、作品性の高さから、つい“もっとこうしたほうが……”と語りたくなってしまうが、逆にそれだけ心に残るタイトルであるということだけは間違いない。この美しい世界にもう少し浸るためにも、ぜひ続編を。
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