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ハリウッドがDVDの高解像化を望む理由特集:次世代DVDへの助走(1/3 ページ)

» 2004年02月06日 23時55分 公開
[本田雅一,ITmedia]

 1月に行われた「2004 International CESの翌週、ハリウッドの映画スタジオや、DVD制作を行うポストプロダクションスタジオ(ポスプロ)を巡る機会に恵まれた。おりしも、ROM規格がDVD Forumで「HD DVD 0.9」として承認された東芝やNECなどのAOD陣営と、CESでROM規格やHewlett-PackardとDellによるPCへの採用を発表したBlu-ray Disc Foundersの対決が激化し始めた最中のことである。ハリウッドでの取材期間中には、既報のようにAOD陣営によるHD DVDの記者会見も催された。

 この特集では、Warner Brothers、Sony Pictures Entertainment、パナソニック・ハリウッド研究所(Panasonic Hollywood Laboratory)などへの取材を交えながら、次世代光ディスクに向けて助走に入った両陣営の動きを探ってみることにしたい。

ハリウッドがDVDの高解像化を望む理由

 DVDがハリウッドの映画産業に大いに貢献していることは、ここで改めて言うまでもないだろう。今や映画制作による収入の70%は、新作公開後のDVD発売によって得られている。映画館に何人が動員されたとしても、興行収入は30%にも満たない。DVDの売り上げは、米国だけで年間1160億ドルにもなるという。

 しかし、米国でのDVD売り上げは、2005年を境に減少に転じるとの予測がもっぱらだ。DVDの売り上げ枚数は大きな伸びを続けているものの、平均単価は近年下落傾向が強まっている。一時はボーナスディスクなどを添付した特別版などで単価を引き上げていたが、それも激化する販売競争の中では焼け石に水だ。また、売り上げ枚数が伸び続けているとはいえ、DVD市場が充分に成熟しきっていることは関係者の一致した見方である。

 こうした中で、より高付加価値のコンテンツを将来のために育てたいという意図が、ハリウッドの映画スタジオにはある。2004年の現時点において、より高付加価値、すなわちフルHD品質(1080P)で、より高い音響品質の次世代DVDは不要だが、2007年以降を見据えた時、映画産業の成長を維持するには、高付加価値コンテンツは不可欠なものとなるからだ。

 幸いなことに、米国ではHDTVの販売台数が伸びてきており、2005年中には世帯普及率が10%を大きく超え、2007年にも50%に達するだろうと予想されている。テレビ受像器の品質が高くなり、デジタルCATVの普及などでHDコンテンツが増加すれば、HD映像が記録されたコンテンツへの需要も増えると予想される。

 実際、クリスマス商戦が明けて1月の店内改装時期にBestBuyやFry's Electronicsといった大手量販店を訪ねてみたところ、メインの展示はほとんどがHDTV。米国でのテレビ売り上げの中心はリアプロジェクションテレビだが、SDTVのリアプロは隅っこにひっそりと置かれている状況だった。昨年までの、“画面が大きければ何でもいい”という状況は変化し、流通側もHDTVを売る体制になってきている。

 これまで、“HD放送があっても、それを再生する受像器がない”という状況だったのが、デジタル化と大画面化の流れの中でHDTVに普及の兆しが見え、受像器の性能に見合う高付加価値コンテンツにも市場性が見えてきた。

 もちろん、既存のDVD事業が縮小するわけではない。Warner Home VideoのDVDマーケティング担当副社長、マイケル・ラディロフ氏は「われわれのビジネスの中心は、あくまでも既存のDVD市場にある。DVDが登場しても、VHSソフトの売り上げが増加し続けたのと同じように、HDコンテンツが登場してもDVDの売り上げ本数には影響を与えない」と話す。しかし、それとは別の新しい市場を作ろうというわけだ。

photo Warner Brothersの家庭向けコンテンツ制作・販売子会社であるWarner Home VideoでDVDマーケティング担当副社長を務めるマイケル・ラディロフ氏

 Warnerでは、次世代光ディスクの規格が一本化されることを条件に、2006年末にはHDコンテンツの提供を開始する。Blu-ray Discの支持を表明しているSony Pictures Entertainmentは、それよりも1年早い2005年末のHDコンテンツ投入が見込まれている。

 Sony Picturesで国際マーケティング戦略を担当する上席副社長のエイドリアン・アルベロヴィッチ氏は「次世代光ディスクを用いたコンテンツ市場は、既存のDVDに対して“上積み”する製品。ビジネスの中心がDVDであることに変わりはない」とした上で、「HDコンテンツは、まずは品質ありき。次世代というからには、ベストな品質でなければならない。パッケージ製品として成功するには、製品を購入することに対して、喜びを感じる品質であることが条件となる」と、まずは品質ありきの姿勢を明確にする。

photo Sony Pictures Entertainment、国際マーケティング戦略担当上席副社長のエイドリアン・アルベロヴィッチ氏

高品質化、効率化が進むデジタル映画の制作現場

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