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「大容量こそが次世代光ディスクに必要」〜パナソニック ハリウッド研究所特集:次世代DVDへの助走(1/4 ページ)

» 2004年02月10日 23時45分 公開
[本田雅一,ITmedia]

 松下電器産業は、さまざまな意味で律儀な会社だと思うことがある。映画コンテンツへの取り組みもそうだ。かつてUniversal Studiosを買収した時、多くの人が「ソニーが映画会社を買ったから、松下も真似したに違いない」と、少し斜めから松下のことを見ていた。

 確かに、映画事業単体では思ったような収益を上げられず、事業部単位の利益を重視する松下は、グループのリストラを進める中でUniversalを手放してしまった。DVDが開花し、高収益を上げ始める前のことだ。

 だが、松下の“生真面目さ”はパナソニック ハリウッド研究所(PHL)、あるいはDigital Video Compression Corporation(DVCC)として今も生きている。これらは、松下が映画事業に対して、基礎技術や制作ノウハウの部分から取り組んだ証である。

 PHLは、ハリウッド映画ビジネスに関連したデジタル技術の開発拠点およびハリウッドコミュニティとの接点として機能し、現在はBlu-ray Disc Founders(BDF)とハリウッドとのインタフェースとしての役割を担っている。また、DVCCは映画スタジオとは独立したポストプロダクションスタジオ(ポスプロ)として、映画コンテンツのデジタル化を行う企業として運営されている。いずれも、松下が映画事業に取り組む際、その基礎を築くために設立した組織だ。

photo DVCCでのエンコード風景

 次世代DVDへの取り組みについて、BDFと映画スタジオとのインタフェース役を務めているPHL企画担当リーダーのエリン・サリバン氏、主に高画質コーデックの開発を担当しているPHL主任技師の柏木吉一郎氏、それにDVCC技術担当の末次圭介氏に話を聞いた。

大容量こそが次世代光ディスクに必要なもの

 次世代光ディスクというと、最近はどうしても政治的な動きに注目が集まりがちだ。しかし、実際に映画スタジオと協業する中で、純粋に技術者として必要だと感じているもの。それは絶対な大容量と、将来に向けた拡張性、つまり“余裕”だという。

 「映画コンテンツに関わる人間として大容量こそが、今必要なものだ。実際に映画のデジタル化を行うスタジオとして、記憶容量があればまだまだできることがある。SD映像でも、現行DVDの8.5Gバイトでは足りない。インタラクティブなタイトルを作るためには、さらにたくさんの容量が必要なのです」と主張するのは末次氏。

 「かつて、DVDも2層が当たり前になれば、画質も容量も十分と言われました。しかし、制作現場では、改善、改善の繰り返しで、コンテンツの内容もどんどん濃くなっていく。容量さえあれば、スタジオは残っている容量をすべて使い切る。だから大容量こそが必要なのです」と末次氏は続けた。

 確かに、現在のDVDソフトを見ると、ボーナスディスクが付属するタイトルは珍しくない。しかも、2枚とも2層8.5Gバイトいっぱいに使っているケースも多い。より良いコンテンツを制作しようと競争する中で、クオリティの上限を決める要素は容量だ(DVDの上限ビットレートも制限の1つにはなっているが)。

 HD DVDを推進する東芝やNECは、HD映像を収めるハコとしてのHD DVDを、容量とコストのバランスが良い「グッド・インナーフ」なメディアと話しているが、実際にコンテンツを制作する側からすれば、容量がいくらあっても「グッド・インナーフ」などあり得ないというわけだ(1月の記事を参照)。

 「コンテンツの付加価値を上げ、満足できるものにしようとする映画スタジオや監督の要求は尽きない。現時点で“グッド・インナーフ”でも、数年後には不満を感じるハズだ。そのときに、当初よりもさらに進んだ規格にしなければならないとしたら、技術的には困難でも最初から最高の光ディスクを目指したい。DVDだって、最初はCDとの互換性問題や製造コストの問題で攻撃されたが、現在に至って、そうした論点は全く無意味になっている。現時点だけを見て次世代光ディスクを語ることはできない」(柏木氏)。

photo PHL主任技師の柏木吉一郎氏

 そう話す柏木氏は、現行DVD立ち上げ時からコーデック開発に携わり、光ディスクに映像を収めるための、もっともコアな部分の技術開発を行ってきた。それだけに、新規格立ち上げには、将来の発展性に含みを持たせたものでなければならないというコメントには説得力を感じる。

MPEG2も、H.264も、ハイビットレートでの画質は同じ

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