ITmedia NEWS >

世界初“蓄積型双方向放送”、終焉へ

» 2004年02月10日 23時59分 公開
[西坂真人,ITmedia]

 鳴り物入りで登場した“世界初の蓄積型双方向放送”が、静かに幕を下ろそうとしている。

 家電各社らが出資するイーピーが2002年7月から開始している蓄積型放送サービス「epサービス」と、その双方向サービスを生かした「メール機能」が、3月31日で終了することがこのほど明らかになった。今月7日の正午12時から、同社ホームページ(http://www.epep.jp/)やepサービスのポータル画面などで、epサービス利用者に告知している(本日2月10日時点では、同社から正式な発表は行われていない)。

mn_ep1.jpg ホームページに掲載されたサービス終了の告知

 epサービスは、「デジタル放送(BSデジタル/110度CSデジタル)」「セットトップボックス(epステーション)に内蔵されたHDD」「通信(インターネット)」という3つのメディアを統合した世界初の蓄積型双方向サービスとして、2002年2月に正式発表(2002年2月21日の記事を参照)。epステーション内蔵HDDでプロバイダエリアとして確保される20Gバイトを使ったデータ蓄積サービスによって、好きなときに好きな番組/情報を瞬時に取り出して視聴できる点を最大の“売り”としていた。

 サービス終了により、epサービス会員(月額380円)に提供していたデータ蓄積型放送チャンネル「epチャンネル」が4月1日以降利用できなくなる。なお、110度CS放送のep055/ep056チャンネルは継続して放送される。

 epサービス利用のためにユーザーが購入したepステーションは、サービス終了後もBSデジタル/110度CSデジタルチューナー内蔵HDDレコーダーとして継続利用が可能だが、蓄積サービスに利用していた内蔵HDDのプロバイダエリア20Gバイトだけは番組録画用として使うことができない。保障期間内(購入後1年)の修理は無償だが、それ以降の修理は有償(3万円、新品交換)となる。

 同社はepステーションの返品や返金にも応じる構えで、epサービス会員には、サービス終了のお知らせとサービス解約の承諾書が2月9日から順次郵送されている。ユーザーは、サービス解約に同意した上で「継続利用」か「返品/返金」を選択して、3月20日までに承諾書を返送。承諾書を返送したユーザーには、3000円分の商品券(VISAギフトカード)が贈られる。

mn_ep1a.jpg epサービス会員に届くサービス終了のお知らせ/承諾書

 「返品/返金」の場合は、宅配便業者(佐川急便)によってepステーションを無償で引き取り、回収後に購入金額の全額をユーザーに返金する。なお、3月31日時点ですべての会員情報をデータベースから削除されるため、3月20日までに承諾書を返送しないユーザーは「継続利用」とみなされる。

早過ぎた?“夢の放送サービス”

 「HDDを使った蓄積型放送」という世界初の試みは、業界からも大きな期待が寄せられていた。

 発表当時に社長だった戸田長作氏は発表会の壇上で「2003年までに100万世帯、2005年には300万世帯(1000万ユーザー)の獲得を目標としている」と、バラ色の未来予想図を描いていた。

 だが、当初は松下電器産業/東芝/ソニーという大手家電3社でスタートした“夢の放送サービス”も途中でソニーが離脱(2001年6月の記事を参照)し、さらに予定していた2002年初頭のサービスインも二転三転して結局は7月に延期(2002年5月の記事を参照)されるなど、スタートから迷走していた。

 サービス終了の理由について、同社広報から公式なコメントは発表されていないが、関係者からは「インターネット/ブロードバンド/HDDレコーダーなどの急速な普及によって、蓄積型放送のメリットが薄らいだ」との声も聞かれる。

 また、蓄積型放送に魅力的なコンテンツを用意できなかった点や、当初予定されていたブロードバンド対応機(2001年11月の記事を参照)を含めepステーションのラインアップが増えなかった点、昨年12月からスタートした地上デジタル放送をサポートできなかった点などもユーザー離れの原因だろう。

 当初8万円前後したepステーションや、月額1000円のepサービス利用料も、未知の放送サービスへの投資額としては大きすぎた。同社は2002年10月にepサービス利用料を月額380円に値下げしているほか、epステーションを格安で提供するキャンペーンを展開したり、初年度の月額利用料を無料にするといった販促策でユーザー獲得を試みたが、大幅な加入者増には至らなかった。

 実は、筆者も昨年夏に3万9390円というキャンペーン価格でepステーション(松下電器製)を購入。正直いって、epサービス自体にはまったく魅力を感じていなかったのだが、BSデジタル/110度CSデジタルチューナーを搭載した60GバイトのHDDレコーダーが4万円弱で購入できるという誘惑に負けてしまったユーザーの1人だ。

 実際に使えるHDD容量は40Gバイトと近年の最新機種から比べると見劣りするが、HD放送まで録画できるWデジタルチューナー搭載機としては、現在でも十分コストパフォーマンスは高い。そして今回のepサービス終了で、今年の夏から始まる予定だった月額380円(epサービス利用料)の支払いの心配もなくなった。イーピーからの承諾書では、「継続使用」を選択するつもりだ。だが、筆者のようなキャンペーン価格で購入したユーザー以外は、「返品/返金」を選ぶユーザーも多いことだろう。

mn_ep2.jpg 筆者宅にあるepステーション(松下電器製)。リモコンの中央にあるオレンジ色のepボタンは、4月以降は無用の長物となる

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.