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基地局カバーは半径70キロまで可能――イー・アクセスが推すTD-SCDMA方式

» 2004年02月20日 19時17分 公開
[RBB Today]
RBB Today

 現在総務省がおこなっているIMT-2000高度化方策作業班において、イー・アクセスは米Navini Networks社の開発した「TD-SCDMA(MC)」方式を提案している。

Navini Networks CTO Dr.Xu

 既報のとおり、イー・アクセスはこのTD-SCDMA(MC)方式で定額のモバイルブロードバンドサービスを提供したい意向を明らかにしているが、今回このTD-SCDMA(MC)の生みの親ともいうべきNavini社の執行役副社長兼CTOのDr. Guanghan Xu氏と、イー・アクセス新規事業企画本部の諸橋知雄氏にお話をうかがった。

他の「高度化」方式との違い

 TD-SCDMA(MC)が、TDD方式でこれまで注目されていた「TD-CDMA」と異なるのは、大きく分けて「スマートアンテナの採用」「マルチキャリア化」「上り通信の同期」の3点。

 このうち「スマートアンテナ」というのは、原理的にはイージス護衛艦に搭載されている「フェイズドアレイアンテナ」と同様のもの。複数のアンテナユニットの入出力を集めてデジタル処理し、端末のある方向を狙って電波を送受信することができる。通常のアンテナの全方位への発信と異なり、干渉を抑えることができる。“新方式のアンテナ”ということで気になるコストについては、「スマートアンテナということでどんなに高いかと思っていたが、ビックリするほど安い」(諸橋氏)ということで、スマートアンテナを採用したことでTD-SCDMA(MC)がコスト的に不利になることはないようだ。

 マルチキャリア化は、使用する帯域をさらに分割して使用する方法。方式名の後ろに付いている「(MC)」はマルチキャリアの略だ。マルチキャリアの採用により、マルチパスによる影響を抑えることで通信速度を安定させることができるという。

 無線通信では、電波がビルや山などで反射すると、基地局と端末の間に複数の電波の経路(パス)ができてしまう。この「マルチパス」が起きると、それぞれの経路の距離が異なることから、一つの信号がちょっとずつ時間のずれた状態でやりとりされるため、無線通信の品質に影響が出る。テレビのゴーストと同じ現象だ。

 実際には、マルチパスが発生すると一部の周波数帯に影響が出るのだが、マルチキャリア化することによって、影響を受けない帯域だけ使って通信を続行できるため、シングルキャリア(帯域全体を分割せずに使う方式)よりも安定性が確保できるという原理。実際には、TD-SCDMA(MC)では、5MHzの帯域を10に分割して使用している。

広いカバーエリアと柔軟なサービス

 Naviniによれば、基地局のエリア半径は48kmまで可能で、アメリカではプロトコルを調整して70kmでのサービスを行った経験もあるという。Xu氏によればTD-CDMA方式は半径7km程度ということなので、TD-SCDMA(MC)とTD-CDMAでは1基地局のカバーエリアには面積的に50倍近い開きがあることになる。基地局あたりのカバーエリアが広ければ、人口密集地以外での導入コストが引き下げられるため、エリアの拡大はしやすそうだ。

 また、TD-SCDMA(MC)はTDD(時分割多重)方式のため、上り帯域と下り帯域の通信速度比の変更がしやすいというメリットもある(上りと下りに割り当てる時間配分を変えればいい)。このためたとえば、ビジネス時間帯は「上り下り1Mbps(上りと下りを1:1に設定)」に、夕方以降はホームユースに向いた下り重視の「下り1.5M/上り512k(下りと上りを3:1に設定)」といったサービスも、基地局側の設定だけで実現可能だという。

 総務省のIMT-2000高度化方策作業班でどのような方向性が示されるかはわからないが、今後のモバイルブロードバンドの動向は要注目といえそうだ。