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中村彰憲氏に聞く中国オンラインゲーム市場動向(前編)

» 2004年02月25日 17時41分 公開
[RBB Today]
RBB Today

 日本とは桁違いのユーザーを抱えて成長を続けている中国のオンラインゲーム市場。研究者という立場から、中立的な視点でこの巨大中国市場を調査し続けている中村彰憲氏にお話をうかがった。

この4月より立命館大学政策科学部助教授に就任する中村彰憲氏

―― まず、日本とは全く違ったペースで成長している中国のオンラインゲーム市場全体についてお話しいただけますでしょうか?

 まず、中国においてオンラインゲームは文化現象となりつつあるということです。たとえば日本でもある程度人気が出てきているインターネットカフェですが、中国では20万軒から30万軒まで発展していると言われていて、5階建てや6階建てのインターネットカフェで、顧客の層に合わせた店舗作りをするところも出ています。こうしたネットカフェでは、店舗を利用してMMORPGが派手に宣伝されています。店舗の床にゲームの広告を貼ったり、店内で特別なイベントを催したりと、日本であればパッケージゲームでやるような販売戦略がオンラインゲームで行われているわけです。

 また、他のコンテンツ産業との連携についても動きが出てきています。たとえば盛大ネットワークの“神蹟”は、“Legend World”の3D MMOG(多人数オンラインゲーム)版ですが、オープニングに映画「覇王別姫」「始皇帝暗殺」のチェン・カイコー監督をディレクターとして起用しています。このほか、華義が開発中の三国志を踏襲した3D MMOG「鉄血三国」では、三国志で有名な画家の鄭問氏をキャラクターデザインとして起用して3D化をおこなっています。このように、単なるゲーム産業の中だけの動きではなく、ほかのコンテンツ産業、映画産業の人材なども登用して、新しい販売促進戦略を組んでいるようです。

―― ゲーム産業が儲かってくると、ほかの産業からいい人材が入ってくる、と

 日本でもそうですし、アメリカではたとえばハリウッド映画「ダイナソー」のアニメのスーパーバイザーをしていた人がValve(Half-Life IIなどの開発元)に入社して、アニメーションのディレクションをやるといった動きがあり、日本、アメリカで起きている現象が中国でも起きてきていると言えます。

―― 中国のゲーム市場規模について教えてください

 中国市場の統計については、最近アップデートがありました。インターネットにアクセスする人の数については、2003年7月の統計では6800万人とされていましたが、2003年12月には7950万人へと伸びてきています。

 ただ、2001年から2003年まで伸びてきていたMMOGの市場規模ですが、今回34.8億元と13.2億元という二つの統計が出ています。あまりに数字に開きが大きいので調べてみたのですが、オンラインゲームの市場規模の調査方法にはプリペイドカードの流通からの調査と、事業者からのヒアリング調査に基づく方法があって、これがSARS(重症急性呼吸器症候群)の影響で「プリペイドカード在庫のだぶつき」が出て、大きく違う二つの統計結果が生じたようです。

 あと、インターネットをどういう用途に使っているか、という項目について懸念される数字が出ています。これまでゲームについては17.1%、18.6%、18.1%、18.2%と、だいたい18%ぐらいで推移していたのですが、2003年12月には14.7%にかくっと落ちてるんですね。人数的には単純計算で1168万人で非常に多いのですが、この落ち込みが供給過剰で飽きが出ているためではないかと懸念しています。現在主流となっているMMORPGは、いずれもDiabloタイプの俯瞰視点のもので、見た目や設定はいろいろ変わっていても、ゲーム内での活動自体はほとんど変わらないわけですね。それであとはゲーム内での運営側のイベントをやれるかになるわけですが、2年も3年もやってきていると、特別なアイテムを出すとか、モンスターになれるとか、だんだん選択肢は狭まってきてしまうわけです。

 そうなってくると、これまでと違う機軸のゲームが求められるようになってきて、その一つとしてリネージュIIが期待を集めているようです。ネットカフェの方でも、リネージュIIのためにPCをハイスペックのものにするなど、差別化の動きが進んでいます。

 ただし問題なのは、インターネットカフェは教育などの施設であって、遊戯施設ではないということになっているため、政府を納得させながら店舗としての洗練化を進める必要がある点ですね。

―― 遊戯施設ではない?

 インターネットカフェはコミュニケーションやビジネス、教育などをおこなう場であって、遊技場、日本におけるゲームセンターとは違うということになっています。中国では、ゲームセンターのような設備の設置・運営は1999年に国務院により発布された娯楽拠点管理条例という規制により非常に厳しく規制されていますから。

―― 先生はチャイナジョイに行かれて政府の方々とお話しされたかと思いますが、いかがでしたか?

 健全な施設、健全な環境を、ということでしたね。政府としては、海賊版問題の突破口になるのがオンラインゲームだと考えていて、オンラインゲームがちゃんとした規律のもとに発展して欲しいと考えているようです。

―― オンラインゲームという産業が成立すれば、コンテンツ産業の正の循環がまわっていくことになるわけですね

 これは海賊版と戦ってきた中国の業者にとっても非常に嬉しいことです。海賊版ばかりが目立っていますが、中国にはまともなビジネスをやりたい人も存在するわけで、正しい形でコンテンツを商売できるというのは、売る側にとっても魅力的なのです。

 ですから中国においては、ビジネスが成り立つMMORPGは、日本では想像つかないような派手な展開をしています。ネットカフェ店舗に行っても、大きなポスターを貼られたりしているのはすべてMMORPGですね。(後編に続く)

(聞き手はIRI-CT代表取締役 宮川洋)