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Column:次世代DVDは“理想論”と“現実論”の対決特集:次世代DVDへの助走(1/2 ページ)

» 2004年02月27日 20時27分 公開
[本田雅一,ITmedia]

 2月26日、DVD Forum幹事会においてHD DVD-ARWが承認された。この連載の中でも触れた圧縮コーデックに関しても、暫定承認ながらH.264、WMV9、MPEG2の3種類が定義され、東芝とNECが1月に示した見通しにほぼ近い形での決着が付いた。

 もっとも、一部報道にあるように“これで標準が定まり、多くのベンダーが東芝に続いて製品を投入。普及に向けて大きな前進”だとは思えない。DVD Forumは、かつてないほどの成功を収めた業界標準を確立した団体ではあるが、あくまでも業界団体の域を出ていない。“HD DVDの承認=国際標準の確定”という式は成り立たないからだ。

 ITmediaでは、今後も次世代DVDの取材を継続する。ライバルから何度も指摘されているBlu-ray Discの製造コスト問題、多少強引にも見えるDVD Forum内の舵を取っている東芝の意図などを追加取材していく予定だ。今回は、これまでの取材結果や動向をまとめ、取材時の“感触”を含めたコラムとして書くことにしたい。

ROM規格は“容量”対“作りやすさ”

 次世代光ディスクという切り口で考える場合、コンテンツ配布用のROMと、録画可能な記録型は分けて考えた方がいい。記録型の場合、最悪でも下位互換性を取っていけば将来のステップアップも可能だ。しかし、コンテンツ販売のインフラとなるROMは、一度決めるとよほどの理由と性能、機能、使い勝手などの向上がない限り、別の新しいフォーマットに更新できない。CD然り、DVD然りだ。

 「HDTVの普及を前提に、HDTVの能力を引き出すための新しいメディアフォーマットが必要」という理由が、本当に新しい市場を形成できるか? といった視点はさておき、そうしたニーズがあると仮定して、新しい映像コンテンツ用ROMメディアに何が求められるかが、BD対HD DVDの比較を行う上で重要な要素になってくる。

 両陣営の主張をまとめると、BD側は“可能な限り最高の技術をもって容量を高めHDコンテンツに臨むべき”という理想論、HD DVD側は“新コーデックで圧縮率を高められる現在、既存DVDとの互換性とコストを重視すべき”という現実論を展開している。

 一度決めたなら、なかなか更新できないROMメディアだけに、どんなコンテンツでも最高の品質で届けることが可能な“大きな箱”を用意するのは当然というBD側の主張は、実にシンプルでわかりやすい。連載の中でも述べたように、コンテンツ制作側がHDテレシネからフィルムスキャンに製作工程が移り変わることで、今後さらなる画質向上の可能性を説いていることも興味深い。将来、フルHDフォーマットの枠の中で、さらに画質が上がるのであれば、それに追随するだけの潜在力が、次世代の光ディスクには必要といえる。

 一方、HD DVD側の主張も理解できないわけではない。0.6ミリシステムを採用することによるメリットは、DVDとの互換性、DVD/HD DVDコンパチブルプレーヤー製造のコスト、HD DVDメディア製造コストなどだ(もっとも、BD側も製造コストを下げられる技術的な根拠があると主張している。この点については、別途取材を予定している)。

 ただ“コーデックの進化”を、どのように捉えるべきかについては、評価の分かれるところだろう。“高品質コンテンツのパッケージ販売”という趣旨からすれば、ROMメディアは可能な限り高品質なコーデックで収められるべきと思うからだ。電波に乗って空から降ってくるコンテンツはMPEG2なのに、個人ライブラリとして購入するコンテンツがH.264でいいのか? この点は慎重に議論すべきところだ。

 もちろん、HD DVDでも従来と同じMPEG2を利用可能だが、片面1層15Gバイト、2層30Gバイトという容量ではあまり現実的な選択肢ではない。MPEG2/24Mbpsをひとつの指標にして考えると、3時間の大作映画は片面では収まりきらないことになる。

 もっとも、技術的な側面はともかくとして“現実的な解決策”としてHD DVDが支持される可能性は決して低くない。ROMメディア普及のカギはコンテンツのパッケージ販売にあり、そのカギを握っているのはハリウッドメジャーだ。最終的に、彼らの多くは、より再生環境が普及している方に流れるだろう。主要なAV機器ベンダーはBDFのメンバーになっているとはいえ、安さと数の論理で攻められればどう転ぶかはわからない。

記録型で優位なBD

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