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「どこにマーケットがあるか」が大事 〜イー・アクセス千本氏

» 2004年03月01日 23時59分 公開
[杉浦正武,ITmedia]

 ベンチャー企業は、どこに大きなマーケットがあるか見極めるのが大事――。そう話すのは、イー・アクセスを設立し、2003年9月中間期で5.5億円の純利益を計上するまでに成長させた(記事参照)千本倖生社長だ。

 同氏は3月1日、通信・放送機構が運営する「情報通信ベンチャー支援センター」が開催した定期イベントで、パネルディスカッションに参加。“成功しつつある、ベンチャー企業の先輩”としての立場から、会場に集まった聴講者に向けて自説を展開した。

Photo イー・アクセスの千本社長

次のマーケットはどこに?

 千本氏はこれまでも、どこに潜在的に巨大なマーケットがあるか考えてきたと話す。1つのポイントとなるのが、ユーザーニーズがありながら、満足なサービスが提供されていない分野だという。

 「だいたい、矛盾していることがあると、そこに大きなマーケットがある」。DDI時代に、当時料金が高いとされた市外通話に目をつけたこと、インターネットがナローバンドの時代に、イー・アクセスでADSL事業を立ち上げたことなどが、これにあたるとした。

 会場では、千本氏に「現在は、どこに大きなマーケットがあると思うか」との率直な質問も飛んだ。これに対し千本氏は、「あまり話すと、インサイダー取引規制に引っかかる」と言葉を選びつつも、チャンスは“モバイルブロードバンド”の分野にあるとの見方を披露する。

 「いま、ブロードバンド市場だけは、最も規制緩和が進んだ分野。その中で、固定のブロードバンドは、米国、韓国を超えて世界1位になった。ただ、いったん外に出ると、PHSの64Kbpsで通信するしかない」。

 2月5日に開催されたイー・アクセスの記者会見でも、同氏はTD-SCDMA(MC)を利用したモバイルブロードバンドサービスに強い意欲を見せている(記事参照)。当面は、この分野でのサービス展開に思い入れが強いことを、改めて示した。

ベンチャーを育てるには……

 会場では、ベンチャーが育つにはどういった条件が必要か、とのテーマで議論が行われた。千本氏は、もちろん各種インフラが大事であると断った上で、人的ネットワークが互いに影響を及ぼし合うことの重要性を指摘する。

 「私は、シリコンバレーのハイテク企業数社の役員も兼務しているが……あそこで生活していると、まわりにベンチャー企業があふれている。『このあいだ、IPOを実現させた』『また新しい事業を立ち上げた』という声を聞いているうち、“心情的環境”が整ってくる」と、表現した。

 その上で、千本氏は後進のベンチャー企業に、1つ警鐘を鳴らしたいことがあると話す。

 「企業というのは、やはり大きく発展させないといけない。もっと大志を持ってもらいたい」

 千本氏は、「ヤワな思い付きで、ポッと企業を設立する、そういうこともあっていいが、やはりいずれはトヨタ、キヤノンのような大企業にしたいと考えて、しっかりとしたベンチャーを作ってほしい」と話す。そうでなければ、日本の本当の意味での産業構造は変わらないという。

 同氏は、イー・アクセスでは上場までに、外資系ベンチャーキャピタルなどから200億円の投資を集めたと強調する。そのためには、700ページに及ぶ事業計画書を作成したとも話した。「(700ページの事業計画書を)つくれないところは、せいぜい3000万円、5000万円程度しか集められない」。

 同氏は重ねて、ベンチャー企業として成功する条件に、優れた経営陣を揃えること、従業員にストックオプションなどの十分なインセンティブを与えること、などを挙げる。最後は、「やはり経営者の情熱が大事。経営者が赤と思ったら、全社員を真っ赤に染め上げるパッションが必要だ」と締めくくった。

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