携帯電話でMusicIDのサービスセンターに電話をかけ、店で流れている曲を聞かせてやるだけで、誰の何という曲名か、音声で返してくれる。キャリアや端末の能力+インテグレート次第では、テキストで返すことも可能だ。
実際にこのサービスは、スペインのキャリア「Amena」でサービスが始まっており、好評だという。韓国のキャリア「KTF」でも、この春からサービス開始が予定されているほか、もちろん日本でも複数の企業と交渉中であるという。
このサービスは、単に曲名が分かるというだけでは大した商売にならない。各キャリアやシステムインテグレーターが興味を持つのは、そこから楽曲や着メロのダウンロードサイトにリンクすることである。MusicIDは、視聴してから曲を買う、ということがモバイルで実現可能になる基本技術という見方もできる。
Gracenoteが次世代サービスとして注目しているのが、Playlistだ。Playlistはジュークボックスソフト内では検索機能と合わせていろいろなものが作成できる。iTunesでは曲の年代別やよく聴いている回数など、さまざまな条件でのPlaylist作成機能がある。
CEOのクレイグ・パーマー氏は、「今ユーザーは、音楽をストックすることに注力している。だが今後は、それらをいかに快適にオペレートしていくかがポイントになるだろう。」と語る。
Gracenote Playlistのデモプログラムでは、その曲が有名であるかどうか、国、年代やジャンル別、アーティストの性別やソロであるかグループであるかといった細かい条件設定でプレイリストが作成可能だ。さらに発展系として、あるグループに音楽的に近いアーティストや、ある特定の曲に似たもの、といった条件を設定することもできる。
米国には、モービルエンタテイメントという独特のマーケットがある。車の中でオーディオやDVDなどを楽しむという世界だ。運転者が操作する可能性のあるこれらの操作は、簡単で素早く、しかも結果が面白いものが求められる。Gracenote PlaylistはPC上だけでなく、モービルエンタテイメント機に組み込んで使われる可能性のある技術だ。
だが、このようなPlaylist作成を実現するためには、音楽のメタデータが検索のきっかけとなるような、豊富な情報を持っていなければ話にならない。アーティスト名と曲名だけでは、年代やジャンル別のPlaylistは作れないのである。
そこでGracenoteでは、「Clean」という技術を開発した。これはMusicIDのようにその曲のFingerPrintを作ってCDDBに検索をかけ、不完全な音楽ID情報を完璧なものに書き直すという技術だ。1曲だけでは見つからない場合でも、アルバムのフォルダ単位で検索をかけることで、アルバム全体のFingerPrintのパターンを判別して、それに該当するアルバムを見つけてくることも可能だ。
われわれ人間は、自分の知っている曲であれば、ギター1本で歌っても、あるいは鼻歌であっても、「ああ、あの曲ね」と判断できる。MusicIDのような認証技術は、言うなればコンピュータに歌を分からせる技術だ。
CTOのタイ・ロバーツ氏に「MusicIDは、鼻歌やカラオケの音声からでもオリジナル曲を見つけられるか」と尋ねたところ、今はまだCDなどにレコーディングされた音声波形だけだという。だがスペインでのMusicIDサービスでは、電話口で鼻歌を歌って曲を探そうとした人が結構いたようだ。GracenoteとMusicIDの認証技術を共同開発しているPhilipsでは、これをヒントに、鼻歌などの認識技術の可能性をリサーチしているという。
メロディは覚えているものの、誰のどんな曲なのかかわからないという経験が、誰しもあることだろう。そんな音楽も、鼻歌を歌っただけでオリジナル曲が手に入る時代が、もうすぐ来るかもしれない。
小寺信良氏は映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。
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