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ソニー、ビクター、松下――「HDV」をめぐる攻防(1/3 ページ)

» 2004年05月06日 06時02分 公開
[小寺信良,ITmedia]

 もう先月の話になってしまうが、4月19日から22日まで、米ラスベガスで世界最大規模の放送機材展「NAB2004」が開催された。放送関係者、とくに技術系の人間にとって年に一度のNABは、江戸時代における“お伊勢さん参り”みたいなもんである。筆者も現場が忙しかった一時期、このお参りをさぼっていたが、2000年ぐらいから毎年行くように心がけている。

 大手放送機器メーカーというのは、実はほとんど日米に集中している。したがってわざわざラスベガスまで行かなくても、日本にいてプレスリリースなどを読んでいれば、情報はあらかた分かってしまう。だがわざわざショーを見に行くのは、やはりそこでしかわからない人の流れや勢いみたいなもので、業界の今後がなんとなく分かるからである。

 今回はNAB会場で感じた、業界における「ある流れ」をレポートしよう。

関心が集まるHDV

 多くの人が何に興味があるか、というのは、本当に人を集めてみなければわからないものだなぁと感じた一つは、HDVに関する関心の高さだった。HDVをご存じない方に簡単に説明しておくと、民生用DVテープにHD解像度のMPEG-2を記録するフォーマットである。

 ことの発端は、日本ビクターが昨年3月に発売した家庭向けHDTVカメラ「GR-HD1」にある。このカメラ自体はHD解像度の720Pしかサポートしていないが、HDVフォーマットではこれに1080iを加えて、昨年9月に策定された。規格の中心となっているのは、キヤノン、シャープ、ソニー、日本ビクターの4社。だがHDVロゴのライセンスは、ソニーと日本ビクターの2社が持っている。

 もともとビクターとしては、コンシューマーでは720Pで十分という腹だったろう。確かにちゃんとした放送用記録フォーマットで比較する限り、720Pと1080iの差はほとんどない。画素数の少ない720Pなら、HDVでもエンコード次第では、かなり上質となるだろう。だが最終的に、規格としては1080iもサポートすることとなり、放送フォーマットとコンパチになった。

 HDVはコンシューマー用のフォーマットだが、オフィシャルサイトをのぞいてみると「規格賛同メーカー」、すなわちカメラそのものではなく、編集などのアフターソリューションを提供するメーカーは、22社にも上る。この中にはプロ系メーカーも多く含まれている。

 ノンリニア編集システムは、HD対応が今年の売りになるわけだが、AvidやAppleなど、HDVフォーマット対応を積極的にうたうところも多い。だが、まだHDV規格カメラと呼べるものは、ビクターの「GR-HD1」とその業務用バージョン「JY-HD10」しかないのである。そこにこれだけのメーカーが群がっていることになる。

HDVに期待する部分

 HDV規格は、現状のSDTVにおけるDVカメラのような位置付けになるであろうことは、容易に想像できる。だがこのDVカメラに対する感覚も、日米では若干温度差があることを知っておいた方が、話が分かりやすいだろう。

 日本の場合、操作の簡単さから、バラエティなどでタレントに持たせたり、ドキュメンタリー撮影でディレクターが撮ったりといった、「サブカメラ」としての用途が多い。中心となる撮影にはちゃんとした放送用カムコーダーを使うというのが常識であり、プロのカメラマンに「今日の撮影はDVで」というと、文句の一つも返ってくるのが普通だ。

 だが米国では、意外にDVがメインカメラとして使われるケースが多い。長期ドキュメンタリーのようにじっくり腰を据えて撮影するようなものなど、ランニングコストと画質を天秤にかけて、これでOKというわけだ。特にキヤノンの「XL1S」のようにレンズ交換できるカメラは、人気が高い。

 単焦点レンズをとっかえひっかえしながら撮影するというスタイルは、フィルム撮影では当たり前だ。日本ではそもそもフィルム撮影自体が少ないので、あまり一般的とは言えないが、元々フィルム撮りが多い欧米では、レンズは変えて当たり前、という考え方が根底にある。そんなことから、XL1Sを使って撮影することが一つのスタイルとして確立している。

 欧米人が期待するHDVの姿は、このようなあり方のHD版というイメージなのである。だから現状のGR-HD1では、物足りなく感じていることだろう。今回NABのJVCブースでは、ハイエンドHDVカメラのプロトタイプが発表された。撮像素子にCCDではなく、C-MOSを使うというユニークな3CCDカメラだ。ガタイから見ればわかるように、完全に放送・業務向けである。

JVCブースで出展されたハイエンドHDVカメラのプロトタイプ

 だがこの製品は、ちょっと業界人の思惑と微妙に外れているかもしれない。

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