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あらゆる輸入音楽CDに規制を?――危険な著作権法改正が進行中輸入音楽CDは買えなくなるのか?(2/4 ページ)

» 2004年05月12日 17時57分 公開
[渡邊宏, 中川純一,ITmedia]

 シンポジウムに参加した川内代議士によれば、著作権分科会の報告書では、この問題は「慎重に検討すべき」と結論を保留していた。「それにもかかわらず、官僚側が強引に著作権法改正の法案化を進めた」という。

 その上、この法改正では「建前上、還流CDを対象にしているが、法律の構成上はすべての輸入CDが対象になる」(川内代議士)。「還流を防止して国内レコード会社の利益を保護し、ひいては国内のコンテンツ産業を保護する」という目的の法改正が、いつの間にか輸入CD全般への規制と「すりかえられていた」(同氏)のだ。

 なぜそうなったのか、その事情は実は明らかになっていない。邦楽CDに限定して保護するということが、法律案を作成する上で、技術的に困難であった可能性もある。だが、巷でささやかれているのは、全米レコード協会(RIAA)と国際レコード産業連盟(IFPI)の介入説だ。

 政府は最終報告書案を取りまとめるのにあたってパブリックコメントの募集を行う。著作権分科会の報告書もこの手続きが踏まれた。そのパブリックコメント段階で、RIAAとIFPIは日本の著作権法に「輸入権」の設置とレコード業界への適用、そしてその適用を国内のレコード会社だけでなく、海外のレコード会社にも認めるよう求めたとされる。

 実はこのRIAAとIFPIのパブリックコメントについて、文部科学省および文化庁は現時点でそういった事実のあったこと、どういう内容であったのか、などを一般向けには公表していない。川内代議士も、その文書を入手したのは、なんと改正法案が参議院を通過してからであったという。

 「改正法案が参院を通過したのが4月20日。文部科学省がRIAAなどから寄せられたパブリックコメントを私たちに明らかにしたのはそれからだった。それまでは隠していたんですね」(川内氏)

 ネットなどではこのパブリックコメントの英文や邦訳が“流出”しているが、その真偽は定かではない(注:記事執筆後の5月11日、文化庁は取材に応じ、RIAAとIFPIからパブリックコメントを寄せられたこと、およびその内容がネット上で流れているものとほぼ同一であることを確認した)。だが、川内氏の指摘する内容も、この流出文書の内容にほぼ沿ったものだ。

 「パブリックコメントの中では、RIAAやIFPIは“並行輸入を憎む”と正直に記述している。彼らも、日本という、非常に高い価格でCDを買ってくれる市場をブロックして、十分な利益を上げようとしていることが文中から読み取れる。参議院の審議の中では『輸入盤が止まるようなことはない』と政府は盛んに言っていましたが、そうではないということがそこで分かったわけです」(同氏)。

 川内代議士は質問趣意書を文化庁に提出、それによって、今回の著作権法改正で並行輸入が止められうる可能性があることを確認したと言う。メジャーレーベル(大手海外レコード会社)は今のところ権利を行使しないと言われているが、RIAAなどのコメントを考えると、それは保障されたものではない。

なぜ輸入CDが「止まる」のか

 「輸入権」を内外無差別に認める今回の改正が実施された場合、さまざまな条件で輸入CDが止まる可能性がある。

 まず第一は、“国内盤”が存在する場合で、その場合、国内の販社、欧米の発売元の双方から、平行輸入品を著作権法の侵害として販売の差し止めや刑事告発を行うことができる。

 現在、日本国内で年間に販売される洋楽CD約1億3000万枚のうち、約6000万枚がいわゆる「輸入盤」で、残りの約7000万枚が国内のレーベルから発売されている「国内盤」(枚数は川内氏の発言より)だ。この国内盤と競合する輸入盤は市場から締め出されてしまうわけだ。

 輸入CDのうち約4割は、洋楽メジャーの日本法人・支社などが輸入販売している「正規輸入CD盤」とでもいうべきものだ。だが、彼らも2400円の輸入盤で売っていたものが、競合相手=並行輸入盤がなくなれば、邦楽CDと同じ3000円程度のCCCD(コピーコントロールCD)で販売したほうが得策――という判断に傾く可能性が十分にあるだろう。

 実際、メジャーが洋楽の輸入CDを始めたのは、そうしないと並行輸入に勝てなくなったからだと言われているし、洋楽の国内盤が邦楽の国内盤と比べると比較的安価で売られているのも、同様の理由と言われる。「輸入権」が成立すれば、このあたりの販売政策は、メーカーサイドの裁量に委ねられるようになる。

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