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コラム
2004/05/18 06:02 更新

プロフェッサー竹村のIT的「スローライフのススメ」
「スピード」は「習慣性のある合法ドラッグ」なのだろうか? (2/2)


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 しかし、残念ながら、筆者の周囲では、自信を持って、「その通りだ!」と言い切れる人は皆無であった。IT関連の進歩で、本来余ったはずの巨大な「暇になってはずの自分の時間」はいったい、いつどこに、消え去ったのだろうか?

 だれがIT技術を使ってわれわれ自らが創り出したはずの「時間」を、食べてしまっているのだろうか。それは本来、個人個人の「余暇」という名の猶予時間として還元されるはずのものだったのだ。

、暇が「正しいもの」かどうかという議論はさておいて、時間はお金と同じく個人の重要な資産であり、自らが使い道を考え判断できるべき大事なリソースの一つであることにはかわりない。世の中には「お金持ち」になりたい人が居るように、「お時間持ち」になりたい人が居てもおかしくはないはずだ。

 大陸型資本主義の原則なのかもしれないが、現代は、「お金持ち」になりたい人の思考や嗜好が体制の“骨組み”や“ルール”を決め、活動する舞台を形作る。残念だが、「お時間持ち」を望むベクトルの異なる人は、そのステージから降りることでしか自らの夢を実現しずらいおかしな世界になりつつあるようだ。

 ITワールドを平等で健全なモノにし、使い古された「情報技術」という世界の今後の発展をまじめに考えるなら、ITは、単に「On Demand Businessの実現」だけを目標にするのではなく、その成果、あるいは過程においても「生活の余裕」や「人の幸せ」を実現することを、誰の目にも分かるように、明示的に、最終目的として位置づけるのが本来の姿となって行くべきだろう。

 どれほどテクノロジーの進歩によってコンピュータやネットワークのスピードが画期的に変化しても、それによって社会環境のスピードが相対的に高速化しても、われわれ人間の根元的なスピードをコントロールしている心臓の鼓動や呼吸数は、原始人がこん棒を振り上げて猿の群れを追い払った頃と何ら変化していないはずだ。

 すべてのIT世界で働く人こそ、「現代社会」を“永遠にスピードアップ出来るランニングマシン”と捉えるのではなく、できることから率先して、意識と勇気を持って、自らの生活をスローダウンしてゆくことが必要な時代なのではないだろうか。

 世界で有数の「長寿国」である日本は、同時に世界でもワーストの「自殺国」の一つでもあるのだ。IT業界が驚異的な伸びを示した時代と時を同じくして、毎年のように増え続ける自殺者の数は、決して無縁なモノとは思えない。

 いつの時代も、けっして「速さは力(*1)」ではないだろう。「明日できることは明日に」、そして「できるけれども、今はやらない」といった判断は、人間の最も優れたユニークな判断能力のひとつだ。

 今後、筆者は「スローダウン(SLOW DOWN)」が未来のITワールドを救う重要なキーワードの筆頭であると考えている。

 これからは、「連鎖」による「エンドレスのスピードアップ」ではなく、「必要なムダ」の存在を見直しながら、個人の判断による「スローダウン」を行うべく、現代のIT社会をもう一度見直して行きたい。

竹村譲(Joe Takemura)氏は、現国立高岡短期大学産業造形学科教授。日本アイ・ビー・エム在籍中は、DOS/V生みの親として知られるほか、超大型汎用コンピュータからThinkPadに至る商品の戦略を担当。今は亡き「秋葉原・カレーの東洋」のホットスポット化など数々の企画で話題を呼んだ。自らモバイルワーキングを実践する“ロードウォーリア”であり、「ゼロ・ハリ」のペンネームで、数多くの著作がある。ライフワークは「ワークスタイル・イノベーション」。2004年3月、日本IBMを早期退職し現職。ブランド戦略やワークスタイル変革を研究中。


*1編集部注 DOS/V(IBM/PC AT互換機)の国内普及初期に、当時全盛を誇っていたNECのPC98シリーズがぶつけてきた宣伝文句。もう10年以上も前の話になるが、こんなところで持ち出すところを見ると、相当思うところがあるに違いない。

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[竹村譲,ITmedia]

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