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最愛のワイフや、最高の彼女に、ICタグピストルで撃たれたら……!?プロフェッサー竹村のIT的「スローライフのススメ」(1/3 ページ)

» 2004年05月24日 09時41分 公開
[竹村譲,ITmedia]

 今や、世界は言うに及ばず、国内も「RFID」(アール・エフ・アイ・ディ:Radio Frequency IDentification )がITワールドの筆頭注目株だ。

 このRFIDは、そのモノずばり「無線タグ」と訳されたり、丁寧に「無線ICタグ」と呼ばれたり、解説過多の「非接触型ICタグ」とも言われたり、時にはお節介にも「次世代バーコード」とか呼ばれたりしているらしい。

 これらの異なる呼称で呼ばれているモノ、すべてが実は同じモノを指しているから日本のIT業界は質が悪い。このコラムでは、多くのメディアやメーカーが呼んでいると筆者が勝手に信じている、最も簡潔な「ICタグ」を一時的に日本語の一般的な呼称として使っていきたい。

 既に流通業界などでは「タダ同然」までローコストになった「バーコード」を知らない人は、本コラムの読者にはいないだろう。昔、「バーコードバトラー(*1)」なんていうゲーム機まで出現したのだから、既に知らず知らずのうちに大衆に根付いている「社会システム」の一部であることには間違いない。

 スーパーマーケットの買い物ラッシュの長蛇のレジ列を短くできたのは、このバーコードのお陰なのだ。バーコードリーダーを備えたPOSレジスターは、大昔のキャッシュレジスターのように商品ごとに予め定められた商品番号や販売価格を、慣れないパートタイマーの主婦が何度も間違いながら手作業で入力しなくても大丈夫だ。

 怪しく光る赤い光線を一瞬、商品に付けられたバーコードに照射するだけで、いとも簡単に読み取ってお勘定をしてくれる。筆者は人類発明史上に残る逸品の一つであると思っている。

 レジの列に並ぶという面倒は同じではあるが、このバーコードのお陰で、われわれの買い物精算タイムは従来に比べて圧倒的に短時間の内に出来るようにスピードアップされた。そしてスーパーマーケット側はやっと、熟練したレジ係に突然辞められても、安い時給でレジの経験のないパートタイマーを雇うことで、その日から戦力となり、サービス低下のリスクを心配することなく、あるレベル以上の顧客サービスを常に提供できるメドがついた。

 しかし、レジという一つの「プロセスセンター」を、新しいテクノロジーによってスピードアップできたことで、本来、貪欲な人間は、その必要性は定かではなくても、より以上のスピードアップを求め、同時に企業側は、同業他社との競争原理から、より一層のコスト削減と、売り上げ商品と関連する情報への限りないリンクを望む方向に向かって行くだろう。

 別にスーパーマーケットに限らず、この省力化のループによるスピードアップは、地球上のすべての産業に共通の「ドラッグ」だ。「ICタグ」は、そのスピード中毒患者をよりハイに、いやハイヤーな気分にする「ウルトラスーパードラッグ」になる“可能性”と“危険性”を秘めている。

 同時に、「ICタグ」は、新しい、よりディープなビジネスモデルを日夜探し求めているビジネスマンをインスパイヤするに足る悪女のような潜在的魅力も併せ持っている。

 チャーミングなレジの女性が陣取るゲートを狙って、レジ前にしばし立ち止まり、少しは世間話も出来た古き良き時代から、先進テクノロジーは、われわれを、ただ沈黙の何秒間が続く淋しい時代へと押し込んだ。そしていよいよ、無人のレジ前の通路を、買い物を一杯積み込んだ大型カートを猛烈なスピードで押しながらただ走り抜けるだけで、すべてが終わってしまう味気ない世界に突入させようとしている。

 来るべきICタグ時代のPOSレジスターのTVコマーシャルは、オリンピックの短距離走者がカートを猛烈なスピードで押しながら駆け抜ける瞬間に、すべての商品データを読み取るショートドラマになるのかもしれない。例えオリンピック走者ほどのスピードであっても、すべての商品に付けられたICタグをPOSレジスターに内蔵された受信機で瞬時にすべて読み取ることは、将来はそれほど難しい技術ではないだろう。もちろん、心配しなくても、取り忘れた買い物のレシートは自宅や駐車場に停めたマイカーにネットワーク経由で既に送信されている。

 既にICタグの企業システムは実験段階を終え、実践・実用段階に入っている。しかし、単一企業やグループ企業内の社内システムの枠を越え、将来の「社会システム」になりうるインフラビジネスへ向かって乗り出そうとすると、外界には多くの対抗勢力が居たり、同時に別のテクノロジーが乱立していたり、企業間の牽制があってなかなか思うようにまっすぐに進めないのがITワールドの伝統だ。


*1編集部注:1991年、エポック社から発売された小型ゲーム機。バーコードリーダーを内蔵、バーコードを読み込ませ、その強弱でバトルする。ポケモンのバトルと似たようなものだが、バーコードを使った点が異色。当時、小学生の間でかなりのブームになった。小学生がひたすら“強いバーコード”を探し求めるという、今思えばかなりシュールな光景も見られた。

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