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NHKがVOD商用トライアルにコンテンツ提供――そのもたらす意義(1/2 ページ)

» 2004年05月27日 13時47分 公開
[西正,ITmedia]

 BBケーブルTV、J-COM Broadband東京、KDDI光プラスTVなどが26日、VODのコンテンツとしてNHKのライブラリーを商用トライアルすることを明らかにした。

 NHKのコンテンツがIPベースでオンデマント利用されることは、VOD市場の活性化という点で大きな期待を抱かせるものだ。その理由は、コンテンツの品ぞろえが豊富になると同時に、IPベースで利用することについての著作権処理が進むと思われるからだ。

NHKコンテンツの強み

 BBケーブルTVをはじめとして、次々と登場してきた有線役務利用放送事業者は、IP放送サービスの展開を行っている。そこでの一つの目玉商品がVODである。また、既存のケーブルテレビ事業者の中でも、いち早くデジタル化を進めたところは、VODサービスを開始することを宣言している。

 VODサービスを展開していく上での最大の課題は、優良なコンテンツを数多くそろえることにある。ライバルとして考えられるレンタルビデオ店に対抗し、その市場を侵食していくには、「新作でも早い者勝ちにはならない」とか、「ビデオ返却の延滞がない」といった程度のことでは太刀打ちできないことは明らかだ。レンタルビデオ店並みとは行かないまでも、そこそこのコンテンツの品ぞろえがなければ、VODサービスへのアクセス数も限られてしまい、結果としてサーバの維持費用が賄えずビジネスとして成り立たないことになってしまう。

 ハリウッド・メジャーの大作映画が有望なコンテンツであるのは紛れもない事実だが、大資本をバックに持つ事業者でもなければ次々にその権利を購入することなど難しい。それよりは、日本のテレビ放送で過去に放映された番組をVODのコンテンツとして使うことができれば、経済合理性の面から言ってもVOD市場の拡大に寄与する可能性が大きいだろう。

 NHKや民放の放送をIP方式でリアルタイムに流すことは難しいが、個別の番組ベースで著作者の了解が取れれば、IPネットワークで流すことは可能である。ストリーミングで流している例としては、TBS、フジテレビ、テレビ朝日の3社共同事業であるトレソーラが挙げられる。だが、権利処理に手間がかかるうえに、IP放送自体の利用者が限られていることから、実験レベルにとどまっているのが現状だ。オンデマンドでの利用となると、さらに番組数は限られている。

 こうした点から見て、IPによるオンデマンドのコンテンツとして、NHKのライブラリーが有効活用されることの効果は非常に大きい。NHKの場合には、世界最大レベルの公共放送として、放送関係の著作権者、すなわち、脚本家、シナリオライター、俳優、音楽家などに対しても、ステータスシンボルとしての位置付けを維持している。その結果であるかどうかは分からないが、出演料などの報酬も、民放のそれに比較すると格段に安いという事情がある。

 VODのコンテンツとしてに限らず、番組の二次利用を行うに当たっては、著作権者に対してファーストランの時の報酬に対する一定割合が支払われることになっている。NHKの場合には、ファーストランの報酬が格段に安いこともあって、二次利用時のコスト負担も小さくて済むという構造になっているのだ。それだけに、VODに不可欠なサーバについてのコストなども含めて、全体のコストを考える上でも有利に働くことは間違いない。

 公共放送であるNHKが、国民から得た受信料収入で制作した番組をVODのコンテンツとして役務利用放送事業者やケーブルテレビ各社に供給し、それで新たな収入を得ようというプランに反対する向きも多いようだ。

 しかし、地上波放送も含めて放送のデジタル化の旗振り役を務めているNHKが、受信料を据え置いたままでいることを勘案すれば、NHKが新たな収入源を確保することは、最終的に国民にとってもプラスということになるのではないだろうか。

著作権処理が進む

 放送に関わる著作権の処理については、「ブランケット処理」といって包括的な処理が可能であるのに対して、通信に関わる著作権処理は個別に一つ一つ行っていく必要がある。それが、いかに大変なことかの一例を挙げよう。

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