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IPO前のGoogle、Gmail計画に怪しい雲行き

» 2004年06月02日 19時56分 公開
[IDG Japan]
IDG

 Googleの社員たちは広大なWebの世界を探るのに慣れている。だが、同社がユーザーのメールテキストをスキャンして、関連する広告をメールに挿入する無料電子メールサービス「Gmail」を発表したとき、世界中のユーザーがGoogleに探るような目を向け出した。

 Googleの経営陣にはいいアイデアと思われた(そして、効果的な広告媒体を生み出すかもしれない)この計画を受け、欧米のプライバシー擁護団体や人権団体は抗議の声を上げ、Googleにサービス案の再考を迫った。

 Googleは4月1日にGmailを発表し、4月29日に当局に提出したIPO(新規株式公開)申請書類の中で同サービスを資産の1つに挙げた。計画では、GmailはMicrosoftのMSN HotmailやYahoo!のYahoo! Mailに似た無料のWebベースメールサービスだが、メールの保存容量は1Gバイトとこうした人気の無料サービスよりもはるかに大きい。もう1つの違いは、Googleがメールをスキャンして、同社のシステムがその内容と関連があると見なした広告を付加する計画でいることだ。しかも、Gmailのプライバシーポリシーには、メールはユーザーが“削除”したものも含めてシステムに保存され、ユーザーがアカウントを閉じた後も長期間保存されたままになるという注意書きが記載されている。一部のプライバシー活動家は、これは米国と欧州のデータ保護法やプライバシー法に抵触する可能性があると考えている。

 「われわれが取り組んできたインターネット関連の問題の中でも最も重大な問題の1つだ」と英国のプライバシー擁護団体Privacy Internationalのディレクター、サイモン・デービズ氏は語る。

 Privacy Internationalは4月、英国の情報コミッショナー事務局(ICO)にGmailへの措置を求める正式な申立書を提出した(4月20日の記事参照)。デービズ氏によると、ほかの欧州諸国にも申立書を提出する計画という。また、カリフォルニア州議会上院のリズ・フィゲロア議員(民主党)は、プライバシー問題を鑑みて、GoogleがGmailサービスを現在の形で開始するのを阻止する法案を検討していると話している。

 こうした抗議表明が相次ぐ中、Googleは騒ぎを鎮めようと、現在のGmailサービスは初期テストの段階であり、まだ具体化しつつある状態だと明言している。「Googleはユーザー情報のプライバシーを最大限に尊重している。ユーザーのプライバシーを保護し、革新的で有益なサービスを提供できるようにGmailを構築することに多大な注意を払っている。われわれはまだGmailの限定テストを行っているところだが、どうすればユーザーのためにわれわれの商品を改善できるかに関する意見は歓迎し、感謝する」とGoogleの広報担当者は話している。

 Googleのエンジニアリング担当副社長ウェイン・ロージング氏は、Gmailユーザーの名前が広告配信サーバに送信されることはなく、システムがメールをスキャンする際には、メールのあて先や差出人のフィールドは調べず、件名と本文だけをチェックすると述べている。

 ICOの広報担当者は、Googleが「メールの利用状況を監視して、その情報をマーケティング目的で他社に提供していることを明確に開示していれば、問題はないだろう」と語る。さらに同氏は、ICOに協力しているGoogleの担当者は、Gmail計画に対する反応に驚いていると付け加えた。「彼らはこれが問題になるとは考えていなかったと思う」

 欧州委員会はGmailに対する調査を行うことになるかもしれないと、同委員会の広報担当ピーター・サンドラー氏は語る。同氏によると、Gmailが問題になりそうなのは、広告メールを配信する企業に“オプトイン”(事前承諾)方式の採用を義務付けるEU指令が、昨年10月にEU加盟国の法令に追加されたためだ。この指令の下、企業は広告メールを配信するにあたって、個々のメール受信者から事前に承諾を得なければならない。「そしてEU加盟国はメールの機密保持を徹底する義務がある。このことが、メール内の情報をスキャンして追跡する企業に影響する可能性がある」とサンドラー氏は語る。

 一方Googleは、興味深い重要なメッセージを発信している。共同創業者のセルゲイ・ブリン氏とラリー・ペイジ氏は27億ドルの資金調達計画を記載したIPO申請書類の中で、「市場の圧力に抵抗してでも長期的な目標を追求する」と宣言した。これをめぐってウォール街ではメールが飛び交ったはずだが、その中身は読んでみたいところだ。

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