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“UOモデル”から“テーマパーク”へ──ネットゲーム各社の拡大戦略

» 2004年06月04日 07時43分 公開
[中嶋嘉祐,ITmedia]

 「FINAL FANTASY XI」「ラグナロクオンライン」「リネージュII」「信長の野望 Online」「Ultima Online」(UO)「EverQuest」――。代表的なネットゲームを挙げろと言われても、その候補はまだまだある。ほぼ成熟してしまった家庭用ゲーム機市場に対して、ネットゲーム市場は伸び盛り(2003年10月2日の記事参照)。成長の見込めるネットゲーム市場に切り込もうと、「Seal Online」といったタイトルを続々と投入するエキサイトはじめ、新規参入も相次いでいる。

 「クリアしたら終わり」の家庭用ゲームに対して、ネットゲームは基本的にはっきりとした「クリア」がなく、1つのタイトルを1年以上プレイするユーザーも多い。

 1タイトル当たりの拘束時間が長いながら、ネットゲームのタイトル数は増え続けている。確かにユーザー数も伸びているのだろうが、それを考えてもここ最近のタイトル数の増加は目立ってきている。

 そんな中、先のエキサイトを含め、ネットゲームを“ポータル化”して見せる企業の動きが目立ってきた。ネットゲームを単体の商品としてだけ売るのではなく、自社のサイトを入り口に、複数の自社タイトルを並べて見せるやり方だ。

 古くからのネットゲームユーザーにとっては、ネットゲームビジネスの成功モデルとして知られる“UOモデル”に反した事業展開にも見える。UOモデルとは、1本のタイトルを長期間運用し、拡張を重ねてユーザーの関心を離さない。長期にわたって利用料を集めることで当初の開発費を回収し、利益を上げていくモデルだ。

 “ポータル化”を進める理由は何なのか? 「ラグナロクオンライン」「ポトリス2」などの著名タイトルを複数抱えるガンホー・オンライン・エンターテイメントと、課金決済プラットフォーム「GASH」を他のネットゲーム企業に売り込むガマニアデジタルエンターテインメントに話を聞いた。

「ポータルというよりもテーマパーク」

 「逆にお聞きしたいのですが、UOのスタイルがデファクトスタンダードなんでしょうか?」

 先の疑問をぶつけたところ、ガンホーの森下一喜社長にこう切り返された。

 「市場の状況がここ数年でかなり変わってきていると思う。当社は収益モデルに幾つかの柱を持たせるとともに、開発・運営のノウハウを蓄積しようと考えた」と森下氏。

 ガンホーは自社タイトルの利用者に無料のGungHo-IDへの登録を勧める。GungHo-IDを1つ作成すれば、複数のタイトルで共通して利用できる仕組みだ。森下氏は「ポータルというよりもテーマパーク」と語る。

 同社は自社タイトルをそろえるに当たって、対象ユーザー層が重ならないように配慮した。10代前半を狙うポトリス、10代後半から20代前半のラグナロク、βテスト中の「A3」は「18禁」がウリで、20代後半から30代前半がターゲット。年齢層をそれぞれ絞ることで、ユーザーを食い合わず、その成長に合わせて自社プラットフォーム内で利用タイトルをステップアップしてもらうのが理想だ。

 「最終的にはガンホーというプラットフォームを極大化したい」と森下氏。

 もちろんガンホーも、一度つかんだユーザーをすぐに手放すつもりはない。ラグナロクの今後の展望について尋ねたところ、森下氏は「ラグナロクというタイトルを長く遊んでもらうため、拡張を重ねるのがベストだと思う」と答えた。ラグナロク人気に陰りが見え始めたとしても、すぐに続編を用意するのではなく、可能な限り拡張によってユーザーの支持を守りたいという。

 テーマパークモデルとUOモデル。ユーザーの数と層の拡大という裏付けがある今なら、実は並存可能だったというわけだ。

 このようなケースを考えると、複数タイトルを展開する別のメリットも見えてくる。あるタイトルのユーザー数が少なくなれば、そのタイトルに使うサーバ数を減らせばいい。減らした分を人気タイトルに回すことで、コストを最小限に抑える効率的な運用も可能になるわけだ。

 とはいえ、ユーザーのデータが削減対象のサーバに保存されていた場合、手作業になっても他サーバに移管させるなど、ユーザーが不利益を被らないよう手間を惜しむつもりはないという。森下氏は「ユーザーに最善の結果になるよう努力している」と話す。

photo 森下一喜氏(ガンホー・オンライン・エンターテイメント社長)

プラットフォームを武器にするガマニア

 ガマニアの運用する課金決済プラットフォーム「GASH」は、同社タイトルはもちろん、ボーステックの「STONE AGE」、元気の「首都高バトルonline」などにも利用されている。

 「GASHプラットフォームを使えば購入したポイントを自由に使える。ネットゲームを遊びやすくなるはず」(ガマニア・元マーケティング部広報担当の中島秀樹氏)。

 「有名なタイトルを1タイトルでも持っているのならともかく、そうでないならどれだけ多くの情報をユーザーに流せるかが重要になる」と中島氏。現状ではGASHを採用するタイトルを増やしていき、GASHユーザーを広げていく考え。GASHを使うタイトルに課す手数料もギリギリまで抑えている。

 課金手数料だけでビジネスが成り立たないか――。この可能性を尋ねたところ、「ユーザーを数百万人獲得できれば」と否定されたが、ガマニアの本社がある台湾ではGASHビジネスは「いい状況」だという。

 確固とした事業戦略に沿った“ポータル化”。その背後には、ネットゲーム市場拡大の好機を逃さず成長を図りたい各社各様の戦略があるようだ。

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