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WiMAXは「無線LAN並」のブームになるか?

» 2004年06月17日 16時54分 公開
[IDG Japan]
IDG

 電話やLANのワイヤレス化が着々と進み、家電製品もそうした流れに続こうとしている。そうした中、ネットワーク化された社会において、家庭や企業向けのブロードバンドだけはかたくなに有線の状態を保っている。

 本来ならばDSLやケーブルモデム、専用線などと競合していたであろうワイヤレスブロードバンドサービスは、コストや複雑さ、プロプライエタリなシステムにより普及が妨げられてきた。だがベンダーやアナリストは、標準ベースの新しい技術セット「WiMAX」(802.16)により、分裂した業界が統一され、価格の低下が実現すると期待している。

 顧客にとってワイヤレスは、迅速で容易なセットアップ、一部のサービスより低いコスト、DSLの届かない場所でのブロードバンドインターネットアクセスを意味する。

 Lincoln Investment Planningのマサチューセッツ州ウォルサム支部担当マネジャーのタマラ・インディアナー氏は、「金曜に電話をしたら、火曜に(WiMAXを)導入してくれた」と語っている。同支部は移転後のSDSLサービスの確保に苦労していたという。

 同氏によれば、通信業者の中には、その敷地には回線が届かないという会社もあれば、インストールに2〜3週間かかると見積もってきた会社もあったという。同氏は結局、標準化の予定されたAperto NetworksのWiMAXギアを使っているTowerStreamに依頼した。これで同支部は、双方向とも1Mbpsの伝送速度を月額500ドルで利用できることになった。これは、SDSLサービスよりは少し高いが、専用線よりははるかに低い料金だ。

 TowerStreamはWiMAX機器が標準化され、相互運用性により顧客構内設備(CPE)の価格が低下することに期待している。ベンダーとサービス各社は、標準によって開発コストが削減され、ベンダー間の競争が促進されれば、選択肢の幅も広がると期待している。802.16の採用を促進している業界団体のWiMAX Forumは、年内にも相互運用が可能な製品の認定を開始する計画だ。

 これはWi-Fiの人気を促進したのと同じ理屈だ。Intelも無線LANの現象を引き合いに出して、WiMAXの急速な人気拡大を予測している。Wi-Fiよりも長距離に対応するWiMAXは、Wi-FiがLANに果たした役割を、大都市圏や「ラストマイル」アクセスに対して果たせるかもしれない。WiMAXは当初はIEEE 802.16d仕様を用いて、300Kbps〜2Mbpsの速度、最大30マイル(約48キロ)の範囲で固定ロケーションへの接続をサポートする。1年ほど後に完成予定の802.16e標準ベースのバージョンは、携帯性のサポートを念頭に設計されている。

 だが、見通しはWi-Fiのケースよりも複雑だと指摘するアナリストや業界関係者もいる。ほかの技術との競争が厳しいだけでなく、WiMAXには米国や海外で電波をどのように使うかといった問題がある。期待通りに普及するかどうかは製品の生産量にかかっているが、それはこうした問題をどのように解決するかによっても違ってくるだろう。

 Intelなどのベンダーは高い期待を抱いている。802.16機器メーカーRedline Communicationsの事業開発担当副社長ケビン・スーター氏は、オフィスや家庭向けのWiMAXサービス対応のCPEは2005年第3四半期までに500ドル以下になり、2007年までに200ドル以下になると予測している。そのうえ携帯性を備えるようになれば、CPEは約50〜100ドルでノートPCの内蔵コンポーネントの形でも出荷されるようになるだろうと同氏は考えている。ただし観測筋や業界関係者の中には、WiMAXではWi-Fiのサイクルは繰り返されないと考える向きもある。

 RHKのアナリスト、タッド・ニーリー氏は次のように語っている。「状況は必ずしも、Wi-Fiチップと同じではない。WiMAXのコスト曲線は、もっとDSLモデムやケーブルモデムに近いものになるだろう。Wi-Fiのコスト曲線をたどるとは思わない」

 Wi-Fiは主に、ライセンスがほとんどどの地域でも不要な2.4GHzの周波数帯を使って導入されているが、それとは異なり、WiMAXは2GHzから11GHzまでの周波数帯に対応する標準をベースとしている。WiMAXチップを開発するWavesat Technologiesの販売マーケティング担当副社長で、WiMAX Forumの代表を務めるフランソア・ドレーパー氏によれば、WiMAX Forumは特定の周波数帯向けのプロファイルを作成することで、この周波数帯を狭めていく方針という。

 最初のプロファイルは9月以降に完成する見通しだが、同団体は現在、3つの周波数帯を中心に計画を進めている。5.8GHzは多くの国でライセンス不要で、3.5GHzは北米では利用できないが、そのほかの地域ではライセンスが適用されており、2.5GHzは米国とアメリカ大陸のほとんどでライセンス適用されている。

 WiMAX Forumは6月初旬に、こうした周波数帯の管理をめぐりグローバルな協調を促進するための作業部会を発表した。さらに同部会は、米連邦通信委員会(FCC)がテレビ局からの再配分を検討しているものなど、低周波数域の周波数帯の割り当てにも取り組む方針だ。

 RHKのアナリスト、ニチン・シャー氏によれば、ユーザーの間で容量をどのように分けるかといった形式の問題や周波数帯自体の問題により、周波数帯をめぐる政府間での整合が複雑になっている。「周波数帯や形式が多様であるために、WiMAXの採用は制限され、妨げられている」と同氏は語っている。

 ベンダーや業界アナリストによれば、通信会社にとって、ビジネスレベルのWiMAXサービスを提供する上でライセンス制の周波数帯は不可欠だという。その点が、官僚式の続きや政策、周波数分配の問題と相まって状況をさらに複雑にしているとシャー氏は指摘している。

 一方、Intelは市場を前進させるために必要な統合を行えると考えている。IntelのWiMAX担当マーケティングディレクター、ジョー・イングリッシュ氏によれば、同社は固定およびモバイルのWiMAX機器向けの周波数帯で、WiMAX Forumの指導に従う方針という。Intelは2006年後半あたりから、Wi-FiとともにWiMAXをCentrinoワイヤレスチップセットに統合し、2007年に広範に展開する計画。同氏によれば、同社は世界各地でWiMAX用に使われるすべての周波数帯を1種類のCentrinoチップセットでサポートして量産すれば、価格を下げるのには十分だと考えている。

 サービス会社の中には、こうした理論が実際にうまくいくかどうかを懸念する向きもある。Covad CommunicationsのITディレクター、ロン・マルクワルト氏によれば、同社は規制などの諸々の理由からDSLでは対応できない顧客に到達するためのツールとしてワイヤレスを捉えている。同社は標準化によるメリットを期待できることからWiMAXに対しては前向きだが、まだ結論は下していないという。

 ブラジルの携帯事業者のコンソシアムであるNeotecは月額20ドル程度でワイヤレスブロードバンドを提供したいと考えており、回線の敷設なしでそれを実行できると考えている。同コンソシアムは、ライセンス制の2.5GHz前後の周波数を使ったプロプライエタリシステムのテストを済ませており、標準化によるWiMAXの価格低下の効果に期待している。

 Wavesatのドレーパー氏によれば、最終的には、市場の勢いが規制を方向付けることになるはずという。

 「業界が野球バットを振り回せば、政府の動きも早まるだろう」と同氏は語っている。

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