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「ROBO-ONE」が生んだ市販ロボット〜KONDO「KHR-1」が誕生するまで(1/2 ページ)

» 2004年06月19日 01時12分 公開
[芹澤隆徳,ITmedia]

 発端は、ある商品が店頭から消えたことだった。

 「“PDS-2144FET”という型番のサーボモーターが、なぜか品切れになっていたんです。不思議に思って調べてみたら、20個、30個と“まとめ買い”しているお客さんが急に増えていたことがわかりました」。

 こう述懐するのは、ラジコン用部品メーカーとして知られる近藤科学技術部の秋山好司氏。2002年の暮れ頃の出来事だ。

 もちろん、売れ筋の商品なら売り切れても不思議はない。しかしPDS-2144FETは、ラジコン用としては需要の少ない“トルク重視”のデジタルサーボだ。しかも1個1万4000円と決して安くない商品。20個購入すれば28万円もかかるのだが、まとめ買いをしていたのは1人や2人ではなかった。担当者が首をひねるのも道理だ。

 「そのうち、PDS-2144FETがロボットの部品として使われていることが分かりました。PDS-2144FETは、動作を止めたときにもガタつかないーーつまりギアのバックラッシュが少ない製品です。しかも過酷な条件でも動作するように調整されている。ロボットを自作している人たちが色々なサーボを試しているうち、PDS-2144FETに行き着いたのでしょう」(秋山氏)。

 重量のあるロボットを動かすにはトルクが必要だ。ロボット制作者の間で話題になると、もともと需要が少なかった商品だけに、一気に市場からなくなってしまった。口コミの威力は絶大だ。

 これを契機として、近藤科学はロボットに興味を持つようになる。もちろんビジネスとしての要素も見逃せないが、もともとラジコンという子どもから大人までが楽しめる商品を生業にしている会社だけに“興味を持った”という表現が正解のようだ。ロボット製作者が集まる「ROBO-ONE」にも顔を出すようになり、第4回からは公式スポンサーにもなった。

 「ROBO-ONEを見たとき、是非フューチャーしたいと思いましたね。ロボットはいわば、夢の追求。それともロマンを求める素材かな? 景気が悪くて、どこへ行っても暗い話題ばかりですが、ロボットのように楽しいものを提供して、日本を明るくしたい。そう考えました」(近藤科学の近藤博俊社長)。

photo 近藤博俊社長。いまやROBO-ONEの“名物社長”らしい

新型サーボモーターを開発

 ところで、ROBO-ONEに出場するロボットたちは、もともとロボット好きのホビイストたちが仕事や学校の合間にコツコツと作ったもの。もとより潤沢に資金があるわけではない。

 ROBO-ONEで資金難に苦しむ製作者たちを見るうち、同社がロボットに適した「廉価版」のサーボモーターを提供しようと考えるようになったのは、むしろ自然な流れだろう。

 それが、「KHR-1」にも採用された新型サーボモーター「KRS-784ICS」だ。ギアやケースはラジコン用のものを流用しつつ、ソフトはロボット用に最適化。トルクは8.7Kg-cmと、PDS-2144FETより小さいものの、単価は5000円前後と従来の3分の1にまで下げることができた(単体発売は未定)。

 もう一つの工夫が、出力軸のちょうど裏側に設けられた“出っ張り”だ。ここに「フリーホーン」と呼ばれる部品を取り付けることで、サーボモーターを両側から支えることができるようになった。

 「ラジコンカー用のサーボモーターに2点支持の必要はないため、ロボットに流用するときは板金やベアリング等で自作しなければならなかったんです。フリーホーンを使うことで、ロボットそのものを丈夫に、また軽くできましたね」。

photo 隙間から見えるのがフリーホーン

3点倒立の衝撃

 時間は少し戻り、2003年の2月。「ROBO-ONE第3回大会」の会場で1つの出会いがあった。

 「ロボットが3点倒立をしていたんです。衝撃でしたね」(秋山氏)。

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