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“最高の映画用アンプ”だけじゃないヤマハ「DSP-Z9」レビュー(2/3 ページ)

» 2004年07月01日 03時45分 公開
[本田雅一,ITmedia]

 アナログアンプとしてのZ9は、突出した能力は感じないもののオーディオ用アンプとしても、好み次第で十分に楽しめるものだった。しかし、個人的にもっとも期待値が高いのは、そのDSP処理能力である。“より自然になった”という新しい「Cinema DSP」「Hi-Fi DSP」はどのような印象をもたらしてくれるのか。

 ヤマハのCinema DSPは、単にオリジナルの音場処理を自社開発のDSPで行うソフトウェア面だけでなく、オリジナルのスピーカー配置を規定して独特の音場を作り出すシステムとしての良さが評価されている。Z9では基本となる5本のスピーカー配置が、DVD-AudioやSACDで決められているITU-R配列へと改められたが、それまではサラウンドスピーカー位置が通常よりも後ろ目で、サラウンドバックスピーカーを追加する場合でも真後ろに1本(Z9ではステレオ化されている)。これに、フロント上部・左右に取り付けるフロントエフェクトスピーカーを加えた独特のスピーカー配置である。

 このヤマハ流スピーカー配置のキモになっているのが、フロントエフェクト改め「プレゼンススピーカー」だ(名前は変更されたが使われ方は同じ)。プレゼンススピーカーが加わることで、フロントスピーカー周辺の音場にボリューム感が出てくる。

 特に映画用サラウンドプログラムを選択した時、スクリーン全体に広がる音場の広さ、奥行きといったものがプレゼンススピーカーによって実現される。プレゼンススピーカーから出てくる音は、音場プログラムで生成される間接音のうち、フロントに出力されるもの。プレゼンススピーカーがない場合は、左右フロントスピーカーに配分される。

 しかし、フロントスピーカーにミックスされるのと、独立した高い位置にあるプレゼンススピーカーで再生されるのでは、雲泥の差がある。セリフの成分もプレゼンススピーカーに配分されるため、100インチオーバーの大型スクリーンで映画を見るとき、セリフが下の方から聞こえるといった不自然さも感じない。

 また、プレゼンススピーカーの効果は、HiFi-DSP利用時にも大きな意味を持つ。音楽ホールの天井からの反射音(と残響)が上部のプレゼンススピーカーから再生されるため、立体感ある音場が作られる。

 フロントエフェクト、もしくはプレゼンススピーカーの効果は、ヤマハAVアンプのオーナーならご存じの方も多いだろうが、その効果のほどを知らないオーナーの中にはプレゼンススピーカーよりも、リアのサラウンドスピーカーの数を増やす方に熱心さを見せる人も多いようだ。

 しかし、本機をはじめとするヤマハAVアンプの場合は、5.1チャンネルの次にはフロントエフェクトの追加を検討すべきだろう。ヤマハのDSP処理は、サラウンドスピーカーの使い方がうまく、後ろ2本でも比較的きれいに音が周囲へと回る。

 映画はもちろん、CDなどの2チャンネルオーディオソースの音に、自然な音場感を加えてくれるZ9のDSPプログラムは、音楽ソースに対するDSP処理に(DSP処理などで心地良い音など生まれるわけではないと)偏見を持っていた筆者の考えを変えさせるに十分なものだ。“銭湯のような”音場から卒業した新しいヤマハのDSPプログラムは、確かに今後のヤマハ製AVアンプを変えていく力を持っているようだ。

より正確な周波数補正を実現したYPAO

 Z9のもうひとつの魅力は、自動音場補正機能のYPAOである。YPAOは昨年末の商戦向け製品から搭載され始めた機能で、「DSP-AX750」「DSP-AX1400」「DSP-AX2400」を含め、現在は4機種に搭載されている。

 自動音場補正とは、スピーカーの設置状態によって変化する音場を、音源ソースが想定している試聴環境に近づけるよう、補正処理を自動で行う機能。本体に無指向性マイクを繋ぎ、各スピーカーから測定用信号を出し、マイクから拾った信号を元に補正パラメータを自動設定してくれ、接続に間違いがある場合は指摘してくれる、という非常に便利な機能だ。

 多チャンネル環境を構築する場合、初めてだと接続間違いがいい加減な設置でも“こんなものかな?”と見逃してしまい、本来のパフォーマンスを知らないまま、というもったいない状況になることが考えられる。Z9クラスのユーザーは、さすがにきちんと設定を行えるスキルがあるだろうが、一部の補正は手動では難しい面もあるため決して無駄ではない。

 YPAOで自動判定されるのは、スピーカー結線(位相反転の判別)、スピーカーサイズ(低域再生能力の判別とクロスオーバー周波数の自動判別)、スピーカーレベル、スピーカーとリスニングポイントの距離、周波数特性の主に5つ。

Photo 付属の無指向性マイクをリスニングポイントに置いてYPAO設定中

 自動音場補正機能は、最初にパイオニアが搭載機をリリース。現在はヤマハ、デノン、ボーズなどが搭載している。各社それぞれに特徴があるが、YPAOの特徴はパラメトリックイコライザ(PEQ)が搭載されていることだ。

 PEQは補正周波数、補正帯域幅、補正量を独立したパラメータとしてセットできるイコライザ(対して補正周波数や帯域幅があらかじめ決まっているものをグラフィックイコライザという)で、Z9では各チャンネルごと10カ所の補正を行える。

 グラフィックイコライザで10バンドというと少ない印象だが、PEQでの10カ所は十分な数だ。正しくパラメータがセットされれば、ほとんどのスピーカーからの音をフラットな周波数特性に補正できると思われる。周波数特性を補正することで、スピーカーごとに異なる特性のクセ、あるいは設置環境(周囲に置いてあるモノや壁、カーテンなどの影響)による周波数特性の暴れを押さえ込むことができる。

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