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「最初のペンギン」になるための勇気とは――『パラッパラッパー』の作者が語る、新しいアイデアへのアプローチ

» 2004年08月03日 17時28分 公開
[志田英邦,記事提供:RBB TODAY]
RBB Today

 ゲーム開発に必要なココロ構えとは? 9月6日より、日本のゲーム開発者向けカンファレンス「CEDEC」が開催される。

 今回は欧米のゲームパブリッシャーや、アジアのゲームパブリッシャーを招き、国際色が豊かな講義が予定されているのも、特徴のひとつだ。

 『パラッパラッパー』『ビブリボン』を開発した松浦雅也氏(七音社)は、今年3月にサンノゼで行われた「ゲーム・ディベロッパーズ・カンファレンス2004(GDC)」にて、ファースト・ペンギン・アワードという一風変わった賞を受賞した人物だ。この「ファースト・ペンギン・アワード」とは、「勇気を持って最初に水の中に飛び込んだペンギンを称える」という意味を持ち、新しい地平を切り開いたクリエイターを世界的に評価する栄誉ある賞である。

 CEDEC講演者へのインタビュー第三回目は「閉塞しがちなゲーム開発において、新しいアイデアを持ち込むことの重要性」について、松浦雅也氏にお話を伺った。『モジブリボン』や『ビブリップル』といった新作でオンラインや携帯電話との連動に挑戦し、いまもなお新しい領域へ挑んでいる松浦氏。CEDECの頃には新しい動きを始めている予定とのこと。ぜひ、アイデアで行き詰まりがちなゲーム開発者に注目して欲しい。

七音社代表取締役 松浦雅也氏

――日本のゲーム開発者向けカンファレンスであるCEDECで、どんな講義を行うおつもりですか?

「僕は、1999年にアメリカのGDCのアドバイザリーボードメンバーに選ばれて、情報交換や意見交換をずっと行ってきました。でも、日本ではほとんどGDCが知られていないし、開発者同士が情報交換をするような文化がないので、そのGDCの考え方を伝えていきたいなと思っています。」

――松浦さんは、今年の「ゲーム・ディベロッパーズ・カンファレンス2004(GDC)」で、音楽ゲームという新ジャンルを切り開いた功績を評価され、「ファースト・ペンギン・アワード」を受賞されました。海外のゲーム開発者コミュニティから高い評価を得たわけですが、日本と海外の違いを感じますか?

「あくまで僕の視点からの意見ですが、日本で、ユニークなことをやっている開発者たちは小さな組織にいることが多いですね。サムライ文化というか、素浪人文化というか。北米では大きな会社が、ユニークなアイデアを持つ開発者をバックアップすることが多い。」

――たとえば北米のゲームは、たとえば「FPS(主観主点のシューティングゲーム)」が主流で、市場の大多数を占めています。それに比べると、日本のゲームのほうがユニークなものが多いという意見もあるようです。その意見にはどう思いますか?

「ユニークという言葉の定義の違いかもしれませんが、僕は必ずしも日本のゲームにユニークなものが多いとは思いません。僕は「音楽ゲーム」を作ってきましたが、僕が手がけた『パラッパラッパー』以降、ユニークな音楽ゲームはでていないと思っています。いろんな音楽ゲームが出て、ひとつのジャンルの厚みが出るのはいいことですが、革新は行われいない。新しいモノを切り開くのは難しいのです。」

――松浦さんは、新しいゲームがどんなところから生まれてくると考えていますか?

「普段生活していると、“あっ!”とひらめくことがありますよね。大事なのは、その“あっ!”と思いついた瞬間のキモチ。自分の感覚が生まれ変わったかのような心の化学反応。あの“あっ!”という感覚を、誰もが感じられるように再現できる方法を見つけられれば、刺激的なゲームが作れるのだと思います。僕がゲームを作るときは、自分の感じた“あっ!”というキモチを忘れずに、素に戻ったときにも感じられるプロセスを作ろうといつも考えています。」

――心の中におきた刺激をつぶさに拾っていくことで、新しいゲームが生まれるというわけですね。

「僕が尊重するアイデアというのは、再現性がとぼしいアイデアです。一回性を持ち、たまたま、偶然おきうる、奇跡のようなアイデア。理由が説明できなくても、とにかく衝撃があふれているもの。そのアイデアが生まれるような環境を作ることも、プロデューサーやクリエイターの仕事なんです。」

――しかし、そういったアイデアを生み出すのは、とてつもない苦労が……。

「いや、誰にでも理由なきモチベーションがあるでしょ。たとえば、僕が学生のころに、とにかく“焼き飯”が好きなやつがいたんですよ。そこには理由なんてない。ただ、“焼き飯”が好きなだけ。でも、彼にも、必ず最初に好きになった“焼き飯”があったわけ。その最初の“焼き飯”を生み出せるかどうかということだと思うんです。」

――最初の“焼き飯”!

「僕が音楽を作っているとき、過去にアイデアが出ない苦しみを味わったことがあって、何を聴いてもパクってしまいそうになる危険な状態になったことがあるんです。毎日のようにステージに立つんだけど、どこかへ逃げたくなるようなキモチ。そういった弱いキモチというのは、誰もがなることで。でも、そういったものに疲弊しないように、健康的にアイデアを生み出せる環境を作ることが、仕事を続けていくうえで大事ですよね。」

――松浦さんはゲーム開発者たちに、アイデアを生み出すココロ構えを講義しようとしているのですね。

「僕はずっと思っているんですが、おそらく開発現場にいる人たちが最もゲーム好きなんですよ。そもそも、ゲーム開発者が最も濃いゲーム愛好家のはずなんです。その人たちが感じた“あっ!”というひらめきが、プレイヤーにまで“感電”しているのか。……たとえば、着メロが出てきたときに興味のない人はここまでブレイクするとは思っていなかったでしょう。でも、“あっ!”と思った人がコンテンツを作り、“あっ!”と思った人が配信システムを作り、それが合致してブレイクしたわけです。“あっ!”というひらめきをいかに共有して、多くの人に伝えていけるのか。それが新しい仕組みや有り様を生むことになるんです。」


 CEDEC2004の申し込み期限は8月27日(金)まで。受講料金はレギュラーパス(3日間有効)がCESA会員25,000円、一般50,000円。デイリーパス(開催期間の1日のみ有効)がCESA会員10,000円、一般20,000円となっている。なお、8月6日(金)までレギュラーパスが20%OFFとなる優先割引による事前登録を実施中。