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Intelの大画面TV市場参入は“夢”に終わるか?(1/2 ページ)

» 2004年09月22日 12時36分 公開
[本田雅一,ITmedia]

 今年1月の「2004 International CES(Consumer Electronics Show)」で、華々しく予告編の上映が行われた「Intel LCOSストーリー」。最初の製品は今年後半に出荷され、クリスマス商戦ではIntel製LCOSチップ搭載製品が登場すると見込まれていた(関連記事)

 しかし残念なことに公開スケジュールは変更された。既報の通り、最近になって今年の出荷が予定されていた720P対応対応製品は出荷を見合わせ、来年になってから1080P、すなわちフルHD解像度を持つ高付加価値の製品で勝負するとアナウンスしたのだ。

 そこににじんでいるのは、“あくまでも戦略変更であって、他のどんな理由でもない”というIntelの言い訳である。しかし、この発表を額面通りに受け取る者は誰もいない。

Intel製LCOSの試作品

Intelに対する警戒感と期待感

 Intel製LCOS(Liquid Crystal on Silicon)チップの優位性に関して今年1月、とうとうとうたいあげたのはIntel社長兼COOのポール・オッテリーニ氏だった。米プロジェクタ会社のInFocusと共同で、LCOSを用いたリアプロジェクションテレビに必要な光学モジュールを作成し、中国や台湾のベンダーに対してアセンブリユニットや技術供与することでローコスト化。PCのビジネスモデルを家電に持ち込もうとした。

今年1月のCESでは、Intelの家電参入を高らかにうたいあげたオッテリーニ氏だが……

 「これで日本製の高いリアプロジェクションテレビを買わなくて済む。Intelがデバイスを作り、基本コンポーネントの技術をベンダーに提供するだけでいい。そこそこの画質でHD対応ならば、ブランドがDellで誰も文句を言わない。いや、われわれは米国人なのだから、価格が安くて品質に問題がないなら、それが例え中国製であったとしても、ナショナルブランドのバッジが付いた製品を買うに決まっているだろう」

 そう話したのは、2004 International CESにやってきていた米国人記者だった。9.11事件以降、かつてないほどに高まっている米国人の愛国心が背景にあることは、もちろん考慮しなければならない。また、そのような発言が盛り上がったのは、“IT系の記者の間でだけ”だけという事実もある。

 とはいえ、日本や韓国の家電を手本にしながら、Intelが「米国+(日本以外の)アジア」で、PC的モデルをテレビの世界に持ち込めたとすれば、ポータブルオーディオ業界におけるiPodと同じようような現象が起こる可能性もあるだろう。

 Intelは過去にも、日本などのメーカーが培ってきた技術を標準化し、独自に技術開発を行えない、あるいはそこまで研究開発にコストをかけようとは思っていないベンダーに提供することで、そこそこの品質を保ちつつ、大量に安価なPCを提供する仕組みを作り、機能させてきていた。

 少々、意地悪な言い方をすると、Intelが言うとおりにPCを作っていれば、デスクトップPCはもちろん、ノートPCだってある程度、簡単に作れるようになってしまった。薄型化や冷却システムの効率向上、電源周りの設計や省電力技術は、Intelのデザインサポートチームに技術移転をお願いすればいい。大量かつ安価にIntel製CPU搭載PCを作ってくれるベンダーならば、喜んでサポートしてくれる。

 実際にIntel内部の人間に話を聞けば、「いや、そこまでは行っていない」と否定される。しかし同時に「要素技術の研究開発を行わなくても大手PCベンダーを成立させるだけの技術供与は行っている」とも言う。

 消費者の視点から見ると、Intelモデルは製品の品質レベルが底上げされ、市場価格も下がるため歓迎だ、という意見もあるだろう。しかし、そうした底上げが短期間に何度も行われていくと、技術開発で先行するベンダーは、そのノウハウを生み出していくためのコストを回収できないまま、低価格製品に市場を奪われる。つまり、Intelモデルが行き過ぎると、先行技術を開発しようという意欲自体が下がってしまう。これはIntelモデルを実行する上での最悪のシナリオだ。業界にとっても、消費者にとっても、良いことではない。

 だが、Intelモデルには硬直した産業を再活性化する力もある。バランス良く水平分業を進め、それぞれのレイヤーで要素技術を公平に争う土壌を作ることができれば、Intelモデルはその長所を発揮するだろう。PC業界においても、2000年ぐらいまでは良い方向へと進んでいた。

 実際、分業をうまく進め、レイヤー間のベンダーが干渉を起こさなければ、Intelモデルはうまくいく。Intel出身者が中心に運営されているデジタルカメラの映像処理エンジンベンダー「ニューコアテクノロジー(NuCORE Technology)」は、自身のブランド露出を最小限に抑え、エンドユーザー製品ベンダーのビジネスに入り込まないことで大きな成功を収めている。彼らの考えは、以前に本誌のコラムで紹介したことがあったが、今では“えっ!あれもそうだったのか?”と驚くようなところにニューコアのチップが使われている。

 米国で市場の中心的な存在であり、今後は中国でも大きな市場が開けると考えられているリアプロジェクションテレビ。まだ市場が十分開けていないとはいえ、大画面時代には日本でも一定のシェアを獲得するとも言われている。この分野が垂直統合型の日欧家電ベンダーの支配下で進むのか、それともIntel的水平分業へと移行するのか? IntelのLCOS事業はその試金石になるハズだった。

早々に質問を切り上げるオッテリーニ氏

 IT業界から集めた注目のまなざしとは裏腹に、Intelのチャレンジに対する家電業界の見方は最初から冷めたものだった。

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