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サーバ型放送〜異なるNHKと地上波民放の思惑(前編)(1/2 ページ)

» 2004年10月08日 14時11分 公開
[西正,ITmedia]

ストリーミング型とファイル型

 サーバ型放送は、伝送方法により大きく二つの方式に分けられる。リアルタイム視聴も可能な「ストリーム型サービス」と、HDDなどの大容量メディアに蓄積しておいて後でタイムシフト視聴をする「ファイル型サービス」である。NHKはその両方の提供を考えており、民放各局が注目しているのは後者の方である。

 元々のサーバ型放送のコンセプトは、放送局が、責任と自信を持って提供するコンテンツを、これまでの「編成」という時間軸から開放し、インターネットライクに、ユーザーが自由に視聴できるようにするサービスだった。

 だから、「放送」という言葉を使ってはいるが、最終的に、放送波を使うか、ブロードバンドを使うかということは、それぞれの事業者が決めればいい。だが、規格上は「サーバ型放送」と名乗っていることもあって、放送事業者が中心になって、メーカーや通信事業者も含めた協議会を作って準備しているのが現状だ。

 現在好調に売れている外付けのHDDやDVDレコーダーでできることと何が違うのか。そのためのインフラに何を使うのか。こういったあたりの議論はこれから本格化しいくのだが、放送局の立場から言えば、単なるタイムシフトの助長ではなく、そこに色々なメタデータが付いているものをタグとして使いながら、例えば、ダイジェストが見られるとか、番組の中では伝えきれなかった追加的なコンテンツをブロードバンドから引っぱってきて見られるようにするとかして、放送事業者やブロードバンド事業者にとっての新しいビジネスを生み出すことが期待されている。

 ストリーミング型とファイル型と分けて考えてみると、ファイル型の場合には伝送路を問わない上に、リアルタイム性も求められないので、通信系の伝送路でゆっくり送っても構わない。民放はこのファイル型をイメージしているが、今のところ、ビジネスモデルも固まっていないので、伝送路についても明確に決めてはいないようだ。

 一方、NHKの場合には、ストリーミング型、すなわち今の放送をベースにして、例えば、BSで放送している大リーグの中継を普通の受信機で見ようと思えば普通に見られるのだが、サーバ型対応受信機を使うと、番組の進行と同時にそれを蓄積しながら、メタデータはどこかの放送の伝送路を使って同時に送るという方式を採ることになる。

 放送とメタデータを組み合わせることによって、放送中の大リーグの中継を「追っかけ再生」的に見ることができて、しかも松井なら松井のバッターボックスだけを「ダイジェスト視聴」することもできるというものだ。伝送路としては、放送波を使うことになるので、メタデータの付け方さえ考えればいいということになる。

 民放の場合には、そういうストリーミング型のサービスは想定していないようで、放送波とは別の伝送路を使って、放送とは別のサービスとしてファイルを送っておいて、翌朝になってから見てもらおうと考えている。

 だが、それならばブロードバンドでも出来ることであり、必ずしも放送事業として行うことでもなかろうということになる。むしろ、本業である広告収入との兼ね合いからすれば、CMを飛ばすことが簡単に出来てしまう仕組みなので、メリットよりもデメリットの方が多いのではないかという議論になってしまっているのも無理はないだろう。

 以上のように、規格策定の段階から、NHKと民放には明らかに温度差があるのである。

勝手メタデータに対する拒否では協調

 NHK、民放によらず、放送事業者の立場からすると、“勝手メタデータ”が横行することは困るので、何らかの形でそれをさせないような仕組みを考えている。法的に縛りをかけるのか、紳士協定的になるのかは分からないが、勝手メタデータを使ってNHK、民放の番組を切り刻めないようなアクセス制御を技術的にかける方向で検討が進められている。

 著作権の処理の仕方からしても、仮に普通のストリーミング型で見るのと同じ伝送路で流すにしても、蓄積しておいて、メタデータで再編して見ることを想定している番組については、明らかに権利の取得の仕方からして変わってくるだろうというのが、「サーバP」著作権部会の見解である。そういう著作権処理を行った番組を、勝手メタデータで切り刻むことは、「容認しようがない」というのが放送事業者としてのスタンスである。

 ただし、現実問題としては、放送局もしくは元のコンテンツを作っている事業者だけがメタデータを作るのでは、そこから面白いサービスが生まれてくることは期待しにくい。これもまた事実だあろう。

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