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対談 小寺信良×津田大介(1)――「CCCDはみんながやめたいと思っていた」特集:私的複製はどこへいく?(3/3 ページ)

» 2004年10月14日 16時53分 公開
[渡邊宏,ITmedia]
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小寺:音楽で起きたムーブメントは、数年後には映像の世界で起きるというのが僕の持論ですが、あまり小難しいことばかり言っていると、HD DVDもBlu-ray Discも普及しないと思うんです。最初は一方がセル向け、もう一方が録画向けという感じで棲み分けって話でしたけれど、結局、コピーワンスの問題が解決しないので、最近では両方ともセル向けでメリットがあるのはウチだ、って話になってきて、「なんだよ?」みたいな(笑)

津田:まぁ、それが今のDVDぐらいの低価格で発売されるか、という問題もありますけれどね。コピーワンスにしても、落としどころが問題だと思うんです。デジタル放送の世界で“無制限なコピー”があり得ないというのは、みんな感じています。1回移動するだけ、というのは消費者からみればとても窮屈に感じてしまうのですが、それが10回だったら、今ほどの心理的抵抗はないと思うんです。

 iTunes Music Storeは、そのあたりのさじ加減がすごく良くて、ゆるく感じるんだけど、制限がないわけではない。消費者の自由度というか、現実的な落としどころが分かっているなと。コピーワンスの手法や考え方を使いながら、もう少しゆるく運用することも可能だとは思うんですよ。今の1回移動だけというのは、使っていて明らかに不自由さを感じますから。

個人認証は“私的複製”に潜むあいまいさを排除できる?

小寺:僕に一つ提案があるんです。もっと、個人認証技術を進めるべきだと思うんです。要するに、このコンテンツが誰の物であるかを明確にできれば、その人が持ち出す限りはOKであるという、そうした考えで世界を変えていかないと。誰がコンテンツを触るかに関係なく、回数だけで制限するというと、なんだか、もう、訳の分からない制限になっていっちゃうじゃないですか。

 何でダメなの?というか、俺が録画した物をなんで俺の携帯で見ちゃダメなの? そんなの、全部個人認証を行って、コンテンツに対してメタデータをつけてやれば解決する。本人が見ていると確実に分かれば、別になんの問題もないわけですよ。

 このまえ、大阪の家電メーカーを集めたセミナーでパネリストを務めたんです。そこで、各メーカーの方に個人認証技術について尋ねたら「シーン」としちゃって。何も考えてなかった(笑)。逆に、「それって何に使うんですか」とか質問されてしまいました(笑)。まったく、その辺のビジョンができていないというのが現状ですね。

津田:ただ、それには、個人を住基ネットと連動させてネットで認証させるのかとか、コンテンツとの整合性だけが取れればいいのかとか、やり方上の問題はありますよね。プライバシーが気になる人もいるだろうし。

小寺:個人認証=プライバシーというのもまた難しい問題ですね。でも、プライバシーが問題になるものには、顔とか行動とか、住所、氏名、年齢、職業、家族構成とか、いろいろな要素がありますが、「アナタがアナタであるアイデンティティ」を確立できる“だけ”のものであれば、そのほかの利用価値はあまりないはず。僕はその辺の認証は、やってもいいものではないかと思ってます。

津田:その場合は、データを誰が管理するかと言うことが問題になりますよね。これは笑い話ですけれど、レーベルゲートCDが登場したときに、「ある容疑者が、ヒップホップを買っていたことが分かった場合、ある犯罪を犯す層はヒップホップのリスナー層と合致する」なんてことになったらどうなるんだ、と話がありました。その情報が、何かほかの情報と結びつけられたときに、個人情報というのはとても危険な物になります。

 だから、プライバシーというものは機器内部で完結すればいいんです。例えば今はまだコスト的に折り合わないでしょうが、バイオメトリクスを使って機器と個人間だけで認証するとか。携帯電話には既に指紋認証とか組み込まれ始めてますよね。

 どこかのサーバで人間が一括管理するなんてことになるとまずい。人の手を介する以上、情報が流出する危険性は避けられないものですから。そこの仕組みを今後どう考えていくかということなんですよね。

――情報というものはある程度の量がないと意味を成さないわけで、1人・2人分が機器内にあるぐらいでは大きな意味はないですからね。

津田:B-CASカードなんかは、思想的にはその考えに近いですね。

小寺:シームレスな個人認証というか、意識しないでも利用できて、今までの暮らしと変わらないように使えるような世界を作っていかないと不便で仕方ないでしょうね。(次回に続く)

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