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対談 小寺信良×津田大介(最終回)――著作権問題に、解決の糸口はあるか?特集:私的複製はどこへいく?(1/4 ページ)

» 2004年11月10日 15時17分 公開
[渡邊宏,ITmedia]

映像・放送の世界に起こりつつある問題

――音楽業界に起こった話は数年後に映像業界にも起こると第1回で小寺さんが言われました。では映像業界で起こっている、あるいは顕在化しつつある問題にはどんなものがあるのでしょうか?

小寺:CATVなんかがそうじゃないでしょうか。CATVの業務って、キー局の放送をリアルタイム再送信するのがメインですよね。それに対して著作権関連の5団体(*1)が首都圏のケーブルテレビ3局に対して、著作権侵害で裁判を起こしています。既にキー局の放送で著作権料が支払われてるわけですが、オマエらも商業放送だろ、もっとよこせ、というわけです。

 もともとCATVは難試聴対策で始まった経緯があるんですが、そういう福祉的な意味合いが法的にあいまいなままにスタートしている。東京地裁では、5団体側の主張のほとんどが敗訴という結果が今年5月に既に出てますが、両者ともこれに納得いかず控訴してるんですね。前例がない話なんで、このまま最高裁まで行っちゃうでしょう。地裁の判例は行きすぎた権利者保護からバックしてきている例だと思うんですが、CATV局の中でも、すでにもう5団体に支払っちゃってるところも多いんですよ。

――地上デジタルの影響についてはどうでしょう。

小寺:これまでアナログでは受信できたものが、デジタル放送に切り替えたとたんに見えなくなったりという可能性もありますよね。

 例えば徳島には民放1局しかないんですが、今まではCATVが区域外再送信の免許で、生駒山(大阪と奈良の県境。大規模出力アンテナがある)からの電波を受けて関西圏のチャンネルを放送してました。でもデジタル化を機に、区域外再送信を認めないという話も出てきてる。「デジタル化しましたから」で、今までできていたことができなくなるのに、素直に納得する消費者はいないでしょう。

 そもそもなんで区域外再送信を認めないって話が出るかというとですね、コマーシャルなんです。都市部のスポンサーは、それは少しでも多くの地域にCMがばらまかれればうれしいわけですが、逆に地方局は自分たちが流している地方CMを見なくなるってんで、都市圏の放送が入ってくるのをイヤがるわけですね。電波ってのはそんな県の形ピッタリに流せるもんじゃないわけで、じゃあ地デジチューナーで制御するか? って話になる。音楽の場合もそうなんですけど、結局、お金を稼ぐモデルが技術に付いてこられなくなってるわけですよね。

津田:現実問題として、地デジへの完全移行ってできるんでしょうか?

小寺:地デジを受信するには、全世帯が対応のTVチューナーを買わないといけないですよね。しかも、そのすべてにB-CASカードがささっている必要があります。3台、4台とTVがある家庭も多いと思いますが、その1台1台に必要なんですよ。そんな世界ってありえるでしょうか?

 そもそもB-CASという仕組みも問題が多いんです。

 例えば地上波デジチューナーを作るにはB-CASカードのリーダーを取り付ける必要があるわけですが、それを付けるということイコール、BSとCSデジタルチューナーも入れないといけないわけです。オレは地上波だけでいいんで安くしろ、って言っても、そういうテレビって全然作れないんですよ。

視聴スタイルの変化を放送業界は認識しているのか?

――映像の世界にもデジタル化の波は押し寄せています。AV機器メーカーはさまざまなビジョンを提案していますが、放送事業者側からは地上デジタルのアピール以外のアクションが感じられません。今後、視聴スタイルはどうなっていくのでしょう?


*1 5団体:放送コンテンツの著作権に関係する主要団体。日本脚本家連盟、日本シナリオ作家協会、JASRAC、日本文芸家協会、日本芸能実演家団体協議会(芸団協)からなる。

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