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対談 小寺信良×津田大介(最終回)――著作権問題に、解決の糸口はあるか?特集:私的複製はどこへいく?(4/4 ページ)

» 2004年11月10日 15時17分 公開
[渡邊宏,ITmedia]
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「公共財」の考え方はコンテンツに柔軟性を与えるか

津田:英国のBBCがクリエイティブ・コモンズ・パブリックライセンス(CCPL)に沿って、一部のコンテンツをインターネット上で利用しても構わないということを決定しましたが、それをどう評価されますか?

小寺:かなり画期的なことですね。NHKにもやってほしい。

・クリエイティブ・コモンズとは?

 クリエイティブ・コモンズは、スタンフォード大学のローレンス・レッシグ教授が会長を務める「クリエイティブ・コモンズ協会(Creative Commons Corporation)」が推進するプロジェクト。

 CCPLは著作物利用のための新しい利用の仕組みで、著作者自身が“一部の権利のみを留保”したり、“何の権利も留保しなかったり”することを、さまざまなマークで明示することができる。改変しなければ再利用はOKとか、商用利用だけは制限するとかといったことも表現可能。著作者側は自らの意図を明確に主張でき、利用者側はそれを見て“何が許容されるのか”を理解した上で再利用できる。

 著作権などの法的な問題を解決しつつ、ネット上で再利用・改変・頒布する権限を供与することで、インターネット上での創作活動を支援するという考えの下、生まれた。詳しい内容は日本でこの運動を推進しているこちらのサイトを参照してほしい

小寺:僕は川口のNHKアーカイブスへ取材に行ったことがあるんですが、古いドキュメンタリーなどを再利用しようとしても権利者が亡くなっていたりして、肖像権の問題などが処理できずに行き詰まっているんです。

 それをどうやって解消しているかというと、「内覧」という手段を使っているんです。具体的には、NHKの建物内で、局員立ち会いの下で一般に閲覧する形にしている。コピーの作成は問題になるので、すべてのコンテンツを一カ所に集め、日本中のNHKへ専用の光ファイバーでストリーミングしているんですよ。これで権利問題は完全にクリアできています。

 (著作権問題をクリアするために)非常に大掛かりなことをやってのけた事例だと思うんですが……。

津田:そんなの、ひとこと「コピーする」で済ませられればいいんですけどね。そうした手間を省くためにこそデジタル技術があるのだと思いますけれど。

小寺:そう、現実の枠内で、これだけのことをやってのけたという事実は評価しますけれど。あまりにも完全にやってしまったがために、後続となる民放が非常にやりにくくなってしまったのも事実です。(NHKが)前例を作ってしまいましたから。

津田:そうした話を伺うと、海外の方が現実的な対処をしているという感じを受けますね。公共性の強いものならば、コピーライトを表記すれば自由に使ってもらって構わないというBBCのクリエイティブ・コモンズ・ライセンス導入はその象徴的な例でしょう。

小寺:放送って、「公共の財産」という側面をもっとピックアップしないと、過去の映像はみんな死んでいくだけになっちゃうんですよ。例のNHKアーカイブスにも、19世紀半ばに自転車が発明されたとき、ニューヨークで大流行なんて映像もあるんですが、おそらくもう誰の目にも触ことはないだろうって言ってます。

津田:音楽についても、そういう側面はあると思うんですよ。

 公共財的な側面を持っている音楽……クラシックやスタンダード・ジャズなんかはもちろん、ルーツロックなんかはある種の公共財的側面を持っていますし、ビートルズなんて明らかにロックミュージシャンにとっての「公共財」になってますよね。現実は「音楽著作権の権化」みたいな感じになってますが(笑)。

 音楽を制作する側が積極的に私的財産であるということと、公共財であることのバランスを取っていくべきだと思います。そうした観点から見れば、CCCDや輸入権の問題は明らかにそのバランスを欠いたものと言わざるを得ないですね。

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