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ソニー、業績説明会から見えてくる「次の一手」(3/4 ページ)

» 2005年01月31日 11時25分 公開
[小寺信良,ITmedia]

 音楽配信を世界規模で見ると、米国は圧倒的にiTunes Music StoreのAACが優位だが、欧州ではインディーズレーベルの配信をMP3で行なうモデルが好調である。まず欧州からMP3対応の突き上げが起こったのは、当然の成り行きだ。

 ATRAC3に対する異常ともいえるこだわりについては、SCEの久夛良木健社長からも反省の弁が聞かれた通り、今回の説明会でも見直しを計る方向性が打ち出されている。

 少なくともプレーヤー製品レベルでは、今後もMP3対応は続くだろう。だが音楽配信サービスの基本フォーマットがMP3に転換するという線は、非常に難しい問題をはらんでいる。

 もちろんDRMなしに“素のMP3”で配信することは最初から考えられないが、ConnectやMoraなど、現行の音楽配信事業不振の原因は、圧縮フォーマットというよりも、AppleのFairPlayよりも厳しいDRMに問題があると思われるからだ。

 当初のソニーのモクロミとしては、ハードウェアに魅力があれば、音楽配信のDRMが多少厳しくてもユーザーは乗ってくるだろうという読みがあったことだろう。この判断は、今までソニーが成功させてきた製品では、「コンテンツ」を自社で保証する必要がなかったことに起因する。ソニーの名を世界に広めたトランジスタラジオを始め、テレビ、ウォークマンは、放送や音楽産業が生産するコンテンツを、言わば勝手に視聴するためのデバイスだった。

 だがAppleでは、自由度の高いDRMを含む魅力的なコンテンツを、自前でしかも収益性度外視で用意することで、それ用のハードウェアを売って儲けるという構造を作り成功した。このカラクリを無視して、似て非なる商売を進めてしまったソニーにユーザーが乗ってこないのも、当然の結果だと言える。

 もう一つの問題は、ソニーのプレーヤーと組み合わせる音楽管理ソフト「SonicStage」が、あまりにも使いにくいという点だ。

ソニーの音楽管理ソフト「SonicStage」。画面はSonicStage 2.3のもの

 転送機能の使い勝手もそうだが、あまりにも「アルバム」という単位にこだわりすぎる音楽ライブラリの管理方法が、アルバム中の曲ですら単体で購入できる音楽配信という売り方に対して、時代遅れなのである。さらにハードウェアがMP3に対応したからには、少なくともユーザーが自由に選択できるよう、SonicStageにMP3のエンコーダを載せるべきだ。

 この点を改善するには、おそらく現状のSonicStageに手を入れたぐらいではダメだろう。「アルバム」という縛りから解放された管理構造を持つ、新しいソフトウェアの開発が必要になるだろう。

新たなる「次の一手」

 DRMに関連しては、すでに改革が進んでいるものもある。メモリースティックだ。一時はサイズ違いでスタンダードとデュオ、マジックゲート(DRM)対応の有無、転送スピードの差でノーマルとPROという、3条件で複雑怪奇なラインナップを形成していた。だが現在は、過去のモデルをさっぱりディスコンにして、整理し直している。

 現行では全モデルでマジックゲート対応となったため、その区別はなく、違いはサイズと転送速度だけとなった。SDカードの考え方と同じである。

 この動きに関連するソフトウェア配信事業として、映像コンテンツ事業で比較的好調の芽が出始めている。PSPを使って再生する「メモリースティックビデオ」が盛り上がり始めているのだ。「PDAシネマ」を配信するオープンゲート株式会社では、メモリースティックビデオ対応のコンテンツが予想外の反響であったという。

 久夛良木氏はPSPとUMDを使った映像販売ビジネスを展開したいようだが、この分ではそれよりも先に、映像配信ビジネスを考えた方がいいかもしれない。そう言う理由は、DRMの性質が音楽とは違うからだ。

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