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エアチェックの本質麻倉怜士の「デジタル閻魔帳」(2/4 ページ)

» 2005年02月28日 12時53分 公開
[西坂真人,ITmedia]

――オーディオからビデオ、そしてアナログからデジタルと時代が移行するにつれ、“エアチェック”も変わっていくのでしょうか?

麻倉氏: 個人で放送を録る先駆けの時代から始めて現在まで40年以上続けてきて思うのは、エアチェックというものは“特別なイベント”でした。放送をパッケージングにできるという喜びは素晴らしいものなのです。オーディオ全盛時代を経て、あらゆる信号処理がオーディオからビデオへと移行したわけですが、エアチェックという本質は変わらないものでした。

 エアチェックには「タイムシフト(コンテンツの時間移動)」、「繰り返し視聴するためのパッケージ化」、「永久保存版としてのアーカイブ」という3つの役割があります。20世紀のエアチェックはいわゆる“タイムシフト”的なものでしたが、21世紀のデジタル/多チャンネル/ハイビジョン時代のエアチェックは、「パッケージ」「アーカイブ」の役割が大きくなっています。ちょうどラジオのエアチェック対象がAMからFMに移行していったのと似ています。

――と、いいますと?

麻倉氏: AM放送とFM放送は質的にすごく違っていて、AMはずっと残したいというものは少なかったのですが、FMは音質が良くなっただけでなく、音楽番組も放送局/選曲者(DJ)の価値観など付加価値が加わったキチンとしたコンテンツが出てきました。AM時代は「タイムシフト」のエアチェックでしたが、FM時代は「パッケージ」、「アーカイブ」のエアチェックになったのです。

――確かに最近のハイビジョン放送は、コンテンツの質が向上してますよね。

麻倉氏: BSデジタル放送で「本当に残したい」と感じる番組が増えています。その大きな理由の1つは、やはりハイビジョンの画質が素晴らしいということ。私は自宅のシアタールームを業界関係者に開放しているのですが、みんな日頃ハイビジョンをほとんど観ていないんですね。そしてこの(QUALIA 004とQUALIA 001を使った)ハイビジョンシアターで視聴すると皆が異口同音に「ハイビジョンはこんなに素晴らしいんですね。これなら録画しておかないと絶対に損だ」と言うのです。

photo QUALIA 004に最近QUALIA 001が加わるなど、ますます進化する朝倉氏宅のハイビジョンシアター

ハイビジョンエアチェックは“一期一会”

麻倉氏: 私はよく「ハイビジョンのエアチェックは“一期一会”」と言っています。素晴らしいハイビジョン番組はなかなか再放送しないという点もありますが、仮に再放送したとしても、それはあくまでも“再放送”でしかないのです。その瞬間、現在放送している“ファーストワン”を録画するということこそエアチェックの醍醐味。それは単に「番組を記録する」ということだけでなく、「自分が生きた証」をそこに刻むようなものなのです。

――“一期一会”的なコンテンツとは、例えばどんな番組でしょうか?

麻倉氏: NHKのBSデジタル放送で毎年行っている1月1日のニューイヤーコンサートなどは、まさにその典型でしょう。ウィーンでやっているコンサートを、地球の反対側の日本でリアルタイムに楽しめてしかも画質、音質、演奏内容が素晴らしい。特に昨今は5.1chの生中継ですからね。イベントの時間が共有できるという、あたかも地球が1つのコンサートホールになったかのような体験ができるのが生放送の魅力であり、それをエアチェックし、後で再生すれば、そのときのイベントの感動がよみがえるのです。物理的なコンテンツの移動だけでなく、気持ちや精神状態、歴史性までも包括するのがエアチェックなのではないでしょうか。最近、ハイビジョン放送の内容がよくなってきたので、特にそう感じます。

 FMエアチェック時代はすごく録音しましたが、(前述のFM誌への投稿のように)ほとんど再生していません。ですがハイビジョン時代になったら、忙しい合間にもなんとしてももう一度観たいという欲求が、すごく増えているのです。

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