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最強”を狙うアルカリ乾電池――マクセル「イプシアルファ」第3回 アルカリ乾電池のスペシャリストが語る「最強電池」への道

» 2005年04月18日 00時00分 公開
[ITmedia]

 汎用性の高いアルカリ電池ながら、デジカメなど高負荷の機器でも高いパフォーマンスを発揮する新「イプシアルファ」。アルカリ乾電池が登場して40年以上経過しているが、たゆまぬ努力がその原動力となっている。そんなスゴイ製品が製造されている現場を是非とも取材したいと編集部は大阪府茨木市にあるマクセルの工場を訪ね、お話を伺った。

photo 大阪府茨木市にあるマクセルの工場
photo 工場内部の様子

“Maximum”から始まったマクセルの乾電池
――「乾電池作りは王道のつみ重ね」

 社名にもなっている「マクセル」の名称は、創業製品である乾電池ブランド「Maximum Capacity Dry Cell」に由来する。Maximum(最強の)というその名が語るように、電池への飽くなき性能追求が日本最初のアルカリ乾電池の製造、そしてクラス最強のアルカリ乾電池「イプシアルファ」へとつながる。

 そもそも乾電池の性能アップは細かな積み重ねの中から生まれてくるものだという。2000年に投入された「パワータンク構造」は、正極缶の厚みをスリム化し、封口部分をシンプルにした構造で、乾電池本来のパワー源となる物質をより多く入れるものだ。これはもちろん2004年に登場したイプシアルファ、2005年4月に登場した新イプシアルファにも使われている。

 新イプシアルファの特徴は200ミクロン以下の微粒亜鉛粒子のみで構成された負極剤「ミクロジンク」にある。「細かな亜鉛粒子を作るだけでも技術的に難しい中で、従来よりもシャープな粒度分布の亜鉛を作ることができました。細かくすると物理的に流動性が悪くなり、生産性が低下してしまいますが、ノウハウを投入することで解決しました」(エナジーソリューション事業グループ 一次電池事業部 伊東範幸氏)

photo エナジーソリューション事業グループ 一次電池事業部 伊東範幸氏

 微粒亜鉛粒子のみを利用することのメリットとデメリットを理解し、そのデメリットを解決する努力が続けられたからこそ、ミクロジンクを使用した新しいイプシアルファを投入することが可能になった。

 「新しいイプシアルファを出すにあたっては、これまでの製品を作るうえで蓄積されたノウハウがいかされています」(エナジーソリューション事業グループ 事業企画部 澤井道則氏)というように、細かな積み重ねが息づいている。「乾電池の開発は王道のようなものがあって、その流れのなかで少しずつ良くなっていくのです。ある日突然アイディアが出て、すごい結果が出るということはないのです」

photo エナジーソリューション事業グループ 事業企画部 澤井道則氏

 そのほかにも新しいイプシアルファには、内部抵抗を低減するさまざまな工夫とノウハウが投入されている。これらもこれまでの乾電池開発の中で培われたものであり、新イプシアルファはミクロジンクを採用した技術的なフラグシップのアルカリ乾電池であると同時に、“王道”の頂点に立つ製品だといえる。

「ある種のタブーに挑戦した製品」
――イプシアルファに込められた思い

 化学物質の反応速度を上げ、より大きなパワーを取り出すには物質の面積を増やせば(細かくすれば)よい。粒の大きなコーヒーシュガーと小さなグラニュー糖ではどちらが早くコーヒーを甘くできるか? これはコーヒーを飲んだことがある人なら経験的に分かるだろう。

 乾電池の場合も同様で、反応物質を細かくすれば反応性が良くなり、大きなエネルギーを取り出せる。しかし、「逆に言えば危険な面も出てきます」(澤井氏)と、単純に細かくすればよいというものではないそうだ。

photo フォトイメージングエキスポ 2005の同社ブースに展示されていた200ミクロン以下の微粒亜鉛粒子(写真右)

 「反応性を上げればガスの発生による液漏れを起こす可能性が高くなります。何よりも安全性を考えなければいけません。ミクロジンクを100%採用したイプシアルファはパワーと安全性を両立するために、ある種のタブーに挑戦した製品だといえます」(澤井氏)

 こうした挑戦の背景には、アルカリ乾電池の限界を追求する同社の姿勢がある。「イプシアルファは、アルカリ乾電池でもここまでできるんだ、という思いを込めた技術的なフラッグシップ製品という位置付けなのです」(澤井氏)

 ちなみに同社が最初に投入した乾電池「Maximum Capacity Dry Cell」も髭剃り用のハイパワー乾電池として登場したという経緯がある。最高の乾電池、ハイパワーの乾電池を作り出すという姿勢は創業時から脈々と受け継がれているのだ。

本当の「ユーザーメリット」がある乾電池の提供を目指して

 乾電池に求められるパワーは近年増大している。これは市場の主流がマンガン乾電池からアルカリ乾電池にシフトしているほか、ニッケル系乾電池といった重負荷機器での使用によりフォーカスした製品が登場していることからも明らかだ。なぜ、その状況下で同社は「アルカリ乾電池」のパワーアップを進めるのか。

 「アルカリ乾電池といえど時計やラジオ、リモコンといった軽負荷機器で使われることも多いので、重負荷機器での使用に極端に注視してしまうのはどうかと思います。幅広い負荷に対応した、互換性が高いものを目指します」(伊東氏)。「軽負荷の機器が非常に少ないならばともかく、テレビ、ビデオ、エアコン、ステレオ、DVDレコーダーならばほとんどの機器にリモコンがついていて、その数も決して少なくないはずです。だからこそ軽負荷を無視した作りにはできないと考えます」(澤井氏)。

 ここ数年各社から登場しているニッケル系乾電池は重負荷(極端に言えばデジカメでの利用に特化した)に強いという特性を持っている。だが、現実にはすべてのユーザーが乾電池を重負荷機器で使っているわけではない。同社がアルカリ乾電池のパワーアップを進めることについては、アルカリ乾電池の汎用性、互換性を重視し、本当にユーザーメリットがある製品を提供したいという考えが根底にある。

 また、電池には使用推奨期限があり、使用推奨期限を過ぎた乾電池を使うこともできるが、本来の性能を発揮することはできない。新イプシアルファは電池本体の使用推奨期限の文字が大きくなり、見やすくなっているほか、つり下げ式のブリスターパックの背面に確認窓が設けられており、電池本体に印字された期限が直接目で見えるようになっている。

photo ブリスターパックの背面に設けられた確認窓から、電池本体に印字された期限を直接確認できる

 同社はアルカリ乾電池New「ダイナミック」で使用推奨期限を4年に向上させたほか、新イプシアルファではアルカリ乾電池としての汎用性をそのままに、より重負荷機器での利用に適したパフォーマンスを実現した。

 次世代製品についてはまだはっきりとしたことは決まっていないとしながらも、乾電池の最大のメリットである汎用性・互換性を保持したままで、これまで同社が推し進めてきた乾電池の“王道”をより突き進めていく姿勢を示す。「重負荷○%向上などではなく、ユーザーにメリットのある形の切り口を考えています」

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