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著作権の“盾”を破れ――テレビ番組ネット配信の課題

» 2005年06月28日 22時49分 公開
[岡田有花,ITmedia]

 「著作権が“盾”に使われているのではないか」――6月28日に総務省が開いたシンポジウム「ブロードバンド・コンテンツの政策・流通の促進に向けて」で、総務省の清水英雄政策統括官はこう指摘した。テレビ番組など映像コンテンツのネット配信は何度も試みられてきたが、ビジネスとして軌道に乗った例はほとんどないのが現状。権利処理の難しさが普及を阻んでいるとの指摘もある。

 総務省は、放送事業者や権利団体とともに、権利処理を円滑化する実験「権利クリアランス実験」を2002年から2005年まで実施。著作権を“言い訳”にせず、映像をネット流通できる体制を模索している。

photo シンポジウムには、放送やネット事業者など400人あまりが集まった

 清水政策統括官は、日本のテレビコンテンツは海外に比べ、2次利用しにくいものが多いと指摘。「このギャップが5〜10年後に大きな差になるかもしれない」と危機感を募らせる。

 日本のテレビ番組の権利処理は複雑で面倒だ。数十分の番組でも、関わる権利者や権利団体の数は膨大。2次利用する際は、その1人1人から電話やFAXで許諾を取るという地道な作業が必要だ。

 「例えば、番組中のBGM 1曲1曲の原盤権の権利者を把握し、それぞれに連絡をとらねばならない。音楽の処理だけでも大変な苦労だ」――フジテレビジョンライツ開発局アーカイブセンターの板垣陽治メタデータ推進部長は、TBS、テレビ朝日と共同で進めた番組のネット配信事業「トレソーラ」での権利処理を振り返ってこう語る。

 権利者を特定しながら、効率的に連絡して許諾を得、利益配分するシステムがあれば、コンテンツ流通がより円滑になるはず――著作権クリアランス実験はこういった仮説のもとに行われた。

“利益相反”事業者を結んだ唯一の実験

 実験には、NHKやフジテレビ、テレビ朝日などテレビ6局と、音楽著作権協会(JASRAC)や日本レコード協会、実演家著作隣接権センター(CPRA)など7つの権利者団体、全日本テレビ番組製作社連盟(ATP)が参加した。

 放送局と権利者団体が、それぞれのコンテンツのデータや権利者名簿などを「J/Meta」と呼ばれる汎用メタデータに変換。データベース同士をネットでつなぎ、コンテンツ利用申請や許諾、実績報告、利益配分などの権利処理を一元処理できるようにした。

photo 実験のシステム構成

 実験は「利益相反と言われる権利者と利用者(放送局)を結んだ唯一の糸」(日本芸能実演家団体協議会の椎名和夫氏)だったという。当事者同士が実際にシステムを運用し、意見交換できたことや、実用的な統一仕様が定められたことなどについて、参加企業・団体の評価は高いようだ。

利益配分のルールが必要

 実験を通じて課題も浮かび上がった。「権利者に配分する(利益の)値段を決めるルールがないと、いくらシステムがあっても利用されない」と指摘するのは、テレビ朝日編成制作局の高橋英夫ライツ推進部長だ。

 テレビドラマのストリーミング配信時の利益配分ルールに限っては、経団連がこのほど暫定的に策定した。情報料収入(視聴料)の8.95%と広告料収入の1.35%を著作権使用料として支払うというものだ。ただ、対象コンテンツはドラマのみで、無料配信も想定外。2005年度限定の基準で強制力もなく、テスト段階の域を出ない(関連記事参照)

 機械的に処理しづらい権利もある。日本音楽事業者協会の中村吉二事務局長は「イメージチェンジしたいなどの理由で、過去の映像を出したくない実演家もおり、人間的に判断して2次利用を許可しないケースもあった。権利処理をシステム化してしまうと、こういった判断ができなくなる」と危ぐする。

 今回実験したのは、権利者団体と放送局間の権利処理のみ。権利を持つ個人との交渉をどうするかも、解決すべき課題の1つだ。

どうなる? サーバ型放送

 総務省は、ブロードバンド環境でメタデータを活用したコンテンツ流通を試す「高度コンテンツ流通実験」も2002年から2005年にかけて行った。放送局や通信事業者、セットトップボックス(STB)メーカーなどが参加し、サーバ型放送を使って視聴内容を自由に編集できるシステムなどを実験した。

 フジテレビの板垣メタデータ推進部長は「メタデータのガイドラインができたのは大きな成果」と評価。TBSメディア推進局の渋谷敏総合企画部担当局次長は「放送と通信の融合がタブー視されていた3年前から、放送事業者が通信を意識できた意義は大きい」とした。

 ただ、ビジネス化にはまだ遠そうだ。メタデータやSTBの仕様標準化、ベストエフォート型のネット配信でどのように“放送品質”を確保するかなど、課題は山積みだ。

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