「CEATEC JAPAN 2005」の展示会場に、ひときわ人口密度が高く、熱気あふれる場所があった。注目のワンセグ放送ではない。フルHDの大画面ディスプレイでもない。自転車に乗ったロボット「ムラタセイサク君」のデモンストレーションだ。
身長約50センチ、体重約5キロという小柄なボディに姿勢制御機構を備え、補助輪なしで自転車をこぐ。「曲がる」「停まる」もお手の物。地に足をつけることなく、タイヤだけでその場に静止したり、後ろ向きに走行したりと、人間よりずっと器用だ。
バランスをとる仕組みは、ジャイロセンサーとフライホイール。ジャイロセンサーが左右の傾きを検出すると、前進しているときはハンドル操作で、停止しているときはお腹のフライホイールでバランスを保つ。ホイールを回転させ、加速/減速時に生じるトルクが傾きとは逆に働くようにするわけだ。「ファンのようにみえるホイールが姿勢が崩れるときの“ぐらぐら”を吸収します」(同社)。
また自転車のフレーム部には、路面の段差を検出するショックセンサーが組み込まれている。たとえば路面に凸凹が多くてセンサーが反応したら、セイサク君は走行速度を落として慎重にその場を切り抜ける。
デモンストレーションでは、一本橋をゆっくりとわたる「超低速直進」、その場で静止する「不倒停止」、前進/後進の合わせ技「バックオーライ」など、持ち技を次々に披露。前方に障害物が現れると、ぶつかる前にちゃんと「寸止め」した。セイサク君の胸には超音波センサーがあり、障害物との距離を計測しているのだ。これは、自動車のバックソナーなどと同じ技術だという。
セイサク君は、無線LANを通じてコントロール用のPCとデータをやり取りしつつ、あらかじめ設定した経路を正確にトレースする。このとき、位置検出用のジャイロセンサーが曲がる際の水平方向の角速度を検出し、自分がどの程度の角度で曲がったかを割り出しているという。
というように、かなり優秀なムラタセイサク君だが、実は開発当初は補助輪なしでは走れなかったという。6人の技術者からなる開発チームは、ジャイロの取り付け位置から各種パラメータの設定など試行錯誤を繰り返し、ついに不倒停止を可能にした。「人間の大人だってなかなかできません」。
もっとも、「最初に企画が出たのは、1年ほど前」というから、セイサク君が補助輪を卒業するまでにさほど時間はかかっていない。「開発者は、工場で使う工作機械を作っている人たちです。つまり、既存の設備ではできない、新しいモノを作り出しているということ。その底力を見てもらいたい、という感じでしょうか」(同社)。
静止しても倒れないセイサク君の姿に、技術者のプライドが見えたような気がした。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PR