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開発者が語る「SED」の“今”と“これから”CEATEC JAPAN 2005インタビュー(2/3 ページ)

» 2005年10月05日 23時59分 公開
[本田雅一,ITmedia]

――薄型の超高精細ブラウン管画質というわけですね。

森氏: その通りなのですが、実はブラウン管との比較展示を行ってみて初めて気づいた事があります。なんというか、ブラウン管よりもSEDの方が奥行き感を感じるのです。

――奥行き感というと、絵作りという側面もありますが、やはりコントラストの高さとトーンカーブの素直さ、暗部の見通しの良さなどが必要でしょう。電子が蛍光体に当たって発光する原理は同じなのに、なぜ絵が違ってくるのでしょうか? コントラストも10万:1でブラウン管と数値的には同等ですよね。

森氏: その10万:1という数字。実はもっとあるのかもしれません。というのも黒レベルがとても沈んでいるため、測定装置の性能的な限界からコントラストを正確に計測できないからです。そこで測定できる限界ということで10万:1という数字を公表しています。加えてSEDはブラウン管よりもピークの輝度を高くできます。その分、ブラウン管よりもコントラスト感が高く感じるのではないでしょうか。SEDの場合、黒の表現で予備放電は不要で完全に無発光の状態になります。隣接画素からの影響もないため、実際のコントラスト比は無限と言ってもいいかもしれません。

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――コントラストが高くなると、それに見合う階調特性が必要になりますね。

森氏: そうです。SEDは階調性が優れています。加えてブラウン管にはないフォーカス感があり、ピーク輝度も稼げる。これらの違いがトータルで効いて、ブラウン管との違いが出ているのだと思います。

――高コントラストに見合うパネルの階調制御は可能になっているのでしょうか?

森氏: パネルへの入力は各色10ビットになります。液晶パネルやPDPの場合、パネルへの入力は8ビットで、それをドライバー側でエンハンスして階調を増やしています。これに対してSEDはネイティブでの10ビットですから、当然、映像回路やドライバー側で工夫をすれば、もっと高い階調性を引き出すことが可能です。

――SEDは発光原理こそブラウン管と同じですが、画素は固定式ですからデジタルの映像処理が画質に大きく影響するでしょうね。東芝は初代の液晶Faceでこそ、固定画素ディスプレイを手なずけるのに苦労していましたが、昨年ぐらいから改善し、今年のメタブレインPROで画質的にグンと良くなった印象を持ちました。SEDに使われている映像処理回路は、これと同じものなのでしょうか?

森氏: いえ、現在展示しているのは、昨年ぐらいのFaceで使っていた古い世代のものです。最終的なテレビの画質は、テレビセットを開発している部隊が作り込みますから、我々は既存の映像処理回路をそのまま流用して試作を続けてきました。来年の製品化では、今年の回路を基礎にSEDに最適化したものを使いますから、もっとキレイになりますよ。実際のSED用映像回路での絵というのは、実は誰もまだ見たことがないんです。開発する側としても、恐ろしくいい画質になるんじゃないかと期待しています。

――SEDや原理的に同じ方式のFEDは、夢のディスプレイと言われてきたわけですが、何がそれほど難しいのでしょう。

森氏: 電子を放出する素子と蛍光面の間は僅か2ミリ。その間に10キロボルトの仮想電圧をかけ、それを制御しなければなりません。ブラウン管は30キロボルトですが、電子銃と蛍光面の間は50センチあります。ほとんどの技術者が、これだけ強い電界強度をコントロール出来ることに驚きます。また、この2ミリの間隔で作ったパネルの中は真空になっていなければなりません。これが製造上の最も大きな壁です。ガラスを支えるため、数10センチ間隔でスペーサーを入れますが、55インチのパネルでも横方向に数本のスペーサーしか入らないことになります。

――ではキヤノンと東芝は、なぜSEDの実用化にこぎつけたのでしょうか? 技術的なブレークスルーだけでなく、組織としての力が無ければ、ここまで進むことはできないように思います。

森氏: もともとSEDはキヤノンが基礎研究を重ねて来た技術ですが、しかし実際のデバイスとして仕上げるためには不足する要素も多く、実用化までに時間がかかりすぎると考えたそうです。東芝は真空管やブラウン管で、真空の中で電子を飛ばすノウハウを持っていました。また、我々はブラウン管で世界シェアトップだった時代もあり、世界的にもこの分野で高い技術があります。ところがそのブラウン管時代も終わり、さてどうするか。様々な技術を検討しましたが、ブラウン管の後継といえるものはSEDしかありませんでした。そこで、両社で共同開発を行おうということになりました。

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