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人は後世に何を残せるか小寺信良(3/3 ページ)

» 2005年11月07日 10時00分 公開
[小寺信良,ITmedia]
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法律は何から何を守るのか

 最近筆者は、あまりにも著作権法にこだわりすぎるのは、いいこととは思えなくなってきている。芸術性を認めながら人間の創造性を保護し、かつ多くの人の幸福に貢献するのは、もうこの法律では無理なんじゃないかという気がしてならないのである。

 米国では1998年に、著作権保護期間が延長された。個人の著作権者場合は、死後50年から70年に、企業の場合は作品誕生後75年から95年に延長された。なんでこうなったかというと、早い話ディズニーがミッキーマウスの著作権を延命させるために運動したからである。

 日本の著作権法も、著作権保護期間70年に延長しようという動きがある。バカバカしい。米国の一私企業が私利私欲のためにねじ曲げた法律を勝手に世界標準に祭り上げて、「それオイシイじゃん!いただきっ」というわけである。

 死後70年ってどれぐらいかというと、例えば筆者に孫ができたぐらいで死んだとしよう。その孫が70歳になるまでなんだから、ひ孫も子供を作ってひひ孫ができるぐらいまでは著作権が残ることになる。

 これから先、筆者がどんな名作を残すかは自分でも保証の限りではないが、もし仮に後世に残るベストセラー作品を書いたとしても、孫やひ孫までそれでメシを食って欲しいとは思わない。それよりも、そういうひいじいちゃんが居たことを誇りに思い、それを超える作品を作るなり、自分で切り開いた充実した人生を送って欲しいと思う。人の進歩とは、本来そうあるべきだ。

 米Googleの話だが、著作権消滅書籍の全文検索をスタートさせて、出版業界の反発を食らっているという。法的に言えば、著作権が切れたものを選んでスキャンしているわけだから、何も問題ないように思える。本をスキャンするのがいけないのか、それとも検索できるのがいけないのか。

 筆者の書く著作物は、多くの人の役に立つこと、すなわち益世を目指しているつもりである。Amazonが書籍の全文検索を開始したが、筆者の一部の著作も、このプロジェクトに参加している。

 こういうものは、文学作品など全体を読まなければわからないものには向いているが、筆者が書くような見開きで一ネタ完結してしまうような入門書や技術書は、検索部分だけでも十分役に立ってしまう。もちろん内容を見たのちに本を買ってくれれば筆者の利益になるわけだが、あまりそこにこだわりすぎても仕方があるまい。時代が書籍のあり方は変わるべきと求めているのならば、利益と益世のバランスが取れるあたりで手を打つしかない。

 筆者が人として後世に残すものが、権利や保険金ではなく名誉であるならば、それは筆者の価値観の中では、「幸せ」に相当するのだが、これもまた人それぞれであろう。


小寺信良氏は映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。

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