コピーワンスとは、デジタル放送による番組をDVDレコーダー(CPRM対応のDVD-R/-RW/-RAM)、ハードディスク(HDD)、D-VHSなどへ録画できるのが、「1回限り」に制限される制度である。
HDDに録画した番組をDVDに再録画しようとすると、HDD上の番組は、DVDに移動した後にHDD上から消去されることになる。この仕組みを「ムーブ」と呼ぶ。ムーブが終わると、元の録画画像はHDDから消え失せているし、DVDからもう一度、HDDに戻すこともできない。
アナログのVTRの時には「私的利用」の範囲内であれば、何度でも録画・ダビングできた。そのため、放送がデジタルに変わった途端に録画が1回だけに制限されることには、ユーザー側から多くの不満の声が上がっていた。すなわち、タイムシフト視聴がライフスタイルともなっており、自らのアーカイブを作成する使い方も一般的なものになっているだけに、録画が1回だけしかできなくなるのでは、かえって不便になるだけであり、デジタル化はデメリットでしかないという考え方である。
コピーワンスの主眼は「著作権の保護」である。デジタル放送をデジタル媒体に録画すると、何度繰り返してダビングしても、アナログの時と違って、画質も音質も劣化しない。簡単に海賊版が作られてしまうことにもなり、著作権の保護が難しくなることは間違いない。
流通性を高めることにより利便性を向上させることと、著作権を保護することは、なかなか両立の難しい問題である。何らかの調整が必要になることは間違いない。
ただ、ユーザーの不満の声も無視して構わないというわけにはいかない。
例えば、一度録画した番組を自分の手で編集したり、加工したり、といったアナログ放送時代には自由自在に行えていたことが、デジタル化によりできなくなることは、明らかにテレビ番組を録画する楽しみを減らすことになる。
HDD内蔵型のDVDレコーダーを使用しているユーザーからは、非常に不満の残る失敗が起こりやすくなっていることも指摘されている。
HDDに記録した番組を、パッケージとして保存するためにDVDメディアにムーブすることは複製に当たらず、保存媒体の変更に当たるため、現在でも認められている。その場合、HDDの映像は移し替えに伴って自動的に消去される仕組みになっているが、操作ミスやディスクの不都合で移し替えに失敗し、DVDはもちろんのこと、HDDに録画してあった番組まで消えてしまうといったトラブルも多いというのだ。
単純に機器の性能の問題に帰結するようにも思われるが、総務省はなぜか、現状の制限を続けたままでは地デジの普及に支障を来たすのではないかと判断し、今回の中間答申の中で見直す方針を宣言した形になっている。
だがそうなると違法コピーが出回りやすくなることは間違いないので、著作権団体から反発の声が上がることは必至だ。そのため、コピーワンスの見直しは、私的利用の範囲内で使い勝手を改善させるという狙いから、2、3回程度に限って録画、複製を認める方向で放送業界などと調整に入るようだ。
それにしても今般の中間答申では、役所主導で進められているせいか、IP方式による地デジの再送信についての検討についても、肝心の著作権団体への根回しがなされないまま、やたらと結論を急いでいるように見えてならない。いくら放送業界と調整しようとも、著作権団体が了解しないことには実現不能なことばかりだということが分かっているのだろうか。
逆に、コンテンツの保護がきちんとできないということになると、良い番組、良いスポーツイベントの放送権調達ができなくなってしまうので、かえって普及を阻害することになることも懸念されている。
B-CASを入れたのも、コピーワンスを入れたのも、コンテンツに係る著作権保護が主眼であったことからすると、それこそ極論すれば、コピーフリーのようになってしまったら、名だたる著作権者たちは皆、退いてしまうことになりかねない。コンテンツの保護をきちんとすることが普及につながると考えていた経緯もあり、放送事業者からも反発の声が聞かれる。
そもそも、これまで放送事業者とメーカーとの間で新しい商品を作ったらどうかといった話合いが持たれてきたことでもあり、そのレベルで済んだ話であったのが、なぜあのように中間答申で天下の一大事みたいに普及の妨げになると書かれたのかに不快の念を覚えた事業者の方が多かったようだ。
コピーワンスの見直しに反対だとは言わないが、単純にタイムシフト視聴を行うだけならば、1回録画ができれば構わない話であり、アーカイブというのなら、地震や選挙等のテロップが入ってしまう番組を使って作らずとも、DVDを買ってきた方が合目的的であると思われる。
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