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「コピーワンス」大そもそも論小寺信良(1/3 ページ)

» 2005年11月21日 11時30分 公開
[小寺信良,ITmedia]

 いわゆる「iPod課金問題」で揺れに揺れた補償金制度だが、文化審議会著作権分科会法政問題小委員会が11月11日にまとめた報告書案には、「私的録音・録画についての抜本的な見直し」と、「補償金制度に関してもその存否やほかの措置の導入も視野に入れ」という1文が盛り込まれた。とくに「存否」の文字が入れられたことは、消費者の意向が反映された成果と見てもいいだろう。

 この補償金の問題は、音楽産業の行きすぎた権利主張に対する抗体反応が、録音補償金という部分から現われたわけであるが、その一方で映像産業でも同じようなことが起こりつつある。だが反応の現われは、補償金制度ではない。「コピーワンス」という行きすぎた権利主張に対して、抗体反応が起こりつつあるのだ。

 行政としては以前から「知的財産推進計画2005」というプロジェクトの中で、コンテンツ利用促進などについて動いてきたわけだが、コピーワンスの見直し論はその中で浮上してきた。実際に知的財産戦略本部内にあるコンテンツ専門調査会では、デジタルコンテンツ・ワーキンググループを発足し、11月1日の第1回会合をもって、この問題に関する検討をスタートさせている。今後コピーワンスの問題をウォッチしていきたいのなら、このワーキンググループの動向に注目しておく必要があるだろう。

 補償とDRM。音楽と映像の世界で相次いで現われたこれらの問題は、一見、別次元の話のように思える。だが根底は同じであるように思えてならない。

放送の暗黒面

 そもそもコピーワンスとは何なのか。まずそのスタート地点は、2004年4月5日から実施された「BS/地デジ放送のスクランブル化」までさかのぼる。ここで放送波にスクランブルをかけることで、B-CASカードを挿入していない受信機では受信できない、ということになった。

 だがこれは、単にB-CASカード入れればOK、という話ではなかったのだ。これこそが、コピーワンスの発端だったのである。つまりスクランブルをかけるときに、コピーワンスのデジタル制御信号も一緒に混ぜた。そしてこれ以降、録画機は「再コピー禁止」として録画しなければならないことになった。

 B-CASで使用されている著作権保護の仕組みを、RMP(Rights Management and Protection)という。で、このコピーワンスで運用するよ、と決めたのは、「RMP協議会」という組織だ。これはNHKと民放各社から構成されているという。

 いやしかし、だ。テレビ放送という公共性の高いメディアに対して、ある企業が発行するカードがないと見られないというものすごくワガママな仕組みを作り、それをテレビ局だけの話し合いだけで実行しちゃっていいんだろうか。

 これを決定するにおいて、学識経験者から広く意見を聞いたという話もないし、パブコメで意見を募集したという話もない。ましてや総務省のなんとか委員会がどうこうしたとか、国会で決議したという話もない。

 しかも、だ。その鍵であるB-CASカードを握っているのは、公共団体でもなんでもなく、株式会社ビーエス・コンディショナルアクセスシステムズという、1私企業なんである。こんな重大な権限を、ごく普通の株式会社が持っていていいものなんだろうか。

 もちろん株式会社であるからには、業績が悪ければ倒産もするだろうし、株式公開すれば楽天やライブドアに買われちゃったりするかもしれない。ホリエモンもフジテレビなんか買おうとせずに、こっちを買っちゃえば良かったのである。いや良かないか。だが1私企業が放送に関するすべてを掌握しているというのは、ある意味非常に危うい状態である。

 さらに、だ。B-CASカードがチューナーに対して発行される条件として、テレビ、ラジオ、データ放送の全波が受信できなければならない、としている。例えばテレビとラジオは受信できるが、データ放送は受信できないチューナーがあるとしよう。パソコンに搭載するデジタルチューナーを考えて貰えばわかるが、パソコンでデータ放送なんか受けてどうする? インターネットのほうが全然速いし情報も豊富だ。

 だがメーカー側には、それを判断する権限すら与えられないのである。この仕様を満たさない場合は、メーカーに対してB-CASカードの発行を停止するという形で、株式会社ビーエス・コンディショナルアクセスシステムズが、「懲罰」を与えることが可能になっている。

 こういう支配的な立場の企業が存在して、その権力を一方的に行使しているということは、独占禁止法違反のような気がするのだが、放送事業とはそこまでは「アンタッチャブル」なのだろうか。

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