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放送事業の「外資規制」にある矛盾西正(2/2 ページ)

» 2005年12月02日 10時41分 公開
[西正,ITmedia]
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110度CS放送事業についての考え方

 役務利用事業が認められることになった時から、既に大いなる疑問が投げかけられていたのが、同じCS放送事業でありながら、東経110度CS放送(以下、110度CS)については引き続き委託放送事業者だけしか認められず、役務利用放送事業者が参入できないことについてであった。

 すなわち、同じCS放送事業であるにも拘わらず、110度CS放送事業に対しては、地上波放送やBS放送と同じ外資規制が課せられるということである。

 事業者の間から「国が放送と考えているのは、地上波、BS、110度CSだけであり、それ以外のものは放送とは認めていないのだろう」といった声が聞かれたことも記憶に新しいところである。

 行政サイドの重点の置き方については推測のしようもないが、110度CS放送についての今後のことを考えると、外資規制についての新たな論点を生み出すことは間違いなかろうと思われる。

 110度CS放送はBS放送と同じ軌道位置にあることから多くの加入者を得られることが期待され、スタート時に放送事業者が募られた時こそ競争が激しかったものの、実際にスタートした後は誰も予想し得なかったほど加入者が伸び悩んでおり、2002年に本放送が開始されながら、現段階でも加入者数はようやく25万件を超えた程度である。

 ある意味では慧眼(けいがん)であったと言えるのだが、110度CS放送の委託放送事業者は民放キー局をはじめとする大手事業者によるペーパーカンパニーとなっており、各チャンネルは番組供給事業者(番供)として参加する形となった。とは言え、衛星のトランスポンダー(中継器)の費用は番供が負担することになっているため、採算性という面では相当厳しい状況にある。

 110度CS放送にとって飛躍のチャンスと期待されたのが、地上波デジタル放送の開始に合わせてメーカー各社から発売された、地上波デジタル、BSデジタル、110度CSデジタルの三波のチューナーを搭載した三波共用のデジタルテレビ(三波共用機)の登場であった。テレビの薄型化と機を同じくして発売されたこともあり、地上波デジタル放送開始前の地域でも好調に売れているようであり、その普及は予想を上回るスピードとなっている。ただし、三波共用機が普及していく割には相変らず110度CS放送の加入者が伸び悩んでおり、番供の採算性はいっこうに向上していない。

 むしろ、新たな課題として、110度CS放送についてもHD化が急がれると言われるようになってきた。なまじ三波が受けられるテレビであるだけに、地上波放送とBS放送がHD画質で、110度CS放送だけがSD画質のままでは、明らかに見劣りしてしまい、引き続き加入者の伸び悩みを解消できないだろうと考えられたからである。

 しかし、HD化を実現するには多くの帯域を要するため、これまで以上にトラポン代を負担しなければならなくなる。今でさえ厳しい環境にある番供にとっては、非常に過酷な要求と言えるだろう。

 そこで検討されることになったのが、110度CS放送についても委託放送事業者だけでなく、役務利用放送事業者が参画できる道を開くべきだという考え方である。現状の委託放送事業者に代わり、大規模な役務利用放送事業者が放送を行うこととし、その下に番供が入るという構図である。投資負担の軽減という電気通信役務利用放送法の制度趣旨からすれば、まさに今の110度CS放送に適用していくことが相応しいものと考えられる。

 大規模役務利用放送事業者が1社ないしは2社という数で放送を行っていくこととすれば、チャンネルの入替えも容易であるし、何よりHD化の推進にとって非常に有効であると思われる。

 今後の展望からしても、サッカーW杯、北京五輪等々、三波共用機は一層の普及に拍車がかかっていくことになる。それに合わせて110度CS放送を活性化させていくためにも、大規模役務利用放送事業者の参画を認め、HD化を促進させることが不可欠であろうと思われる。

 そこで要検討課題として浮上してくるのが、役務利用放送事業者には外資規制が適用されないという問題である。冒頭に述べたように、放送事業に対して外資規制を課すことは決して間違えであるとは言えない。むしろ当然のことである。

 しかし、110度CS放送を大規模委託放送事業者が運営することになれば、必ずや外資による買収が起こってくると思われる。制度を改めることにより、HD化も含めて110度CS放送の魅力を高めれば、買収対象としても旨みのある存在となる。まして今の加入者の数字を見る限りでは、買収価格的にも「お買い得」なものとなるだろう。

 役務利用放送事業者には外資規制が課されてこなかったわけだから、110度CS放送の役務利用放送事業者にのみ外資規制を課すことは説明が難しいはずだ。そうかと言って、110度CS放送をまるまる外資に渡してしまってよいのかという議論もあるはずだ。

 そもそもの問題は、地上波放送、BS放送に加え、同じCS放送でありながら、110度CS放送にだけ外資規制を課してきたことの理由付けがあいまいだったことにさかのぼってくることになるだろう。

 それを明らかにすべき時に来ているとともに、わが国における放送事業に対する外資規制の在り方について、改めて真剣に議論されるべきなのではなかろうか。既存の地上波局の買収防衛策のみに偏ることなく、わが国の放送政策の妥当性自体が問われていると考えるべきだろう。

西正氏は放送・通信関係のコンサルタント。銀行系シンクタンク・日本総研メディア研究センター所長を経て、(株)オフィスNを起業独立。独自の視点から放送・通信業界を鋭く斬りとり、さまざまな媒体で情報発信を行っている。近著に、「IT vs 放送 次世代メディアビジネスの攻防」(日経BP社)、「視聴スタイルとビジネスモデル」(日刊工業新聞社)、「放送業界大再編」(日刊工業新聞社)、「どうなる業界再編!放送vs通信vs電力」(日経BP社)、「メディアの黙示録」(角川書店)。

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